第73話 魔獣①

 リッチを斃したジェドとシアは一息つく。だが、そうそうノンビリすることは出来なかった。すぐにこの場を離れないと相手は次の手を打ってくる可能性があったからだ。


 とりあえず一行と合流しようとした時に、叫び声が響いた。


「ジェド」

「ああ、行くぞ!!」


 ジェドとシアは踵を返し、オリヴィア達一行の元に走り出す。走り出したジェドとシアの視線の先に魔獣の群れが襲いかかっていた。


 その魔獣達の名は『クゲル』という獰猛な魔獣だった。『クゲル』は体長3メートル程の漆黒の毛に覆われた狼のような風部をしている。黒狼をそのまま大きくしたような魔獣だ。その戦闘力は黒狼を遥かに上回る。厄介なのは『クゲル』は単体で行動するのでは無く常に群れで行動するのだ。


 また知能も非常に高く、人語を解する者もいるという噂すらあった。


「クゲル…」


 ジェドの口から警戒がもれる。1対1で戦えば決して負けるとは思っていないが、数が多い。30頭程がぐるりと馬車を取り囲んでいたのだ。通常の一つの群れは10を超えることはほとんど無い事から、あの『クゲル』は人為的に集められたものであることがわかる。


 『破魔』のメンバーとアグルスはオリヴィアを他の護衛の兵士達に守らせ、最前線でクゲル達に相対する。


 ヴェインは剣をアグルスは大剣を、ロッドは手に手甲を付けて構えをとる。魔術師のシェイラはメンバー達の背後に立つ。


 クゲル達は威嚇の声を上げながら、近付いては離れ、近付いては離れるという行動をくり返している。獲物を精神的に弱らせようという考えなのだろう。


「シア、魔物使いがどこにいるかわかるか?」


 ジェドは駆けながらシアに問うが、シアは残念そうに首を横に振る。魔物使いは魔力によって魔物を操るために魔物の出所を掴めば魔物使いの場所がわかり斃せると思ったのだ。


「そうか…それじゃあ、安全の確保を優先することにしよう」

「そうね」


 ジェドの言葉にシアは頷く。


 ジェドとシアと一行の距離が400メートル程となった時にオリヴィア一行とクゲル達の戦いは切って落とされた。


 ヴェインは剣を構え、襲いかかってきたクゲルの牙を躱すとくるりと一回転してクルリの顔面に刃を入れた。


『キャウゥゥゥン!!!』


 顔面を斬られたクゲルは悲しげな声を上げドウッっと倒れ込んだ。


『キャァァァァァン!!』


 アグルスも大剣を振るいクゲルの足を両断する事に成功する。足を両断されたクゲルの口からあまりの苦痛のために凄まじい絶叫が放たれる。 


 ロッドは凄まじい速度で正拳突きを放ち、クゲルの鼻を潰す。鼻を殴られたクゲルは蹲り、そこにシェイラが放った【火球ファイヤーボール】が直撃するとクゲルは火に包まれる。


 鼻を潰された苦痛の後に全身を焼く新たな苦痛にクゲルはのたうち回る。


 『破魔』とアグルスの実力はさすがに『プラチナ』クラスの冒険者に相応しい。わずか1分ほどの攻防で三体のクゲルを戦闘不能にしたのだ。


 だが、『破魔』は流石だったが、その他はそうではない。兵士達のいつもの相手は人間を想定したものであり魔物には不慣れであった。そのために、クゲルの近付いては離れるという行動に引きずられ隊列を崩してしまう。


 引いたクゲルを追っ手踏み出した兵士の一人が横合いから踏み込んできた他のクゲルの突進をまともに受けて数メートル転がるとそこにクゲル達が殺到し、兵士を噛み殺した。


 もちろん、他の兵士達も助けるため一歩踏み出したのだが、それよりも早く兵士は息絶え噛み砕かれて肉片となってしまったのだ。


 人一人が単なる肉片となり食い散らかされるまでわずか1分未満…。この事実は兵士達にこれ以上ない衝撃を与える。


「隊列を絶対に崩すな!!」


 指揮官の騎士が兵士達に叫ぶ。言われずとも仲間が食い散らかされるのを目の当たりにしてしまえば隊列を自ら崩すなどと言う自殺行為をするわけがない。


 誘いにのってこない事を悟ったクゲル達は直接攻撃に移った。数体のクゲル達が一丸となって兵士達に突っ込んでくる。


 兵士達は槍を構えるとクゲル達を迎え撃つが、1体のクゲルを一本の槍が刺し貫くが他のクゲルが槍で刺した兵士の腕を咬みちぎった。


「ぎゃああああああああ!!!!」


 腕を咬みちぎられた兵士が叫び声を上げるが、その叫びは突如中断される。他のクゲルが兵士の喉を咬みちぎり、命を強制的に終わらせたからだ。


 咬みちぎったクゲルにまたも兵士が槍を突き出し。クゲルの腹を刺し貫く。だが、クゲルは止まること無く他の兵士に体当たりをして兵士を吹き飛ばした。


 その隊列の崩壊は兵士達の生存の可能性を一気に下げる。




 ジェドとシアに気付いたクゲルが3頭向かってくる。


 ジェドは剣を構えまったく速度を落とさずにクゲルに向かう。クゲルの突進をジェドは最小限の動きで躱すと足を切り落とした。


「キャウン!!」


 苦痛の抗議をあげてクゲルは倒れ込む。ジェドは倒れ込んだクゲルを無視して向かってくる2体のクゲルに向かう。


(こっちだな…)


 ジェドは突進してくるクゲルをまたも最小限度で躱すと首筋に容赦ない斬撃を入れる。ジェドの剣はクゲルの首の半分の位置まで何の引っかかりを生まず斬り裂く。


 カキン…


 ジェドの剣がクゲルの骨に当たり止まると、剣を返し、もう一頭のクゲルの突進を躱し首を両断する。首を両断されたクゲルは数歩走り倒れ込んだ。まるで自分の首が落とされた事に気付いて、それに従ったかのようだった。


 首を半分まで斬られたクゲルは血がしたたり落ち倒れ込む、血の流出は生命力の流出なのだろうか血がこぼれる度にクゲルは死に近付いていく。


 クゲルの襲撃を退けたジェドとシアはオリヴィア一行に目を移すとそこは悲鳴と怒号が入り交じる地獄と化していた。

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