第33話 レミア⑪

 魔将をレミアが討ち取った事が知られると魔物達の混乱はさらに高まった。先程レミアがリーダーを斬り捨てた時も混乱は起こったが。今回の魔将の戦死の報はその比ではなかった。どうやら最高潮に達したと思っていたのは誤りだったらしい。


 その後の魔物達は冒険者達に討伐され、魔将の集めた魔物達は文字通り消滅したのであった。


 ナシュリス率いるナーガ達は降伏しレミアに臣下の礼をとる。もはやレミアの保護に入らない限りはナーガ達に明日はなかったのだ。


 レミアは少し考え、部下にするにはアレンに聞いてみない限り確約できない。とりあえず王都まで来るようにという指示を出していた。


 その結果、ナシュリス達は王都に向かうことになったのである。


 道の途中で冒険者がナシュリス達にちょっかいをかけようとしてレミアに殺気を含んだ目で睨まれるとすごすごと退散するという一幕があり、レミアの怒りを恐れてナーガ達にちょっかいを出す者はいなくなった。


 冒険者達は一日休み、次の日に王都に向かって出発する。


 パーティーのメンバーが亡くなった冒険者の顔は当然に曇っているが、それ以外の者達は表情は明るい。


「レミア、聞きたいことがあるんだけど」


 王都への道でシアがレミアに話しかける。


「何?」


 レミアは「どうしたの?」というような表情を浮かべて聞く。


「うん、レミアはどうして国営墓地に入れるの?」


 シアの言葉の意図をレミアは性格に読み取る事が出来なかったのだろう。レミアは首を傾げる。その様子を見てシアはきちんと伝わっていない事を察するとさらに言葉を続けた。


「え~と、アインベルク卿って冒険者を毛嫌いしてるのよね?」


 シアはサリーナからの事の顛末を聞いた際にアインベルク家の者は冒険者に良い印象どころか敵意を持っていると思っていたのだ。


「え?そうなの?」


 レミアは初耳と言わんばかりの声色だ。


「うん、私達が王都に来たときに、冒険者ギルドからアインベルク家の先代当主と冒険者ギルドの確執を聞いたから…てっきり毛嫌いしているとばかり思っていたの」


 シアは補足説明を行う。するとレミアは考え込む。


「そう? アレンの口から別に冒険者を毛嫌いしているなんて聞いたことないわよ」


 レミアの言葉にシアだけでなくジェドの方も拍子抜けした顔をする。先代のギルドマスターの髪の色が真っ白になったと聞いたし、ギルドに乗り込んだときには多くの冒険者達が殺されると思ったという話だった。


 ところがレミアはそんな事を聞いた事も無いという話だったのだから驚きだった。


「それじゃあ…俺が男爵様に会いに行っても大丈夫なのかな…」


 ジェドの言葉にレミアはあっさりと答える。


「え、ジェドはアレンに会いたいの?」

「うん」

「どうして?」

「いや、だって興味あるじゃないか。国営墓地の管理を行うというアインベルク家の現当主…、デスナイトやリッチを斃せるという噂だし。なぁレミア、本当に国営墓地にはデスナイトやリッチが出て、男爵は本当に斃しているのか?」


 ジェドは噂の真偽を確かめたいと思いレミアに聞いてみる。周囲の冒険者達もレミアの答えを固唾を飲んで待っている。


「え?デスナイトやリッチなんてアレンは毎晩のように斃してるわよ。フィアーネもフィリシアも斃してるし、私だって何体も斃してるわ」


(噂は本当だったのか…)

(え?レミアは何体も…って言わなかった?デスナイトやリッチを何体も?)


 レミアの言葉にジェドもシアも周囲の冒険者達も唖然とする。


「多分、昨夜も出たんじゃないかしら?」


 レミアの言葉を聞いた冒険者達は言葉を失っている。


「つ、つまり国営墓地にはデスナイトが毎晩のように出るって噂は本当だったのか…」


 ジェドの言葉にレミアはあっさりと頷く。そのあまりにも自然な受け答えが噂の信憑性を一気に高めていた。


「あ、あのさ…レミア」

「うん」

「俺を男爵様に紹介してくれないか?」

「良いわよ、アレンは基本、昼間は屋敷にいるから大丈夫よ。でも、時々王城の方に報告書を提出したりするからその時は火を改めてもらう事になるけどね」

「ああ、当然だな。それじゃあ明後日に伺いたいんだが…」

「うん、アレンに言っとくね」


(よっしゃ!! 男爵様に会える!!)


 ジェドは心の中で喜びの声を上げていたがそれを表面上に出してしまってはレミアにどん引きされそうだったので何とか思いとどまった。


 ジェドとレミアの会話を聞いていてシアが首を傾げながらレミアに聞いた。


「ねぇ、レミア、何かレミアって妙にその男爵様との距離感が近いような気がするんだけど?」


 シアはレミアが『アレン』と呼ぶのが引っかかっていたのだ。確かにレミアは国営墓地でともに働く仲間なのだろうけどそれでも距離感が近いと思わざるを得ない。『アレン』と呼ぶレミアの口調がどことなく柔らかい雰囲気でしかもどことなく甘い雰囲気なのだ。


「え?そう。でもそれも当たり前かもね」


 レミアはあっさりと答える。


「だって私、アレンの婚約者だもん」


 レミアの口から出された事実は多くの冒険者 (特に男)に衝撃を与えていた。

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