第75話 魔獣③
『ギィィィィィィィィィヤアアッァッァッァァ!!!!!』
『グゲェェェェェェェェェェ!!!!!』
ジェドの剣がカギアの胴体にある両目を斬り裂くとカギアの二つの口から絶叫がほとばしった。
(よし…奇襲は上手くいったな…)
ジェドは心の中でほくそ笑む。
ロムの指導で戦いにおいて気配を消すことの重要性を認識したジェドは、速く動くことよりも静かに動くことに重きを置くようになった。もちろん、アレン達、ロムには遠く及ばないが、それなりに戦闘で使えるようになっていたのだ。
実際の戦いにおいては初手をどのように入れるかが非常に大切だ。初手を入れてしまえばそれで決着がついてしまうのがほとんどなのだ。
ジェドは苦痛の叫び声を上げるカギアに対して追撃を行う。剣を振るった勢いそのままに腹部にある口に拳を叩き込む。当然拳は魔力で強化しており、口にある牙の数本が俺砕けた。
『ギィィィィィィィィィィィィッィィ!!』
新たに発した苦痛にまたしてもカギアは叫び声を上げる。ただし今度は頭部についている口の一つからしか発せられない。
初手で流れを掴んだジェドはそのまま押し切るために攻撃を続ける。
カギアはまたしても力任せに腕を振るいジェドを薙ぎ払おうとする。だが、ジェドは流れをすでに掴んでいることを察しており、難なく躱すとカギアの左太股を斬り裂く。固い筋肉に覆われているために両断は出来なかったが、かなりの深手を与えた事は間違いなかった。
初手で流れを掴んだことをヴェインも察した。一瞬、ジェドの技量に眼を奪われたが、このまま押しつけるわけにはいかないと参戦した。
ヴェインが狙ったのは右足だ。そうすれば少なくともオリヴィア達の危険度は一気に下がる。
ヴェインの足への斬撃をカギアはかろうじて躱した。だが、ジェドに斬り裂かれた左足を軸に動いたために相当な苦痛が襲ったようだ。
ジェドが左太股を斬り裂いた狙いはまさにこれであった。
足を奪えば機動力だけでなく身体操作も一気に低下する。それは人間だろうが、魔物だろうが変わりないのだ。
ヴェインは足への斬撃を躱されたがそこで止まるような事はせずにぐるりと一回転するとカギアの背中を斬りつける。
『ギィィィィィ!!』
カギアの口から苦痛の声が漏れる。頭部の顔が憎々しげにヴェインを睨みつけた。だがそれは悪手である。ヴェインを睨みつけると言う事は別の言い方をすればジェドから眼を逸らすと言う事だ。
ジェドがこのあからさまな隙を見逃すはずもなく今度は魔力で強化した斬撃でカギアの左足を両断する。左足を斬り飛ばされたカギアはバランスを崩して倒れ込んだ。
『グゥッゥゥゥッゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!』
倒れ込んだカギアの頭部にヴェインが、腹部の顔にジェドがそれぞれ剣を突き立てる。急所がどこか分からなかったためにヴェインがとどめを刺した時に念のためにジェドも腹部の顔に剣を突き立てておいたのだ。
ジェドとヴェインがカギアに剣を突き立てたのを見て兵士達から歓声があがる。
「やった…」
「ふぅ…」
ジェドとヴェインはカギアの眼から光が失われ、体から力が失われたのを感じると、安堵の息を漏らし、貫いた剣を抜き取る。
ジェドとヴェインは新手が来ることに思い至り周囲を警戒する。
その時…
カギアの体が光り始めた。
思わぬ事態にジェドとヴェインはカギアの死体から距離をとる。カギアの体から放たれる光は収まらない。カギアの体は光を放ったまま浮かび上がった。
「ヴェインさん…こ、これは?」
「わからない」
ジェドの言葉にヴェインは困惑した声で返答する。
カギアの体は一際強く輝くと二つに分裂する。光が収まるとそこには二体の悪魔が立っていた。
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