シン・ブレイド
@nekokotarou3
剣の世界ソードピア
人は皆、誰もが心に剣を持っている。
それを
人は生まれた時から心に剣を持ち、剣と共に育ち、剣を極める。
剣が折れる時、それはすなわち人の生の終わりである。
剣の強さによって全てが決まる世界ソードピア。
善悪ではなく、剣の強い方が常に正しく、剣の強い者が治める世界。
その中で、己の強さと善悪を履き違えない者。正しき剣の高みに到達した者を、人々は畏敬の念を込め『剣者』と呼んだ。
「はっ、ふっ、ほっ!」
穏やかな春の日。新芽が芽吹く新緑の森。
太陽の日差しが木漏れ日を作り出す下で、一人の少年が剣を振るっている。
まだあどけなさの残る顔は、凛々しい少女のものと見紛うような中性的な顔立ちで、柔らかい金髪を汗に濡らしていた。
少年の持つ片手剣はシンプルな造りであり、刃渡り70cm程の直剣だ。
全体的に鈍色のくすんだ印象を受ける剣は、春の陽光を鈍く反射させている。その柄の先端には深い青みを湛えた菱形の宝石が取り付けられており、そちらは陽光を宝石の内部に溜め込むかのようにキラキラと小さな光を発している。
これが少年の剣。
その剣からは高い素質を感じさせるのと同時に、まだまだ発展途上どころか始まってすらいないようなちぐはぐ感を与えられる。
少年の剣を振るう腕前もそうだが、剣自体の印象もそう感じられるから不思議だ。
「はっ、はーっ! ……こんなもんかなぁ?」
しばらく剣を振り続けた少年は、荒い息をつきながら剣を下ろす。
その声からは、あまり納得のいった感じは出ていない。
それもそのはずで、少年が剣を振るい出したのはほんの数週間前だ。まだ一月も経っていない。
少年の名はクラド。
ついこの間、10歳になったばかりだ。
クラドが10歳になった誕生日に父が「そろそろクラドも、自分の剣を鍛える年頃だな!」と言い始めたことにより、それから鍛練を続けている。
最近はようやく剣に振られなくなってきたところだ。
「そろそろ家に帰らなきゃな」
僅かにオレンジの光が混じり始めた日差しを見て、クラドは剣を手にしたまま言葉を放つ。
「
鈍色の片手剣は光になるとクラドの胸の中に吸い込まれて消える。
なにもクラドは奇術士としての心得があるわけではなく、このソードピアに暮らす人々からすれば当たり前のこと。剣は心の中に戻ったのだ。
「今日の晩飯なんだろなー」
そんなのんきな独り言をいいながら、帰路に着くクラドであった。
ソードピアに生きる人々は皆、心の中に己だけの剣を持って生まれてくる。
光の粒子となって出し入れ可能な
それは一人一人の個性豊かな剣……というわけではなく、ほとんどの者は最初はなんの変哲もない銅の剣から始まる。
滅多に折れるようなことはないが、絶対に折れないかというとそうではなく、折れる時は折れるものだ。
精神的なエネルギー体などというわけではないので、通常の剣のように物理的な負荷がかかり過ぎるとあっけなく砕け散ってしまうのだ。
それはつまり……人としての死へと直結している。
己の剣を失った者は最早この世界で生きていくことはできない。
この世界は全てが剣の強さで決まっているからだ。
物事の善悪? 剣の強い者が善である。
どちらの言い分が正しいか? 剣の強い者が正しいのである。
国同士の諍いは? 剣の強い国が勝つのである。
今日の晩飯のおかずは? 剣の強い者が決めるのである。
何事にも決定権を持たない者なのだから。
では、通常の工程で剣を造ればいいのではないか?
……その答えは絶対にノーである。
なぜなら通常の工程で造られた金属の塊たる剣と
絶対に
その理由は、この世界を創造した神にしかわからないだろう。
その癖、通常の鍛冶工程で強化したりもできる割合謎な物質だった。
なので鍛冶屋、鍛冶士というのはポピュラーな職業であり、己の剣を鍛え上げる者も多いので、このソードピアの世界では一番多い職業人口となっている。
但し、剣だけを鍛えていれば己の体が強くなるわけでもなく、剣を扱う者としての研鑽も、もちろん必要となってくる。
己の研鑽も鍛冶士もバランス良くやる者やら、剣は鍛冶士に任せ己の研鑽にのめり込む者やら様々である。
そんな剣の世界ソードピアで今、新たなる若い剣が抜き放たれようとしていた。
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