第31話 レミア⑨

「さぁ!!返答や…ぎゃあああああ!!」


 ナシュリスの腹を貫いたレミアの槍は背後の地面に突き刺さっており、レミアの投擲した槍の威力がうかがい知れた。


 ジェドもシアもレミアの行動に目を白黒させている。レミアに目には明らかにナシュリスを見下したものがある。


 周囲の冒険者たちもこの美しい少女がこの段階において自己犠牲など考えていない事を悟ったと同時に、レミアに『俺たちのために死んでくれ』という類の事を言わなくてよかったと安堵した。もしそのようなことを発言すればレミアは間違いなくその発言した者に報いをくれる事を本能で察したのだ。


 レミアはナシュリスの元に軽い足取りで歩き出す。


 2000を超える魔物達の中にただ一人で歩いていくという胆力は明らかに冒険者達と一線を画すものだった。国営墓地の管理者であることを知っているものは国営墓地の管理者は伊達でないと思い、知らない者はレミアの豪胆さに下を巻いていたのである。


 一方で魔物達もナシュリスを貫いた槍が先ほど自分達を容赦なく切り捨てていた双剣の女が投擲したことがわかると明らかに動揺する。


 特に先ほどレミアに切り刻まれたゴブリンやオーガ達の動揺は大きい。先ほどのレミアの強さはもはや魂レベルにまで刻み込まれたと言ってよかった。


 レミアはナシュリスの前に立つといきなり腰に差した双剣の一本を抜き放つとナシュリスの双眸を容赦なく切り裂いた。


「ぎゃあああああああああああああ!!」


 凄まじい絶叫がナシュリスの口から発せられる。光を失ったナシュリスはさらなる苦痛に見舞われる。


 レミアは再び剣を振るうとナシュリスの両腕を切断した。


「ぎゃあああああああ!!」


 再びナシュリスの口から絶叫が発せられる。


 ジェドとシア、そして冒険者、いや魔物達ですらレミアがナシュリスに行っていることから目が離せない。戦場から一切の音が消えたようにジェドとシアが感じたのは間違いではないだろう。


 レミアはナシュリスに何か話しかけている。レミアがナシュリスに話しかけた内容はジェドとシアには聞こえていなかったが、ナシュリスの顔色が加速度的に悪くなっていくのは苦痛によるものだけでないことは明らかだった。


 恐怖…


 間違いなくナシュリスはレミアに恐怖を感じているということをジェドもシアも察している。


(ナーガが…恐怖で)

(すごい…一体どれだけの修羅場をレミアは…)


 周囲の冒険者達がレミアに恐怖を感じ始めているのだがジェドとシアは感心していた。ジェドもシアも強者を尊敬するが卑屈になることは決してない。ジェドもシアの実力が無ければつければ良いと考えている人間なので強者を見て萎縮どころか強さをどのように得たかを頭を下げて教えを乞うという性格だったのだ。


「そこのナーガ達!!」


 レミアが離れているナーガ達に向かって声をかけるとナーガ達は一様に体をビクッと振るわせる。


「私は今からこのナーガを切り刻んで殺す!!お前達の大事な仲間だ、助けなくて良いのか!?」


 レミアの言葉は敵味方関係なく周囲の者達から言葉を奪った。もはや完全にこの場はレミアのための場と呼んでも差し支えないだろう。2000を超える魔物達、150の冒険者達は完全にレミアに気圧されていた。


「もっとも…助けに来ればそいつから殺してやる」


 レミアの言葉が脅し出ないことは誰もが理解した。経験や知識などではなく本能が警鐘をを鳴らし続けていた。

 それを決定付けているのはレミアから放たれる凄まじい殺気だ。魔物達はレミアの殺気を感じるとガタガタと震え始めている。いや、冒険者の中にも震える者が出始めていた。


(すごい殺気だな…直接向けられていない俺達であってもゾワッと来るのに直接向けられている連中はどんな感じなのかな?)

(レミアがここまで魔物達を脅してくれると私達も優位に事が運べるかも知れないわね)


 ジェドとシアはレミアがここまでナーガ達を脅し殺気を撒き散らしている事に対してその意味を結論づけていた。すなわちレミアは魔物達を脅し戦意を削ぐ事で冒険者達に有利な状況を作り上げようとしているのだ。

 ジェドは先程、レミアがオーガを残酷に殺す事で魔物達の怒りを自分に集中させた事を思い出していたのだ。レミアのやり方は苛烈であっても同じ陣営の者を助けようと思っての事であった。この戦場という地獄では苛烈な行いこそが逆に多くの命を救うことになるのだ。


 レミアがさらにナシュリスに何かを告げたのだろう。ナシュリスの顔色はさらに悪いものとなっていく。


 ナシュリスが口を開こうとするがナシュリスの口は開いたまま凍り付いている。しばらくするとナシュリスは何度も何度も頷いている。どうやらレミアが何かしらの条件を提示しそれを受けたのだろう。


 ナシュリスは口をつぐむ。しばらくしてナーガ達の間に動揺が浮かんでいるのがジェドとシアは察する。


(あのナーガは仲間に何と言ったんだ?)

(この状況で…ナーガが驚いた顔?…まさか…そんなことが可能なの?)


 ジェドとシアはナーガ達の状況から事の推移を考えている。その結果、ジェドとシアはこのレミアとナシュリスの会話が何をもたらすかを結論づけた。


「シア…」

「わかってる…」

「俺から離れるなよ…本来シアは後衛なんだけど、一緒に…」

「うん、まかせてジェドの背中は私が守るから、ジェドは私の背中を守ってね」

「ああ」


 ジェドとシアは小さくそう言うと魔物達に突撃するために身構える。


「お前達!!!早く、殺される!!!!」


 ナシュリスがついに叫んだ。その叫び声を聞いたときにジェドは剣を抜き走り始める。そしてシアがジェドの後に続いた。

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