第11話 魔法と《創現武装》の正体
――日本 京都――
地下4階、研究フロアに到着した。他のフロアよりも天井の高さが高く広々としているその空間には、多くの白衣を着た研究員らしき人達がいた。
それぞれモニターや手元の試験管、タブレット端末を見つめるなり操作するなりしているようだ。
「少し狭いですが、あちらのキャットウォークからこのフロアをご案内します。」
広大な部屋の壁沿いに設置されたキャットウォークに上がると、ゆっくり歩きながら阿佐ヶ谷さんが説明を始めた。
「このフロアでは最新の設備を使って広く言えば『そもそも《
さて、ここで皆さんに質問です。あなた方のようなエクシードはいつごろから生まれるようになったか、知っていますか?」
すかさず勉学に関して言えばクラス一成績の良いユリが、「はい!」と手を挙げて質問に答えた。
「10年前に起こった、某国軍事施設での化学物質漏洩事件以降です。」
さすがユリ、即座に習ったことを思い出して口に出来るのは素直に感心するな。見習わないと。
ユリの回答に阿佐ヶ谷さんは拍手をして賞賛した。
「正解です、よく勉強していらっしゃいますね。
実はあの時、同時に発生した火災の影響により資料は焼失し、多くの電子データも破損してしまいました。
軍事施設の研修者は火事によって大半が死亡し、生存した方々も病院で未だに昏睡状態にあります。故にその化学物質が一体何なのか、我々は知り得ることができませんでした。
しかしつい最近、ようやくその化学物質が命名されたのです。それがEX粒子です。」
Eternal EXtreme粒子……直訳すれば『永遠の極端な状態』とでも言うべきか。名前から何となく察しがつくな。
キャットウォークから研究フロアを俯瞰しながら阿佐ヶ谷さんは説明を続けた。
「計算によるとEX粒子は、その濃度に個人差があるとはいえ、人類の約7割が体内に所持していると考えられています。これは生涯分解や排出はされないと分かっています。
そのうち《
そして能力の発現の仕方は《自然干渉系》か《因果干渉系》かと人それぞれですが、実はそれにも理由があります。
EX粒子が全身に偏りなく一様に分散と循環されると《自然干渉系》、脳内に多く蓄積されると《因果干渉系》の能力を発現することがわかっています。
循環系を通じて全身に巡るEX粒子を触媒とし、脳内にイメージした概念を体外の世界に具現化させる。火や水、光や影などあらゆる系統の《自然干渉系》能力は、このメカニズムが根本にあります。
一方で脳内にEX粒子が蓄積されると、それを触媒にニューロンのシナプス形成と余分なシナプスの縮小速度が向上することで、驚異的な演算能力を得ることが出来ます。これが《因果干渉系》能力のメカニズムです。
長々と話しましたが、ここまでで何か質問はありますか?」
すると霧峰が真っ直ぐ手を挙げた。
「《自然干渉系》能力について、もう少し詳しく教えて下さい。
全身をEX粒子が駆け巡って触媒になるのは分かりました。ただそれだけでは、いわゆる魔法にも似た能力を使えるようになることに対して理解できません。」
「なるほど、それもそうですね。
では詳しく説明するために、
《自然干渉系》能力と、おとぎ話の魔法。この両者の違いは何でしょうか?」
霧峰は顎に指を当てると、阿佐ヶ谷さんの難しい質問に答え始めた。
「《自然干渉系》能力はさっきの説明からすると、あくまで生体内の科学的な電気信号などを、外部の世界に影響させることで得られる能力です。
対して魔法は……広く知られている部類で言えば、宗教や人々の信仰に基づいた自然ならざる能力です。魔方陣を描いたり詠唱を必用とするものもあれば、精霊や悪魔、神などの力を借りて行使するものもあり、極めてその実態は多岐にわたると思います。」
「うんうん。つまりどういうことだと思いますか? 両者の違いと言うのは。」
「人が作ったものかどうか……いや、宗教も人がつくったと考えれば必ずしもノーとは言えない……。
第三者の媒介が必用かどうかという点では、EX粒子と精霊を同じ媒介と見なせば同じと言える…………。
……すみません、分かりません。」
とうとう霧峰は降参してしまった。確かに俺も両者の違いは分からない。むしろ変わらないようにも思える。
「そうですか。でも良い線はいってましたよ?
何人か気付いたと思いますが、実は《自然干渉系》能力と魔法は同じであると言っても過言ではありません。
その理由は単純です。
しかし『《自然干渉系》能力に必要なエネルギーとは何か』ということを考えれば、いわゆるオカルティクには説明がつきます。
これが魔法と《自然干渉系》能力を同一視する理由です。」
「……どういうこと?」
説明を聞いていた全員が首を傾げた。もちろん船付先生と武田先生もだ。
なぜなら《自然干渉系》能力に使われるエネルギーとは、食事で得たエネルギーを使用している、というのが通説になっているからだ。これはもちろんテキストタブレットにも載っている。
しかしそれを考え直すことで、魔法と《自然干渉系》能力を同一視することが出来るようになる…………一体どういうことなんだ?
とその時、《
「まさかあれって……」
すると、阿佐ヶ谷が俺のハッとした顔を見つけたらしい。
「キミは……坂宮涼也君ですね。《
「ど、どうもありがとうございます。」
「見たところ最後の試合、キミの《創現武装》は光り輝いてましたよね。
光を操るわけでもない貴方が、なぜ武器から光を発することが出来たと思いますか?」
「あ、確かに……」
「使える能力に矛盾した現象、《因果干渉系》能力によるコンピューターにも匹敵する演算能力を用いても説明がつかない力。
我々はそれを魔法と同一視し、使用するエネルギーを魔力と既に社内で呼称しています。
でも皆さんよく考えてみてください。能力行使を過剰に行った坂宮君、彼の体型はどうですか? 骨と皮だけになってますか?」
すると全員の視線が一斉に俺に注がれた。……無意識に腹を引っ込める俺。
「健全な体型そのものですよね。
食事により得られたエネルギーを用いていたら、脂肪や筋肉のたんぱく質が失われてもおかしくありませんよね?
それでもあの体型を維持出来ているということは、主に使用されるのはEX粒子によって発現した、いわゆる魔力だと考えられます。
食事によって回復したように感じるのは、極度な魔力不足によって体内の食物を速やかに魔力として変換することにより、魔力欠乏を回避しているからと考えられます。
そしてこれらを前提に《自然干渉系》能力の発現メカニズムを考え直すと、全て説明ついてしまうのです。
ただ一言、『それが魔法だ』と。
ちなみにこの理論を論文として発表したところ、世界的に認可されたので、そのうち教科書は書き変わると思いますよ。」
……え…………それを言いたいがために、こんな長い話をしたのかよ!?
つまり阿佐ヶ谷さんが言いたいことはこういうことだ。
『《自然干渉系》能力はEX粒子によって後天的に発現した、いわゆる魔法である。』
謎のドヤ顔をする阿佐ヶ谷さんに連れられ、キャットウォークも終盤に差し掛かってきた。
すると阿佐ヶ谷さんは立ち止まり、手を叩いて注目を集めた。
「さて、最後に皆さんに問題です。」
まだあるんですか…………頭がパンクしそうです、早く終わらせてください……。
「《自然干渉系》の能力を初めて発現した人は、変えることのできない《創現武装》を1度だけ創り出すことが出来ますね?
ではその《創現武装》の素材とは何でしょうか? ちなみに、金属ではありませんよ?」
金属じゃない《創現武装》の素材?
初めて生成した時、何か触媒となる物を用いたわけでもないし、材料のようなものを用意した記憶もない。それに1度創り出した《創現武装》は、たとえ壊れても時間が経てば再生する。
そんな条件に合うもの……?
「魔力で作ったものではないんですか?」
誰かがそう発言した。が阿佐ヶ谷さんは首を振って否定した。
「確かに魔力は使われると考えられます。
しかしそれは素材を固定するための
何だろう……再生可能なもの、そんなもの存在するわけが―――
「あっ……」
いや、あるじゃないか。初めて創り出した時すぐ近くにあって、壊れると再生する機能があるモノが。
答えに気づいた俺はそっと手を挙げた。
「もしかして……俺達の身体そのものですか?」
すると阿佐ヶ谷さんはニッコリと笑顔を浮かべ、両腕をバッと思い切り広げた。その姿はまるで興奮する科学者のテンプレートな行動そのものだった。
「正解! 素晴らしいですね!
坂宮君の言う通り、《自然干渉系》の能力を持つ方々の使う《創現武装》は、まさしくその創造者本人の血肉で作られたものなのです!」
自分でたどり着いた答えとはいえ、なかなかに衝撃的な事実だ。武器として使っていた物が、あろう事か自分たちの――文字通り一部だったなんて。
「この理論は随分前から仮説として存在はしていました。しかし証明することが出来ず、研究は困難を極めていました。
ところがEX粒子の研究が進むにつれ、徐々に解明されてきたのです。
そうして分かったことは、《創現武装》は《自然干渉系》の能力を発現した人のみ創り出せますが、その理由は体内におけるEX粒子の存在部位と関係があったという事です。
全身をEX粒子が巡っている《自然干渉系》能力の持ち主は、初めて能力を発現した時に身体が負荷に耐えきれず、生命に関わるほどではありませんが体表の細胞がいくらか分離してしまいます。
その際に細胞内に取り込まれていたEX粒子と体内のEX粒子が干渉し合い、分離した細胞同士が金属のような変色と硬質化を起こし《創現武装》となるのです。」
……すごい……俺は中学3年の時に初めて能力を発現したけど、その時に自分の周囲では細胞レベルの事象が起きていたのか。
これからはちゃんと大切に扱ってやろう。
長かった説明のオンパレードも終わり、俺達はエレベーター前に戻ってきた。
「さて、長かった見学会もそろそろ終盤です。
最後は地下2階のアリーナで、あなた方煌華学園の代表と、ラマティスの代表によるタッグマッチを行います。
それでは皆さん、エレベーターに乗って下さい。」
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