デイドリームネイション
吉田X
まぼろしのくに 1
部屋を出て、マンション最寄りの駅から約束の場所へ向かう。
六両編成の普通電車に乗って二駅過ぎるとこの路線の終点でもある市内の主要駅へと到着する。
海外の有名なデザイナーが設計したという現代美術的な特徴的な建築の駅舎を抜けて駅の外へ。土曜日、時刻は正午近く。駅前を行き交う人々で賑わっている。
おれは人ごみが苦手だ。妙に緊張する。子供のころから高校生になった今でも未だに。
向こう側から歩いて来る人々をたどたどしい足取りでかわしながらおれは駅舎から出る。
楕円のロータリーやタクシー乗り場バス乗り場の傍を抜けて横断歩道を渡り、駅の向かいに建つビルの中へと入る。ここの二階にあるチェーンのファミレスが約束の場所だった。
チャイムの電子音と共におれはファミレスの中に入って、店内を見渡すーーいた。
もう皆揃っているようだ。窓側の席。出入り口の一番近くにいた店員のお待ち合わせですかーの声に軽く頷いておれは店内を進んでいく。
「あ、きたきた」
「おそいぞー」
「いやちょうど時間ぴったりなくらいじゃないかな」
「私たちが早く着きすぎたんだよー」
四人の男女が長方形のテーブルを囲んで座っている。四人とも若いというよりまだ幼いといっていい年頃の見た目をしている。つまりはおれと同じ。十代の。
「あ、ここ空けるね。 シンへー君」四人のうちの一人の少女がそう言って自分の荷物と思われるバックを脇へとずらしソファー型の座椅子にスペースを開けてくれた。ちなみにシンへ―というのがおれの名で名字はシラト。漢字で書くと白戸新平というとてもありふれたフルネームとなる。
おれは開けてもらったスペースに腰を下ろす。荷物をずらしてくれた少女の隣に座る形だ。
「はいメニューどうぞ」
「ありがとカナちゃん」
その少女、カナちゃんこと橋場香奈恵ちゃんはテーブルの隅に立て掛けられていた食事用のメニューをおれに差し向ける。くりりとした目と丁寧に切り揃えられたショートの髪が溌剌とした印象を見るものに与える彼女に短く礼を言う。
メニューを広げて見る。テーブルの上には他のみんなが頼んだ料理の乗った皿がいくつも並んでおり、もう皆それをほとんど食べ終わりつつあるかあるいは既に食べ終えてしまっていて後から来た身としては若干気がはやる。
「こっちはもう食い終わってるからなーあ、別に急かしてる訳じゃないぜー?」
どう聞いても煽っているとしか思えない口調でユートが言う。
羽柴遊人 通称ユート。おれの高校の同級生。いつも通り後頭部を刈り上げトップを立たせた髪型でそれで背も高くがっちりとした肩幅をしているから結構いかつい見た目の奴である。
「しょうがないでしょ。家が遠いんだし多少遅れるのは。というか事前に遅れると連絡もあったはずでは…」
マコトくんがそう冷静に発言した。やや痩せ気味のメガネ男子で体育家系丸出しのユートは対照的なインドア系の格好で隣に座っている。
「なに頼むか決めた―? もう店員さん呼ぶねー・・・あたしも何か追加しようかなー」
ハナさんがそう言ってテーブルの中央に置かれた店員呼び出し用のボタンを押した。
染園華さんは彼女にとっては普段通りの、明るい茶髪に付けまつげの大きな瞳艶っぽい唇とチークの塗られた頬、と派手な見た目。正直始めた会った時はそのギャル全開の遊んでそうな見た目に若干ビビッてしまっていた訳だが、まぁ実際話してみると普通にいい子である。
カナちゃん ユート マコトくん ハナさん この四人とおれを合わせた計五人がいつものメンバーだった。
何のメンバーかと聞かれれば当然あれのことで、おれたちもまた例のボランティアに参加している一員なのだった。
おれが頼んだランチはすぐに運ばれてきた。一枚のプレートにハンバーグと唐揚げサラダにライスが一緒に乗ったセット。それらを一口ずつ頬張っているのを尻目に皆は今日の予定について話し合いを始めている。
「ルートはこの間と同じでいいかな」マコトくんが手に持ったタブレットを皆に見せて言う。画面には地図が映されていて、市内の、このファミレスからそう遠くない場所を表示している。
「えぇ~、同じとこ回るのってなんかタルくない? 変化がないっていうかさ」ハナさんが追加注文したチョコパフェをつつきながら抗議した。
「また新しいのでてるかも知れないしね。回る場所は同じでもこれだけ集中してるんだからさ」そう言ってマコト君はタブレットをテーブルに置く。
簡略化された建物と路地の図の中にところどころ同じ形の赤いマークが付けられている
「まー俺はとっとと終わらせたいし、色々動き回るよりは同じとこ回る方がいいな」ユートが手で頬を付きながら言う。
「でも同じとこだと管理官的にはどうなんだろ、あんま点数稼げなさそうじゃない?」カナちゃんがそう言うとユートは、なにー俺はそれは困るぜ内申に響くのはさ、と打算的な台詞で意見を翻す。
「確かにかなり広範囲を探索しているグループもあるみたいだけど…それで高評価が得られるとは限らないけどね。審査基準は管理官が各々に設けてるみたいだし、僕らの…浅間さんがどういう基準で評価してるか分からないから……というか内申書の高評価狙いで活動するのはそもそもどうかと」マコトくんが見た目通りの真面目さを見せた返答をする。
「あたしも取りあえずこれに参加してりゃーいいから、別に評価とかそんな高くなくていーんだよね…そうなると別にわざわざ動き回る必要なないか…やっぱこの間と同じとこでいいかなー」パフェをさくさくと食べ尽したハナさんが前言を撤回する。
「あらま、もしかして意見割れてる? えーと、調査範囲を広げなくていいと思ってるひと」
ユートが多数決を取り始めた。マコト君とハナさんが手を挙げる。
「広げてもいいひとー」ユートが自分で言って手を挙げる。カナちゃんが「まぁ一応…」と言ってそれに続く。
2対2できれいに意見は割れているようだった。今のところは。みんなの視線がおれに集まる。
「えー・・・、別におれはどっちでもいんだけど…」
本当にどっちでもよかった。おれにとっては。
「うーん、じゃあ、範囲を広げる方で」
でもまぁ前とは違う場所で調査するのもありかな、同じ場所で同じような成果だったら宜保さんもがっかりするかもしれないし。
単純に多数決が採用され、おれたち第4区画グループBの今回の調査範囲が決まった。
おれたちはファミレスを出る。駅前から伸びる大通りの歩道を道なりにあるいて、三番目に見えてくる信号を曲がり、今度は県庁へと続く県道を真っすぐ進む。予備校となにかの会社の事務所が入った小さなビルが建つ角につくとそこを右に曲がり細い路地に入っていく。
いくつかの住宅やマンションに囲まれた路地だ。この辺りから前回までおれ達が探査していたエリアに入る。おれ達が探査を許可されている第四区画の端っこの方。
「あ、いるいる」既にビデオカメラを手に持ったユートが言う。
直方体のビデオカメラから横に開かれた画面にしっかりと『あれ』の姿が映っている。
カメラのファインダー越しに映された『フェローズ』の姿が。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます