神崎先輩は、夢見がち。

@Yotsukado

第1話 序章

 「一日の高校生活で一番楽しいときは?」と聞かれたら、僕は迷わず「放課後の部活動」と答えるだろう。

 そして、「一日の高校生活で一番苦しいときは?」と聞かれても、僕は迷わず「放課後の部活動」と答える。

 そんなの矛盾だと人は言うかもしれない。けれど、現実に僕の心は苦しくて楽しい。正直な気持ちだ。

 もう少ししたら、その時間がやってくる。

 ここは、とある高校の部室棟。部室棟の最上階の一番奥に位置するのは、僕がいる『文芸部』。でも本当のことを言うと、『(建前として)文芸部』なのだ。

 部室棟は木造建てで、とにかく古い。だから歩くたび、床がきしむ音がする。その音は床がひび割れそうな音がして不気味だ。でも、彼女が、先輩が歩く音はどうしてこんなにも気持ちがいいのだろう。

 上履きのゴム底を鳴らして、階段をキュッキュッと小気味いい音を鳴らしながら、駆けあがる音が響く。廊下をテンポよく歩く音が聞こえる。

 僕は読んでいた文庫本を机の上に置く。

 ドアがガラガラと音をたてて開く。

 そうして、先輩が雪崩のように舞い込んでくる。

「聞いてよぉー、ハル君!」

 僕は、先輩の方に顔を向ける。できるだけ自然な笑みを先輩に向ける。

「どうしたんですか? 神崎先輩」

 先輩が僕の方に近づいてくると思ったら、僕を通り過ぎて机に鞄を置き、椅子に座る。そして、黒いロングヘアの前髪を軽く弄りながら、どこか恥ずかし気に話し出す。

 数人の生徒たちが廊下を歩いているみたいだ。床が気味悪く音をたてる。

 いつもと変わらない放課後の部活動が始まる。いつもと変わらず僕の心は何だか浮ついて、少しばかり痛い。

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