第30話 レミア⑧

「私、いつもは国営墓地の見回りをしているの」


 レミアの放った一言は冒険者達に衝撃を与える。特に先程、レミアを蔑んでいた冒険者達の顔色は青を通り越して土気色となっている。ここまでの急激な顔色の変化をジェドもシアも見たことがなかった。そしてそれがアインベルクの名が王都の冒険者達にどのような意味を持つのかがわかるというものだ。


 だがジェドもシアも別に先程のやり取りをレミアに伝える気はない。なぜならそれはレミアを傷つけることを意味するからだ。必要以上にレミアを不快にさせる必要はないだろう。


 レミアに暴言を吐いていた冒険者達はジェドとシアがレミアに先程の暴言を言わなかったとこで胸をなでおろしていた。


「通りで…」

「墓地の管理人かよ…強いわけだ」

「アインベルクの関係者か、弱いわけないよな」

「なんか…妙に納得した」


 そのほかの冒険者達の口からはレミアが国営墓地の管理人であることが知れ渡るとレミアの異常な戦闘力に対して『納得』の空気が生まれていた。


(あれ?冒険者の人たちにとって『アインベルク』というのは本当に強者という位置づけなんだ…)

(ますます国営墓地というのが気になってくるわね…でもアインベルクの関係者って事は冒険者に対してあんまり良い感情を持ってないのかも知れない…。怒られるかな…)


「レミア、墓地の見回りって何の事?」

(あっ、しまった!!この言い方だと墓地の見回りについて聞いたことになっちゃう)


 シアはレミアに疑問を呈した。だが緊張していたためについ言い間違いをしてしまったのだ。


「あのね、国営墓地には基本アンデッドがでるのよ。そこで、見回りをすれば自然とアンデッド達との戦闘を重ねるというわけよ」


 レミアはシアが墓地の見回りについてピンと来なかったと思ったのだろう。墓地の見回りについて説明してくれた。だが、シアはサリーナから国営墓地の事を聞いており常にアンデッドが発生するという事を認識していた。シアが聞きたかったのはなぜ冒険者がアインベルク家のテリトリーである国営墓地に入ることが出来るのかという事だったのだが、シアは緊張のために『墓地の見回り』について聞いてしまったのだ。


「つまり毎晩、実戦をしているというわけか…」


 ジェドの言葉にどうやらシアが聞きたかったことがうまく伝わる事は無くなってしまったらしい。


(違う!!ジェド!!なんで話を締めちゃうような方向に持って行っちゃうのよ!!)


 シアは表面上は何でもない風を装っていたのだが実際のところはジェドに対して心の中で文句を言っていたのだ。


 レミアはジェドとシアが一応納得したととらえたようで次の話題に移る。


「それより…シアとジェドは知ってるの?」

(ああ、次の話題に移っちゃう…しょうがない。後で聞くことにしよう…)


 レミアの言葉にシアとしては残念な思いだったのだが、自分の聞きたいことはとりあえず後回しとすることにする。


「何を?」

「魔将の種族名」


 レミアの言葉にジェドもシアも首を横に振りながら否定する。


「いや…知らない」

「私も知らない」

「やっぱりか、周囲の人達も魔将の種族を誰も言ってないから、もしかしてと思っていたけどやっぱりそうなのね」


 レミアの言葉にジェドもシアも今更ながら自分達の迂闊さに思い至った。魔将の種族名が分かっていれば魔将をピンポイントで討ち果たすことも可能なのに、種族名を知らない以上それも難しかったのだ。


「シア、ジェド、そろそろ始まるみたいよ」


 レミアの言葉に二人は魔物達の方に目を向ける。


 レミアがリーダーを斃したことによる混乱は収まり始めている。どうやら新しいリーダーが任命されそのリーダーが混乱を収束させたのだろう。


 ふと東の空を見ると明るくなり始めており夜が明けようとしていた。


 レミアの言葉にジェドとシアだけでなく周囲の冒険者達も緊張の度合いを高めていた。


(何とか…騎士団が応援に来てくれるまで粘らないとな…)


 ジェドがそう考えた時に冒険者達の中から動揺する声が発せられていた。


「ナーガだ…」

「ウソだろ…ナーガだ」

「おい、見ろよ。まだいるぜ」


 魔将の一群の中から一匹の魔物が進んでくる。歩いてくるではない進んでくると表現されたのは、進み出る魔物は上半身が人間の妙齢の女性であったのだが、下半身は蛇という異形の姿だったのだ。

 その魔物はナーガと呼ばれる魔物で、高い知能、魔力を持ち、種族的に残忍な性格をしているものが多く冒険者達にとって出会いたくない強力な魔物であり恐れられている存在だった。


 前に進み出てきたナーガの後ろにはさらに10体ほどのナーガおり冒険者達が動揺するのももっともであった。


 進み出てきたナーガは声を張り上げ冒険者達に大声で声をかける。


「聞けぇ!!人間共!!」


 進み出たナーガの声は戦場にいる冒険者達の元に問題なく聞こえた所を見るとなんらかの魔術により声を届けているのかもしれない。


「我が名はナシュリス!!魔将エルテン様に仕えし者よ!!」


 約100メートル程の距離でナシュリスと名乗ったナーガは冒険者に語りかけた。


「貴様らはよく戦った!!彼我の戦力差は大きいのも事実!!降伏すれば命は助けよう!!」


 降伏という言葉に冒険者達の中から揺らぎが生じたのをジェドもシアも感じていた。この絶体絶命の状況において生存の可能性というのは麻薬にも等しい甘美な物である。


「ただし!!先程、我らに乗り込み、蛮勇をふるった双剣の女の命と引き替えだ!!」


 ナシュリスの言葉を受けて何人かの冒険者がレミアをチラチラと見ている。その目に宿るのは生存への渇望であった。


(ふざけやがって!!そんな口約束を信じるとでも思ってるのか?)


 ジェドは怒りをナシュリスに向け、それと同時にレミアをチラチラと見る冒険者達にも同種の怒りを持った。


(レミア…この冒険者達の目に傷付かなければ良いのだけど…)


 シアはレミアの事を気遣い視線を移す。ジェドもレミアの様子が気にかかり様子を伺う。


 レミアはしばらく考えると笑顔を浮かべる。


(ま…まさか…)

(レミアは自分を犠牲にする気?そんなのは絶対に駄目よ)


 レミアの笑顔を見たときにジェドとシアは自分が犠牲になって冒険者達の助命を願うのではないかという思いが二人の中に生まれるとほぼ同時にレミアを止めるために声をかける。


「レミア!!あんな奴の言葉気にすることはないわ」

「そうだ!!レミア、お前が犠牲になる必要はない」


 ジェドとシアの言葉に頷く冒険者と顔を顰める冒険者の割合は6対4という割合だった。


 レミアは槍を構えるとすぐに振りかぶって投擲する。


「え?」

「は?」

「ちょ…」

「な…」


 レミアの行動を見ていた冒険者達の反応は共通している。例え口から漏れ出る言葉が異なっていても意図を性格に把握出来なかったのだ。


 レミアの投げた槍は得意気に言葉を告げようとしたナシュリスの腹に突き刺さった。

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