第2話

「井守、チビ達で泣いてる子いるわよ。」スッと目の前にちんまりとした婆様が現れた。「皆寝てますよ。」 当然とした口調で井守が言った。

「でも聞こえたんだよ。」でも、何処かは分からなかった。 「この中でですか。数は足りてますよ。猫5匹、犬4匹、モグリ1匹。」じゃあ何なの。「拾い子してきたならおっしゃって下さいませ。」井守が怖い顔をした。鬼ババかよ!「違うわ、産んできたばかりだよ。」井守がニコニコ顔になった。「そうでした、いつ見せていただけるんでしょう。揺りかごあけませんとね。」いかん、コレらと話してるとだんだんズレていく。

「提灯に火を。」あまり時間がないかも。胸が張ってきた、そろそろ起きるかもしれない。手渡された提灯には黒字で『守』と書かれていた。

「気をつけて、明け方に痺れ霧が出ますよ。」と言い捨て井守がいなくなった。痺れ霧って何なの、早くしろって事?足早に庭に出た。


暗がりに提灯…誰も見てませんように。大抵は見えないだろうけど。

砂利を敷き詰めた庭には石臼が置いてある。竹筒から水が出て水面を揺らしている。その横には石階段があり、のぼれば物置小屋と花壇がある。今は草も花も眠っているだろう。石臼の前で提灯を掲げ、石階段の前で手をかざしたとたんチョロンと金色の紐がみえた。引っ張って結び目をほどくと丸い輪っかのように暗闇ができた。提灯の明かりがともっていようがそこは暗い丸い穴である。早くしないとね。サッサと暗い丸い穴に手を伸ばした。


提灯の明かりの先に見えるのは細い土の道で、周りは暗くて不安になる。

怖くは無いが、他の人であればビビるだろう。何の音もしてないから。

まずは村長かな。「村長集合!」ザッと風が吹き目の前に1・2・3・……数えたって仕方ないか。「何の用ですかな、お急ぎで?」「寝てたんだけどー何なの。」「相変わらず騒々しい女子じゃのー」後は起きてるんだか分からなかった程に全員がムニャムニャしていた。口を聞いたのはマシな方か。「さっきから泣き声が聞こえるの。探して。」全てのモノが固まった。「心あたりがあるの?」騒ついてきた中で1人が「お産の勢いで何やら乱れ勾配でしたから、どこそこで不具合があるのかも…。」そうか、そうなんだ私のせいなんだな。何だかとてもゴメンて気がしてきた。

「悪いけど、探して。泣いてるから早くね。」またザッと風が吹いて誰もいなくなった。


サワサワと白い玉が寄って塊が盛り上がり、黒いフンコロガシがひとつづつコロコロ転がして散って行く。何度も何度も。なくなる様子は一つも無く、寄っては散らされの繰り返し。白い玉の中央に布切れの塊。手を握りしめフンギャー!と真っ赤になって泣き叫んでいた。覗き込んだ老人がため息をつき「赤子じゃのー、当代の子かの。いつの間に来たんじゃ?こりゃ散れ!何ゆえ集まってるのじゃ。ん?こりゃほつれとるな、ここから吸ったかのー。トットと直さねばならぬの。」フンギャー!フンギャー!耳をつんざく様な声で赤子が泣いた。「ふむ、当代の仕事じゃなコリャ。」老人は赤子を拾いあげるとザッと消えた。


「何もなかったわ。私はもう寝るわね。」「イ村の爺様がまだ来てないからダメ。」ブーたれてるモノに言い聞かせ、他のモノにも聞いたが何も無い様だった。勘違いって事かな、帰って来たばかりで…ザッと風が吹いた中で老人におくるみを差し出してきた。「当代、綻びができておるぞ。早う直さんと他も吸い込む事になる。」さも私が受け取るのが当然みたいに押し付けてきた。「早う直せ。」フンギャーと泣いたのにビックリした。どう見ても人の子だった。耳も無い、ヒゲも無い、まだ見てもないがきっとシッポもないみたい。影もあるし何よりあのモノ達とは匂いが違った。お腹すいてんだ、じゃあお乳あげんと。ポロンとおっぱい出して赤ん坊の口に近づけると、ンクンクしながら飲み始めた。スンスンしながらも勢いよく飲む赤ん坊を見た時、急に風が私の周りで渦巻き出した。

「次代が生まれた!」はあ?!ジダイって何が?「ジダイって何よ。」コケシが「当代の次って事。この赤子、あなたの子になったのよ。」クルクル踊るモノ達は大はしゃぎで、イ村の爺様が「宴じゃあ〜!」の声に他のモノ達はきゃっほー!と一瞬でいなくなった。「当代、早う繕ってくれー。」とこれも一瞬で目の前から消えた。



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