センチメンタリズム
彼が消えた世界。ふと舞台は一面雪が降り積もったような白い部屋に変わる。いつからここにいたのか。部屋の四隅は塗り残されていて微かに黒ずんだ下地が見え隠れする。ペンキの上からの質感では部屋は大正時代くらいの古びた雰囲気を醸し出している。何故そう思うのか、あまり建造物に興味はないのだが、今の部屋にしては天井がやや低く、部屋の寸法の取り方も一回り小さいし、寄木細工のような表層を持っている。
彼はここに閉じ込められた。
私はそのことについて思いつく限りのことを言うように指示を受けた。
彼はここに閉じ込められたままで未だ消息を絶っている。でも私はここを知っている。では何故彼は存在しないのか。私もまた、彼からしたら存在しないのかもしれない。
彼はいつも外国製の葉巻を愛用していた。見た目はスマートな、よくあるようなシングルボタンの、仕立てはオーダーメイド、よく見ると織り方が袖の前の部分だけ微妙に違う。袖のスレ防止らしかった。彼はどっしりとして、鍛えた体を持て余すようにダイナミックに椅子に座った。子供や家族が僕にはいない、いたとしたら全く違う人生を送っていただろう、そういうとふと遠い目をした。それ以外は得体の知れないスケールの大きい目標を話し、いつもそれは実現していった。
全ての実績は本人を隠したまま雪の中へ。
言い終わるとスタッフは私を「箱」から出るよう促した
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