1幕 1章 1話 いつも通りの朝の光景。
電車を降り、改札を出る。
朝のラッシュ時の人混みを避けに避け、いつものバス停へ向かう。
歩道橋を渡り、反対側の道へ続く階段を下りると、すぐにバス停だ。
まだバスが来るまで15分と時間があるにも関わらず、数人がバス待ちをしている。
そこの先頭に、見慣れた顔の子がいる。
明るい茶髪の彼女は退屈そうにバスを待っている。
そんな彼女の元へ向かい、私は彼女の肩を叩いた。
すると、彼女は今気づいたみたいだ。
肩を叩かれたことにびっくりして、身体が震えた。
そして、私の存在を確認すると、安心した顔をして、
「あーあみかーびっくりしたー!おはよー」
私、あみ(足立亜美)に挨拶をした。
「おはよおーくうこー。今日も早いねー。」
そして、話しながらくうこ(空知加奈子)の隣に一緒に並んだ。
平気な顔してバス待ちの列に、割り込みをした。
しかし、これが普通なのだ。
このバスは学校が学生のために運行している無料バスだ。
ここに並んでる人はみんな学園は違えど同じ学校。
割り込みは全生徒の暗黙の了解だ。
「だって、早く来たら座れるじゃん?朝から立つのはちょっと嫌だわー」
「あはは。だよねー。私もくうこが並んでくれて助かってるー!ありがとね!」
「いいよ。なるべく早く来ようとしてるのは知ってるからー」
朝から始まるのは、くうこのご機嫌取りだ。
喜怒哀楽が激しいくうこは顔を見るだけで、その時の気分がわかる。
今日は機嫌が悪いわけではなかったので、ちょっといつものお礼を言ってみた。
すると、すぐに機嫌が良くなった。
くうこは喜怒哀楽が激しい分、わかりやすく単純である。
これで今日一日何事もなければ、このまま機嫌が良いままだろう。
「そうそう、あみ。昨日のドラマ見た?」
「あー!みたー!あのドラマのさー‥‥」
2人で他愛のない話をしてると、髪色こげ茶の前髪斜め分けの女の子が視界に入った。
女の子も、私たちの存在に気づき、小走りで私たちの元へ駆け寄った。
「あみ〜くうこ〜!おはよ〜!」
ちゃんりな(飯田莉奈)だ。
いつもどうり片手にスマホを握りしめながら手を振っている。
私もくうこも合わせてちゃんりなに手を振る。
「おはよーちゃんりなー」
「ちゃんりな今日はちょっと遅い?電車遅れてた?」
くうこが疑問に思ったのかちゃんりなに問いかけた。
「そうなの〜!といっても5分の遅延だったから支障はなかったよ〜!」
そうなのだ。ちゃんりなは私たちの使っている
路線とは違う路線で通ってる。
なので、数分の遅延はわからない。
まあ‥‥数分遅刻なんて、遅延くらいしかないだろう。
こんなことを口に出すと、機嫌を良くしたのが無意味になる。
だから言わない。
「でもさー。数分の遅延ってイラつかない?」
‥‥はじまった。
くうこはすぐに悪口を言う癖がある。
あれがイラつく。これがムカつく。
絶えず出てくる彼女の悪口は少し度が過ぎると、人を傷つけかねないのでなるべくこの話題は広げたくない。
「うーん。確かに遅刻しそうなときに遅延してたら、やばい、はやく〜って思うけど」
「車掌さんだって毎朝何かしらトラブル起きて、大変だと思うよ〜。疲れちゃう。だから数分の遅延は仕方ないって許してる〜」
ちゃんりなは軽いノリで答えた。
物事や状況を否定的に捉えない、ちゃんりなのいいところだ。
ちゃんりなからは悪口は出ない。
悪口を言うにしても軽口なので、本気の怒りとかではない。
この課題多くて面倒とかなら聞いたことあるが、基本的に彼女の口からは悪い言葉は聞かない。
くうこは目を丸くしたが、すぐに
「さすがちゃんりなだわー。私も見習うわー」
と、軽く言った。
よかった。悪口が広がらなくて。
ちゃんりなはくうこの扱いが上手い。
どんな悪口も広がる前に阻止する。
度が過ぎる手前で止めてくれる。
私は心の中でちゃんりなに感謝した、
「おはよ。」
「わっ!!!」
突然の後ろからの声に驚いた。
振り向くと、今までいなかった彼女が立っていた。
「‥‥そんなに驚かなくてもよくない?」
「ごめん‥気づかなかったから‥」
「ふーん‥」
黒髪の長い髪を揺らしながら、りょーか(瀬戸綾花)がムスッとした顔をした。
ああ‥‥これは傷つけたかも‥
りょーかにもう一度謝ろうとしたとき、
「りょーか!おはよー!!!」
くうこがりょーかに飛びついた。
りょーかは慣れたようで、くうこに抱きつかれても微動だにしない。
「あー‥‥おはよ。」
「わあ〜今日もくっつくねえ」
「…ねー。」
ちゃんりなが少し心配そうにりょーかの様子を見た。
くうこはりょーかにだけ態度が違う。
やたらりょーかにはくっつき、秘密もベラベラしゃべる。
ちゃんりなにもたまに抱きついたりするけど、私にはそんなことは一度もない。
だからと言って私にだけ冷たい対応ってわけではない。
話せば普通に話すし、連絡も取る。
しかし、りょーかにはそれが過剰だ。
‥‥簡単に言えば、りょーかがお気に入りなのだ。
「ねえねえ!今日の授業の課題やった!?」
「やったよー。」
「あれ、本当意味わからなかった!なんなの?あんなの興味ないっつーの!」
「難しかったよねー。内容」
こうなったら終わりだ。
くうことりょーかの2人だけの世界になってしまった。
「あらら〜。はじまっちゃったね〜‥」
ちゃんりなが私に小声で話す。
「‥‥うん。」
そうこうしているうちにバスがくる。
「あ!バスきたー」
暗黙の了解で、基本的に先に並んでた人から順にバスに乗る。
そうなると必然的にバスの座席も決まる。
今日はくうこの隣だ。
「そうそうあみ、さっきのドラマの話なんだけど〜」
そうして、先ほど話そびれたドラマの話をした。
近くに座っているであろう、ちゃんりなとりょーかの話し声は聞こえない。
バスは埋まり、指定時間に学校へ向かう。
バスに乗っている間の10分間は、それぞれ2人組の時間。
他愛のない話や秘密の話、課題の話、各々だ。
「学校ついた〜!」
こうして、私達の1日は始まる。
いつも通りの1日が始まる。
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