第84話 三つ巴の戦い③~魔狼視点~

 ギリアムに続いて『魔狼』は走り出す。


 待ち伏せ隊の指揮官であるアメスの所に行き、戦闘の帰結と令嬢達一行はどうなったかを確認する必要があったのだ。


 もし、令嬢一行がここを突破していてアメス達が追っているというのならそれはそれで構わない。自分達もこの街道沿いに追えば良いだけだ。


 アメス達待ち伏せ隊が最初に潜んでいた場所にギリアム達は急ぐ。


 そして、ギリアム達の目に飛び込んできたのは、ギリアムが最も可能性が低いと思っていた光景だった。


 そう…


 待ち伏せ隊が撃破されている事であった。


 その可能性が一番低いと思っていた光景が目の前に広がっていた事に『魔狼』の面々の動揺は思っていたよりも大きかった。


「な…」

「お、おい…これは…」

「まさか…あいつらがやったのか?」


 部下達の中に広がる動揺を本来はギリアムが沈めなければならないのだが、ギリアム自体がこの出来事に動揺しており沈めることをしなかった。


「だ、団長…」

「ああ…」


 部下の言葉にギリアムはようやく我に返ると、部下の動揺を沈める。


「落ち着け!!生きている者から事情を聞け!!」

「「「「「はっ!!」」」」」


 ギリアムの言葉に反応した数人が動き出すと他の部下達もそれにつられて動き出す。


「『目』は令嬢達を探せ!! 見つけたらすぐに戻ってこい。絶対に先走るな!!」

「「「「はっ!!」」」」


 ギリアムの命令に従い『目』と呼ばれた男達が二人一組で二組が令嬢一行を探しに出る。


 『目』は文字通り、『魔狼』の斥候を担当する者達の事である。斥候として非常に優秀である事に加え、戦闘力も高い頼りになる連中である。


「団長!!」


 部下の一人がギリアムに報告をする。


「アメス隊長はいません。どうやら連れ去られたようです」

「なんだと!?」


 部下の報告にギリアムは苦虫をまとめて噛み潰したような顔を浮かべる。アメスが連れ去れたという事は、間違いなく令嬢一行は尋問するつもりだという事を察したのだ。そして尋問の目的は何かを考えれば自分達の動向である事は間違いない。


「くそ…奴等はすでに先に行っている。急ぐぞ!!」


 ギリアムは先程までのノンビリとしていた自分を殴りつけたくなる。自分達がチンタラしている間に令嬢一行は先に進んでいたのだ。


 それにしても、奴等はどうやってこの数の兵達を退けたのだ?という疑問がギリアムの中に湧き起こる。


「待ってください、待ち伏せの連中はどうします?」


 幹部の一人の言葉にギリアムは咄嗟に応える事が出来ない。『魔狼』の戦力低下の事を考えればもちろん治療すべきだ。だがここで足止めを食えば令嬢一行を取り逃がすことになる。


「ケルガン、コーニに治療させておけ!! 他の連中は一行を追うぞ!!」


 ギリアムは吐き捨てるように言う。その言葉に部下達は不安げな表情を浮かべた。この場にいるのは『魔狼』しかいない。令嬢一行の部下達は誰もここに倒れていないという事は、ほぼ一方的にやられたという事だ。

 その事が分かっているからこそ、部下達は不安げな表情を浮かべたのだ。もちろん、ギリアムもその事は理解しているのだが、ここで取り逃がしでもしてしまえば、あの悪魔にどのような目に遭わされるかわかったものではない。例え逃げ出したとしても再び召喚されてしまえばそこまでだ。ギリアム達『魔狼』は相手がどのような強者であっても進むしかないのだ。


 部下達もその事を十分に理解している。だからこそ、無謀な戦いであっても身を投じるしかないのだ。


「行くぞ!!」


 ギリアムの言葉に『魔狼』は不安気な表情を浮かべて頷く。そこに幹部の一人が声を上げる。


「待ってください、団長!!」


 幹部の言葉にギリアムは不快気な視線をその幹部に向ける。


「斥候が戻ってきてからでも…」

「その間に奴等が逃げ切ったらどうする?」

「それであっても問題ないのではないでしょうか」

「何?」

「むしろ、ここで見逃して奴等が寝たところを襲った方が良いのでは無いですか」

「…」

「時間をかければ待ち伏せの連中のケガを治療し、戦力を増した状況で叩けます!!」


 幹部の言葉には説得力があり、その意見にギリアムが傾き始める。そこに斥候に放っていた『目』の一人が戻ってきたという報告が部下からもたらされる。


 『目』からもたらされた情報は、冒険者風のガキ二人が街道に罠を仕掛けている。ガキは男と女で装備品などから低級の冒険者と思われる。罠を仕掛けるのにかなり手慣れていることから、戦闘要員というよりも支援要員の可能性が高い。という内容である。


 『目』からの報告を受けて先程の慎重論を唱えていた幹部が意見をギリアムに言う。


「団長、そのガキ2人を捕まえませんか?」

「…そうだな。確かにそっちの方が…有利に事が進むな」


 ギリアムの言葉に『魔狼』の目に嗜虐的なものが混ざる。『魔狼』の構成員は決して、高潔な人格者ではない。弱者を踏みにじる事に忌避感はないどころか、率先して行っていた。


 だが、この決断が『魔狼』壊滅を決定付けたことを、まだこの段階では誰も気付いていない。


 治癒術士に待ち伏せ隊の治療を行わせ、ギリアム達は罠を仕掛けているという低位の冒険者を捕まえるために出発するのであった。



 ギリアム達が出発してから数分後、一体の魔族が現れる。残された待ち伏せ隊にとってそれが不運の始まりであった。 

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