世界を変えるっ、アルバイト!?

堀内とミオ!

プロローグ

2017年2月 目標達成! そして……

「イエス!! やったぜケイロくん! うちの現場、61位!」


 二月に入り、一月の接客ランキングの結果が出た。


「61位って、なんかパッとしない順位ですね」

「……まぁでも、213位中の61位だから、良しとしよう! ホームセンター枠なら1位だし」

「そうですね。それに、一月自店目標80点も無事達成しましたし。速報で追本おいもとさんが60点取った時はどうなることかと思いましたけど」

「あっはっは! 僕が最下位を温めてしまったわけだね、ケイロくん!」

「いや……笑い事じゃないですよ。反省してください」

「あ……ひゃい。すみません」

「まあ、結果的には目標達成できたから良かったですけど」


 あたしの目の前で馬鹿笑いをしたり落ち込んだりしているのは、追本知昼おいもとちひるさん。今年三十六歳になる現場サブリーダーだ。結局四年間ずっと『君付け』で呼びやがって……。ただでさえ男か女かわからない名前なんだから、せめて最後ぐらい、『ちゃんづけ』で呼べってーの。


「いやー、長いようで短い四年間だったね、ケイロくん」

「それはあたしのセリフですよ。でもまさか、自分の卒業と同時にバイト先もなくなるなんて思ってもみなかったですけど」


 そう。三月いっぱいでする。ビーバーハウスという大型モールのホームセンターでレジ打ちのアルバイトをあたしは四年間続けてきた。でもまさか、ずっと噂はされていたけど、本当に解約されるとは思いもしなかった。いわゆる、派遣切りというやつだろう。


「本当にいろいろあったなぁ。なくなってしまうのは寂しいけど、最後に80点超えることができて感無量だよ」

「そうですね。四年前……あたしが入ってきた時は、接客の『せ』の字も見えない状態でしたからね。改めてすごいと思いますよ、追本さん」

「いやいや、僕は何もしていない。全部きみらの実力だよ、ケイロくん」

「確かに、60点ですもんね、追本さんは」

「あっはっは! その通り!」


 いつものようにおどけながら追本さんは笑っていた。だけど、目標の店舗平均80点を達成するまでに、どれほどの失敗と苦悩があったか、あたしは知っている。ここ一年ぐらいは平均70点以上取れる現場になっているが、最初はまったく違っていたということも、忘れてはいない。追本さんは60点だけど。最後の最後でビシッと決められない男だけど、彼から本当にたくさんの勇気をもらったことをあたしは忘れない。

 アルバイトでも世界を変えられるということを、あたしはこの身をもって体感したんだもの。




【2017年2月接客ランキング結果】

73.92/Bランク

96位/211位(全社)


【結果考察】

 先月の80点からダウン。でもなんとかランキングは中盤をキープ。先月60点だった追本さんも、最後の最後で80点を取っていた。

 四年間のランキング争いの考察を、ここに書いていこうと思う。といっても、誰かと実際に戦ったわけじゃあない。これは、自分達との戦い。底辺から這い上がってきた、あたし達の長い戦いの記録。

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