典型女子

やんぬるかな

第1話 秘密

景子ちゃんのは私の友達

景子ちゃんはクラスのまとめ役を率先してやるような子で

景子ちゃんは足もクラスで一番速くてね

景子ちゃん勉強もできて

男子がいつもふざけてうるさいと「男子って子供‼︎」ってため息をつきながら注意をして

だけど全然嫌そうじゃないから

だからむしろ腰に手を当てて人を叱ったりしてる景子ちゃんはいきいきして見えて生き甲斐みたいなものだと思う

景子ちゃんがそうしてるときの顔見たらきっと分かる。


景子ちゃんは今日も1番に教室に着いていた

クラスの花瓶の水を取り替えてメダカに餌をあげて、先生は偉い子っていうけどあれは景子ちゃんが景子ちゃんの為にやってるってわかる

うまく言えないけど。

黒板の日付の字も景子ちゃんのもの

教科書の字をそのまま写したような字は景子ちゃんしか書かないからかえって分かりやすい

先生でも書かない潔癖な字

「ねえ咲子 そう思うでしょ⁇」

突然声が降ってきた。正確には降ってきたんじゃなくて私の机の前に立って話していた景子ちゃんの同意を求める声

「ごめんごめーん聞いてなかった‼︎」

きっと適当にそう思うとか答えておいても大丈夫なんだろうけど景子ちゃんはこれを一番私に求めてる

「咲子はやっぱどっか抜けてるよね‼︎」

景子ちゃんは笑いながら私の背中を叩いた。

「それは酷いよぅ景子ちゃんーあのね駅前に新しくできたアイスクリーム屋さんのことなんだけどぉ」さっきまで景子ちゃんと話してたらしい依子ちゃんが会話の流れを説明しながらしきりに目配せしてきた。

私が全く聞いてなかったことを再確認して景子ちゃんは今度は「やっぱ間抜けだなぁ‼︎」って言いながら背中を叩いてきた…わりと痛いんだよなぁなんて言葉は飲み込んで…

「間抜け間抜けうるさいなぁ」なんて頬を膨らませてみる。それで良い。私は景子ちゃんがいないと駄目な馬鹿で間抜けな咲子なんだから。

後は適当に景子ちゃんから離れて別に用も無い女子トイレまで歩いていく。


鏡…奥二重の自分の目を覗き見る、景子ちゃんははっきりした二重だ。あまり主張しない小さく低めの鼻、景子ちゃんはすらっと高い。耳の下あたりで二つに結った茶色の髪は逆らうようにあちらこちらにはねている、景子ちゃんはストレートの真っ黒だ。

「どうして私は景子ちゃんじゃないんだろう」

それが私の口から出たと気づくのに数秒かかった。なぜか泣きたくなってくる

朝の会が始まる直前のトイレはしんと静まり返っている。足音がして思わず身構えた

依子ちゃんだ、私は依子ちゃんを待っていた。目配せした意味は私と依子ちゃんしか知らない。

「ごめんねぇー撒くのに時間かかっちゃってさぁー」「ううんいいの。今日は何?」

依子ちゃんは景子ちゃんがいないときには景子ちゃんを景子とよぶ。

「景子のやつ信じらんないよねぇ〜、だって何も悪くない咲子ちゃんを叩いたりしてぇしかも間抜けとかぁ何様ってかんじぃ⁇」

やたら甘く伸ばすような喋り方は以前景子ちゃんに止めたほうがいい馬鹿に見えるなんて言われていたでも私は好きだ。この子の黒いなにかを覆い隠すように甘く響く声はなんだか滑稽だと思う。

「全然痛くなかったしいいんだよ。間抜けなのは本当だし」

少しうつむき気味に言う。

依子ちゃんは眉を精一杯下げわざとらしすぎるくらい困り顔を作った。「咲子ちゃんはぁ優しすぎるってぇ‼︎だから景子が調子にのるの」

私を心配しているみたいに言うから私も精一杯眉を下げて困ったようにほほえんでみせた。

「っていうかぁ景子はたいして可愛くもないのにちやほやされてぇ…咲子ちゃんのほうがずっと可愛いしぃ」「そんなことないよ。依子ちゃんのがずっと可愛いよ羨ましいくらい」ねぇ依子ちゃんこの言葉が欲しくて景子ちゃんを悪く言うんでしょ?私が欲しいのはね…

「ありがとぉ‼︎本当はみんな景子なんて嫌いだよぉ〜先生に媚び売っちゃってぇクラス委員だって勝手に使命感燃やしちゃってばかみたい‼︎」……あんなに完璧で綺麗な景子ちゃんがそんなこと言われて…嫌われるなんて…ぞくぞくするってこういうことかな…身体中が喜びに震える。……「もう教室戻ろうか。朝の会きっと始まってるよ」「ええっもうこんな時間かぁ…やばいなぁ…」「ね!もう終わってるかも」「それはそれでいいかもぉ景子ちゃんの無理に張った良い子ちゃん声で連絡事項聞かなくて済むしぃ…」もう景子ちゃん呼びにもどってるなんか…すごい子だ。「もう、そういうこと言わないの。今のことは秘密‼︎」「うん秘密ねぇ‼︎ふふ」

秘密ね。ねぇ依子ちゃん私は景子ちゃんが嫌いかもしれない

教室に駆けていく依子ちゃんの背中に聞こえないくらいの声でそう呟いた。

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