驚異のレトロパソコン

久我島謙治

驚異のレトロパソコン 第1話


 驚異のレトロパソコン 第1話


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 ――2002年10月


「佐藤さんは、大手家電メーカーでエンジニアをされていたんですよね?」


 取材に来た渡部明夫わたなべあきおと名乗った雑誌記者が佐藤博さとうひろしにそう質問した。


「ええ、そうです」

「しかし、貴方は退職して、パソコンメーカーを起ち上げた」

「よく思い切ったなと今では思いますよ」

「後悔されているのですか?」

「どちらにせよ後悔したでしょう」

「それは?」

「あのまま、新しいパソコンを作りたいという気持ちを殺して会社に残ったとしても後悔していたと思うのです」

「なるほど。当時はそれほどまでにパソコンが売れる状況だったのでしょうか?」

「いえいえ。販売台数から見れば、今の方がずっと多いですし、当時のパソコンは普通の人には使える代物ではありませんでしたよ」

「確かに販売台数で見ればそうでしょうね。では、先んずれば人を制すということでしょうか?」

「私は、あまりそういったことを考えてはいませんでした」


 一呼吸置いてから、佐藤は続ける。


「人事異動でパソコンの開発現場を離れる辞令が出たので、会社を辞めて自分が納得できるパソコンを作ってみたいと思ったのです」

「辞められたのは、確か1980年ですよね?」

「ええ、当時はワンボードマイコンと呼ばれるトレーニングキットから、テレビやモニタに繋いでBASICで使うパソコンへの転換期でした」

「そこに殴り込みをかけたわけですね?」

「新興のベンチャー企業ですから、資金にしろ人材にしろ、何もかもが不足していました」

「まず、何から始められたのですか?」

「有限会社として会社を起ち上げた後は、助手をしてくれる人を探しました。結局、知り合いの息子が工学部の学生だったので、アルバイトで手伝ってくれることになりました」

「後に娘婿となられる仲元氏ですね」

「ええ」


 佐藤は、当時のことを回想する――。


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 ――1980年2月


 昨年、12月に大手家電メーカーの帝国電気を退職した佐藤は、1月に「有限会社ジェネシス・コンピュータ」というパソコンメーカーを起業した。

 社員は、社長である佐藤ただ一人だ。


 この会社は、パソコンの設計を行う会社として、帝国電気でパソコンの設計を行っていた佐藤だけで当面はなんとか回せる予定なのだが、社長の佐藤は設計だけを行っていればいいわけではない。

 パソコンの発売が遅れれば、会社にとって致命的となるので、有能な助手が一人欲しいと思っていた。

 広く募集すると、面接などの時間を取られるため、人づてに探していたのだ。


 ――ジリリリリリリリーン、ジリリリリリリリーン……


 神田の貸しビルに作った事務所兼設計室の電話が鳴った。


「はい、ジェネシス・コンピュータです」

「佐藤か?」

「その声は、仲元か?」

「ああ、お前が助手を探してるって聞いてな。ウチの息子はどうだ?」

「確かまだ大学生だろう? いいのか?」

「その話をしたら乗り気でな。バイトとして雇ってやってくれないか? 上手く行きそうなら、そのまま就職してもいい」

「こっちは願ってもない話だが、先の見えない小さな会社なんだぞ?」

「まぁ、若いうちは何事も経験だからな。新しいパソコンを開発するというのは、得難い経験になるだろう」

「そうか、神田の事務所にいつでも来るよう伝えてくれ」


 ◇ ◇ ◇


 それから数日後、仲元新市なかもとしんいちは、ジェネシス・コンピュータの事務所に現れた。


「初めまして、父からの紹介で来ました仲元新市です」

「初めまして、といっても君がまだ小さい頃に会ったことがあるんだけどね。私が社長の佐藤博です」

「新しいパソコンを開発されるんですよね?」

「そうだよ」

「凄くワクワクしますね」

「ああ」


 こうして、アルバイトの仲元が助手として加わった――。


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