第49話 練習試合②

 『ウォルターVSジェド&シア』


 というアレンの言葉にジェドとシアは言葉を失う。先程、ジェドがウォルターに手も足も出なかったのだ。それはシアと組んでも埋まるような差ではないことは明白であった。


「アレン、ウォルターさんと俺達の実力の差はものすごくあることぐらいは分かるだろう?」

「ええ、今の私達じゃ、2対1でも結果は変わらないわ」


 ジェドとシアの言葉にアレンは微笑みながら言う。


「そうか? 確かに1対1ならウォルターさんには勝ち目は全くないと俺も思うが、二人が組むとそうとは限らない」


 アレンの言葉にジェドとシアは驚く。


「な?」


 アレンはフィアーネ達に声をかけるとフィアーネ達もアレンの意見に賛同した。


「ええ、ウォルターさんの実力は確かだけど、ジェドとシアが組めばその実力差をひっくり返すことが出来るかも知れないわ」

「そうね。アレンの言う通り、1対1では勝ち目はゼロね。でも…二人組めば…」

「私もそう思います」


 フィアーネ達の賛同の声を聞き、微笑むとアレンはウォルターに言葉をかける。


「ウォルターさん、先程伝えた通りこちらが本番になりますがよろしいですか?」

「もちろんです。アレン先生。私も2人がどのような戦術をつかって仕掛けてくるか楽しみです」


 ウォルターに気分を害した様子はない。ジェドとシアが2人組めば自分を上回る可能性があると言われれば面白くないはずだが、ウォルターはまったく気分を害した感じはない事にジェドとシアは少し安心する。


「ウォルター、油断するなよ。ジェドの実力は明らかに『シルバー』クラスのものじゃないぞ」

「ああ、最低でも『ゴールド』…いや、『プラチナ』であってもおかしくない事はわかる」


 ロバートの言葉にウォルターは返答する。そのやり取りを他の近衛騎士達も頷いている。


(いや…買いかぶりすぎだろ?)

(いくらなんでも、私達が『プラチナ』って…)


 ウォルターとロバートの会話を聞き、2人は心の中で否定する。ジェドとシアはウォルターとロバートの会話をリップサービスと受け取っていたのだ。


「まぁ、やってみれば分かるさ。それじゃあ、始めよう」

「はい!!」

「ああ…」

「わかったわ」


 アレンの言葉にウォルター、ジェド、シアは返事をする。


「それでは双方よろしいでしょうか?」


 ロムの声に三人は頷くとロムを挟んで対峙する。ロムはニコリと笑うと3歩ほど下がりジェドとシア、ウォルターは直接対峙することになった。


 ロムは先程同様に片手をあげる。


「始め!!」


 声を当時に手が振り下ろされ試合が始まる。


 ジェドはシアの前に立ち、シアをウォルターから守る壁の役目を果たそうとする。


(おそらく私の魔術ではウォルターさんには通じないわ)


 シアは先程のジェドとの試合を見てからウォルターの実力が凄まじく高い事に思い至り、『攻撃』を躊躇った。だが、だからといって後手に回れば先程のジェドの試合と同じだ。


(なら…)


 シアが動く。魔力を操作し魔術を展開したのだ。魔力の動きを察知したウォルターもまた木剣に魔力を通し強化する。定石通りなら魔矢マジックアローによる牽制である事からの対応だった。木剣で魔矢マジックアローを受ければ間違いなく木剣は砕け散る。それを防ぐための魔力による強化だった。


 ジェドもシアの魔術の展開を察すると木剣を魔力で強化する。ウォルター達に比べれば拙いかも知れないが、それでも十分実践には耐えれるレベルの魔力操作だった。


 シアの魔術が発動する。だがその発動した魔術に殺傷能力など皆無だった。シアの2メートル先の空間にシアの魔術によるバケツ一杯分の水が顕現する。


 顕現した水はそのまま地面に落下する。地面に落下した水は「バシャ」という音を響かせ飛散する。


 【水瓶アクエリアス】…。旅を補助する水を精製する魔術だ。シアはこの試合の場で戦闘に関係の無い魔術を使用したのだ。


「な…水?」


 ほんの一瞬だがウォルターの意識が地面に落下する水に意識を奪われる。



 相手の目線や心理を注目されては困ることから逸らす事をミスディレクションというが、シアがやったのはまさにそれだった。

 戦いの場において無駄な動きを行っては即、敗北に繋がるのは戦う者にとっては常識だ。それゆえに無駄な事を極力そぎ落とすようにする。だが、シアはそこにあえて無駄な一手を入れたのだ。


 だがこの無駄な一手が『戦いに関係の無いことをしない』という常識を逆手にとり、ウォルターの意識が一瞬逸らす事に成功したのだ。


 もし、ここでシアが魔術による攻撃を選択していたらウォルターは雑作もなく対処していたことだろう。

 だが今回のシアの【水瓶アクエリアス】は対処する必要はまったくないのだ。そしてそれゆえにウォルターの意識はそこに持って行かれた。簡単に言えば対処するために心構えをしていたのに対処をする必要の無い一手を打たれたために混乱したのだ。


 その一瞬の隙をジェドは逃すことなくウォルターとの間合いを詰め斬撃を繰り出す。


 ガギィ!!


「くっ」


 ジェドの鋭い斬撃をウォルターは木剣で受ける。


(危なかった…魔力を木剣に通していなければ…)


 ウォルターの背中に冷たいものが走った。 

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