第61話 事の顛末
「間違えたまま? 二人ともいくらなんでも…」
アインベルク邸のサロンでアレンが呆れた声をジェドとシアにかける。
「はぁ…ジェドもシアももう少し自覚しなさいよ」
レミアも呆れ顔だ。
「まぁまぁ、それにしてもその悪魔には同情します」
フィリシアがさりげなくフォローを入れる。フィリシアの悪魔への同情を聞いた時にサロンにいる全員が頷いた。特にジェドとシアはいたたまれない表情を浮かべている。
ちなみにサロンにいるのはジェド、シア、アレン、フィアーネ、レミア、フィリシアの6人だ。
ジェドとシアは『使い魔』と思った悪魔を斃した後に、ラティホージ砦跡へ向かうと悪魔を探したのだが、どうしても見つける事が出来なかったのだ。
野営の準備をしていなかったためにラティシュアに戻り悪魔がいなかった事を受付に知らせ、せめて使い魔の討伐報酬だけでももらおうと切り取った左耳を渡した時に、二人が斃した悪魔こそ討伐対象であった事が分かったのだ。
いくら悪魔を探してもいないのは当然で、すでにジェドとシアが斃していたのだ。斃した者を探し回っていたなどとマヌケも良いところだった。
「だって…なぁ」
「うん」
ジェドとシアはバツが悪そうにアレン達に言う。
「あんまり弱すぎたから、てっきり使い魔と思った…と」
笑いをこらえながらフィアーネがジェドとシアに言う。するとジェドとシアは小さく頷いた。
「二人ともロムとかウォルターさんとか比較対象がそもそもおかしいんだって。そりゃ二人はロムやウォルターさん達には及ばないけど、他から見ればお前ら二人は十分強いんだって自覚しろよ」
アレンの言葉に二人は頷く。
「『ゴールド』ランクに依頼される悪魔だからせいぜい中位悪魔だと思ってたから、二人なら余裕で勝てると俺達は思ってたんだ。でも、それ以前だったな」
アレンの苦笑混じりの言葉にアレンの婚約者達は頷く。
中位悪魔ならジェドとシアの二人なら余裕で勝てると思っていたのだが、まさか使い魔としてしか認識しておらず斃していたというのは少々、驚きだった。
「そうね、まさか二人ともその悪魔に『使い魔のくせに』とか言って斃してないわよね?」
レミアの言葉にジェドとシアは視線を逸らす。思いっきり悪魔に『使い魔風情が!!』と罵り斃してしまっていた。
ジェドとシアの様子を見てアレン達は悪魔への同情をより強めてしまう。見下した人間にあしらわれた挙げ句、『使い魔』として処理されたのだ。敵には一切の容赦がないアレン達であってもさすがに引いてしまうレベルだった。
「あんなに中位悪魔が弱いなんて思わなかったのよ…」
シアの言葉にアレン達は「はぁ~」とため息をつく。
「何度も言うけどその悪魔が弱いんじゃなくてジェドとシアが強いの」
フィアーネが言う。
「そ、そうだな…俺達が強くなっていたという事だな」
「う、うん」
ジェドとシアはこの居たたまれない雰囲気をなんとかするために露骨に明るい言葉で言う。それを察したのだろうアレン達もそれに乗ることにする。
「そうだな」
「そうよ、ジェドとシアが強くなったのよ」
「その調子でがんばってね」
「そ、そうですよ。二人ともこれからも頑張ってくださいね」
アレン達の言葉にジェドとシアは頷く。
「それで、二人はこれからどうするんだ?」
「どうって?」
「すぐに新しい依頼を受けるのか?」
「う~ん」
アレンの問いかけにジェドとシアは考え込む。今回の依頼で白金貨3枚を報酬として得たために金銭にはかなり余裕がある。
「どうする?シア」
「差し当たってまだ何も決めてないわ」
二人の返答にアレンは二人に尋ねる。
「それじゃあ、一つ頼まれてくれるか? もちろん冒険者ギルドへ依頼してそれを受けるという形をとるけど」
アレンの言葉に二人は頷く。
「ところでその依頼って?」
ジェドの問いかけにアレンは答える。
「ああ、『エリメア』って都市は知ってるか?」
アレンの問いにジェドとシアは頷く。
「リヒトーラ公国との国境沿いにある都市だろ。そこで何をすれば良いんだ?」
「その『エリメア』の都市の近辺の森に朽ち果てた神殿があるらしいんだ」
「神殿?」
「ああ、そこがどんな神殿なのか調査して欲しい」
「それは別に構わないが、なぜ俺達に?」
「理由は簡単、一つは実力、もう一つは人柄」
アレンの言葉にジェドとシアは「は?」と言う顔をする。
「中位の悪魔を危なげなく勝利する実力者、信頼のおける誠実な人柄…それが両立している冒険者だからだ」
アレンの言葉にフィアーネ達婚約者達も頷く。
「正直、今回の神殿の話は単なる俺の興味本位だ。利益があるのか、まったく分かってない。だが、それがどんな神殿で誰が建てたのか? どんな目的があるのか? そう言ったものを知りたいのさ」
アレンの言葉にジェドとシアは考える。
「何を持って依頼達成とするかどうかは難しいだろうが、楽しそうではあるな…」
「そうね…ある意味、冒険者の本分と言えるわね」
ジェドとシアの言葉にアレンは微笑む。
「そうか、やってくれるか。報酬は金貨5枚で大丈夫か?」
アレンの言葉にジェドとシアは頷く。
「あ、そうだ。神殿で何かしら見つけた時はそれを引き渡すで良いな?」
ジェドがアレンに言う。雇い主に冒険で手に入れた物を譲るのは当然だったからだ。
「いや、その手のものには手を出さない方が無難だな」
「?」
「そういう類のものは何かしらの呪いが掛けられている可能性が大きいからな。手を出さない方が絶対良い」
「そうか、わかった」
アレンの返答にジェドもシアも頷く。この辺りの感覚はジェドもシアも冒険者らしくない。冒険者は宝を手に入れるという目的で冒険を行っている者もいる。それ自身は悪い事ではないが、ジェドとシアは何となく気が咎めるのだ。
「それじゃあ、準備をしてから旅立つことにするよ」
「ああ、土産話を楽しみにしてるよ」
ジェドの言葉にアレンは微笑みながら返す。
ジェドとシアの次の仕事は神殿探索という事に決まったのだ。
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