第26話 フェニックス降臨

 ファルシオンから日本への飛行機。その内部でハイジャックが起きていた。

「手を挙げろ、余計な抵抗をすれば撃つぞ!」

 銃を持った男が数人、乗客を取り囲んでいる。コクピットでは機長が銃を突きつけられていた。


 犯行グループのうち一人が客席を覗き込みながら歩き回る。怪しい動きをしている者がいないか、目を光らせていた。

 その目が一人の男に止まった。彼は椅子にもたれかかって腕を組み、目を瞑って寛いでいた。

 「貴様、命令が聞こえないのか!」


テロリストの罵声が男に向く。男は銃を突きつけられても平然とした態度を貫き、テロリストを睨みつけた。

「ああ聞こえないよ、聞きたくもないさ、お前の汚らわしい鳴き声は、な」

テロリストは逆上し、銃の引き金に手を掛けた、それより早く男は立ち上がり、テロリストの襟首を掴んで締め上げた。

「最後に訊いてやる、お前の目的は何だ」

「目的だと? これはファルシの意思だ」

「ファルシの意思か、随分と大きく出たな」


 男はそう吐き捨てると、テロリストの頭を脇に抱え込み、首の骨を折った。

それを見た犯行グループの全員が、男に銃を向ける。男はそれを一切意に介さず、彼らに呼び掛けた。

「お前たちがファルシを騙るとはな。……その責任はきっちり取ってもらおうか?」

 倒れたテロリストの頭を思い切り踏みつけた男目がけて、犯行グループが銃を発砲する。


 「……フェニックス」

 それを確認した男が冷たく呟く。

四方から彼を狙った銃弾は一つも彼に届くことはなかった。男から放たれた炎に包まれ、勢いを殺されて落下した。

 炎は空間を伝い、テロリスト全員の頭を撃ち抜いた。倒れた男たちから肉の焦げる臭いが放たれる。

男はそれを無感動に見下ろすと、首を鳴らしてコクピットに向かった。

「あーあ、やっちまった。まあ仕方ないか。やるからには最後までやらないと面倒なことになりそうだ」


 歩き出した男は思い出したように足を止めると、乗客に向かって頭を下げた。

「あー、皆さんお騒がせしてすんませんでした。コイツらファルシって言ってましたけどウチとは何のかかわりもない連中なんで。あ、俺はアルゴ・ローゼンって言います、ファルシオンの次期大司祭ってことになってます。この機会に覚えて帰ってください」

 唖然とした乗客を背に、男は振り返ることなく再び歩き出した。

 数分後コクピットのドアが開き、物言わぬテロリストが投げ出された。操縦桿を握ったままリスのように震えている機長の隣に腰かけ、煙草に火をつけた。

「ふう、一件落着」



 やがて飛行機は予定通りの航路に戻り、予定を大幅に遅れたものの空港に無事着陸した。

 待機していた警官隊が即座に客室に突入した。テロリストの死体を回収し、二人の警官がアルゴに駆け寄った。

「アルゴ・ローゼンさんですね?」

アルゴは緩みきった笑顔で警官に手を差し出した。

「あ、ああ、そういうことね。お礼とかいらないから官邸に呼んで記者会見開いてくれる?」

 二人の警官は顔を見合わせ、首を傾げた。一人がアルゴに告げる。

「いや、お前の行き先は拘置所だ」

 差し出された手に手錠が掛けられた。



 「おい、出せ! 出せっつってんだろ! 俺はファルシオンから派遣された特使なんだっつうの! クソジジイ共を黙らせてようやくここまで来たってのにそんなの有りかよ!?」

 護送車の中からアルゴがわめき散らす。

「先輩、アイツ何者なんです?」

彼を捕縛した警官の一人がその光景を眺めながらもう一人に尋ねる。

「知らねえ、ファルシオンの重役サマがあんな乱暴な奴な訳ないだろ。とりあえず拘置所で根掘り葉掘り聴かれることになるだろうさ」

 アルゴを嘲笑うように、彼を閉じ込めた車は走り出した。

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