第72話 死霊術士③

 ジェドがその場に到着すると数体のアンデッド達がジェドを睨みつける。いや、眼窩がなく骨だけの顔のために睨みつけるという表現はおかしいのかも知れないが、ジェドは睨みつけられたと確かに感じたのだ。


「リッチ…か」


 ジェドが剣を構えると同時にアンデッド達がジェドへの攻撃を開始する。スケルトンが武器を掲げジェドに向かってくる。


 ジェドはまったく焦るそぶりを見せること無く間合いを詰めるとスケルトン達の武器を躱し必殺の斬撃をスケルトン達に放ち、物言わぬ死体へと返していく。


 ジェドは一体のスケルトンの腕を掴むと自分の方に引き寄せる。引き寄せられたスケルトンの体に火球ファイヤーボールが直撃する。


 死霊術士と思われるリッチの【火球ファイヤーボール】がジェドに向け放たれ、ジェドがそれをスケルトンを使って防御したのだ。ジェドはリッチが魔術を放つ事を当然ながら想定しており警戒を怠っていなかったのだ。


 炎に包まれるスケルトンの手を放すとジェドは次のスケルトンの核をすれ違い様に斬り裂く。ガラガラと崩れ去るスケルトンの体に、注意を払うこと無く次のスケルトンと斬り結ぶ。


「ジェド!!ゴメン援護して!!」


 シアはそう言うと掌に瘴気を集める。少しずつだがシアの掌に集まった瘴気の塊は、直径3㎝程度の大きさから5㎝と大きくなっていく。


「ああ、任せろ」


 シアの言葉を受けてジェドは頷くとシアの前面に立つとシアを守るために立ちはだかった。


 リッチはジェドに向け【火球ファイヤーボール】を放つ。拳大の火球が3発放たれるが、ジェドはその火球を剣の腹で弾く。弾かれた火球はジェドから数メートル離れた場所に着弾すると炎を撒き散らし地面を焼いた。


 剣で切れば暴発の可能性があったために剣の腹で弾く事でジェドは【火球ファイヤーボール】の魔術を防いで見せたのだ。


 ジェドが火球を剣の腹で弾いたことにリッチはどうやら衝撃を受けたようである。今までこのような防御をする者にあった事はないのだろう。


 何度か国営墓地でアレン達が似たような弾き方をしており、やってみたのだ。国営墓地に発生するリッチの魔術よりも、このリッチの使う魔術は一つか、二つ落ちる事は確実だったために行えたのだ。


 ちなみにフィアーネは拳圧で火球を消していたのだが、あれにはアレンも『あれはフィアーネだから出来るんだから俺達はちゃんと剣を使おうな』と遠くを見て言っていた。


(…こいつの【火球ファイヤーボール】ならアレンなら素手で出来るような気がするんだが…)


 ジェドはふとそんな事を思う。


「ジェド、待たせたわね」


 シアがそう言うと掌に集めた瘴気は拳よりも一回りの大きさになっている。シアの集めた瘴気は「ボコッ…ボコッ」と内側から形を変えると人型となる。


 その人形の顔には目も鼻も口も存在しない。「つるん」という容貌であり体にも何ら特徴はない。果たして前後ろの区別もつかないレベルだ。ジェドとシアから見て右側の手に一本の棒を持っている。


「シア……」


 ジェドの言葉にシアは面目なさそうに言う。


「ゴメン…形にするのが難しいのよ…」


 シアの申し訳なさそうな言葉にジェドは慌てて首を振る。


「いや、気にするな。シアは今回、これを完成させるのが目的の一つなんだからな」

「うん…頑張るわ」


 ジェドとシアの会話に自分が舐められたと感じたのだろう。リッチは、新たな魔術を放とうとする。リッチの右手の人差し指に紫電が発生している。


(【雷撃ライトニング】…!!)


 ジェドは左手に魔力を集中し防御陣を形成する。


 ジェドの形成された防御陣を見てリッチは嘲るように口を開ける。いや、言葉を発したのだ。


『バカめが!!!そんな防御陣で私の【雷撃ライトニング】を防げるとでも思っているのか!!』


 リッチの嘲りを受けるがジェドは左手の前に形成した防御陣を前に掲げるとリッチに駆け出す。

 リッチにとってそれは無意味な突撃であり、無駄な足掻きにしか見えなかっただろう。だがリッチはジェドのこの突撃が意味あるものである事を知らない。いや、作戦の1ピースである事とは思えなかったのだろう。


 ジェドの無意味と思われる突撃はリッチの意識を自分に向けさせるためである。別の言い方をすればシアから意識を逸らさせるためであった。


 ではシアはリッチから意識を外された時に何をしていたのか?


 簡単な事だ。特別な術を使用としようとしたのではない。放った術はただの【魔矢マジックアロー】だ。


 しかも、瘴気の人形の脇からリッチに向けて放たれた魔矢マジックアローをリッチは完全に意識から完全に失念していた。シアの魔矢マジックアローはリッチの形成している防御陣をあっさりと貫くと、右肩に直撃する。


 右肩に直撃した魔矢マジックアローの衝撃は【雷撃ライトニング】の狙いを狂わせた。


『なっ!!』


 狙いが逸れた瞬間にリッチの【雷撃ライトニング】が放たれる。当然ながらその射線上にジェドはいない。


「バカはてめぇだよ」


 ジェドはそういうとリッチの心臓の位置にある核に剣を突き立てる。


『くそがぁぁぁぁぁっぁあぁあぁぁぁぁああぁぁっぁ!!!!!!!』


 リッチは絶叫を放つ。だがその絶叫こそがリッチの最後の力を振り絞ったものであった。反撃する力を急激に失い崩れ落ちる。


『も…申し…訳あり…ません…ゲオ…ま』


 リッチの最後の言葉は自らの主への謝罪であった。ゲオ某というのが主の名前なのだろう。


 死霊術士のリッチの体はガラガラと崩れ、その骨も塵となって消え失せていく。


「「ふぅ…」」


 ジェドとシアはリッチの消滅を確認するとようやく一息ついた。

 

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