第2話 英雄
落ち着きを取り戻した火災現場で、テレビクルーが目撃者へインタビューをしている。周囲には数台の消防車両が並び、闇夜に未だ煙を上げる家屋へ鎮火作業をしていた。
「煙の匂いがして窓開けたんですよ。そしたらそこの家から火が、いや火って言うか、炎が上がってて、正直ヤバいと思うじゃないっすか」ジャージ姿の若者が興奮した様子で答えた。
「そうですね、私の家はそこなんですよ。消防の方があと少し遅かったら私の家も燃えてたかもしれませんね」パジャマ姿の中年女性が話した。
「もう遠くの方からでも燃えてるのが分かりましたからね。真っ赤な煙が上がってて。木造住宅が出火元なんですよね。隣の家とか可哀想ですよね。ローンとかあるだろうし」スーツ姿のサラリーマンが同情している。
「ホントに混乱してて、なんか家の中に人が残ってるみたいな事おばさんが叫んでて、めっちゃ名前呼んでるんだけど全然出てこなくて、皆で水とかバケツで運んでたんだけど全然火が消えなくて」薄着の女性が早口でまくし立てる。
「いや、驚いたよ。若い子がね、多分私の息子ぐらいの子だと思うんだけど、バケツの水被って家の中に飛び込んだんだよ。皆言葉を失ってね、止める間もなく炎に飛び込んでいってね。いや、今時の若者はって我々の口癖だけど、そんな事言ってられないね」髭面の中年男性が感心している。
「映画みたいでしたよ。燃え盛る家から子供と大人一人担いで出てきて、そのまま気絶して運ばれていきましたから。同年代ぐらいだと思うんですけど、ホント、ヒーローっていうか、格好良かったですね。僕も見習おうと思いました」顔立ちの整った青年が冷静に誉め称えた。
「なお、この火災により男性一名の死傷者が出た模様です。身元は現在確認中との事です。現場からは以上になります」女性レポーターはそういって締めくくった。
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