第6話 出発と因果干渉系

――ヒースネス 国際空港――



「1年武術A組、全員集合しました!」


 学級委員であるユリの出席確認が終わり、これから京都に行くグループは関西国際空港への飛行機に乗る予定だ。


「ユリと俺は座席が隣だよな? リンシンはどこに?」


「……2人の前の席。」


「そうか。


 でも俺とユリは3人席、とするとあと1席は誰が?」


「あたしよ! ゆりっち、やっほー!」


 天真爛漫なこの声は、ユリの幼なじみの霧峰京のものだった。霧峰は手を振りながら来ると、勢いよくユリに飛び付いた。


「きょーちゃん! きょーちゃんも京都に来るの?」


「そうよ! あたしずっと地元の埼玉周辺から出てきたことなかったから、京都行くのがすっごく楽しみでね!」


 なるほど、転勤族のユリの家とは違って霧峰の家はあまり旅行しないのか。


 と、ここでふとある疑問が頭をよぎった。


「そう言えば、ユリと霧峰って小学校以来の友人なんだよな?


 いわゆる転勤族のユリとまるで親友のような関係みたいだけど。どうしてなんだ?」


 すると霧峰がユリから離れ、腰に手を当てた。


「かなり今さらな質問だね、坂宮。


 まぁ確かに、しょっちゅう引っ越すユリに特定の親交の深い友人がいることが不思議に思う気持ちはわかるかな。


 でも理由は簡単よ。ゆりっちが一番長く1箇所に留まっていた時期に出来た友達があたしってこと。


 ちょうど小学校3年から5年生にかけて、あたしとゆりっちは同じクラスだったのよ。」


「あぁなるほど、そういう事か。」


 以外とあっけない理由に感心していると、既に保安検査に並んでいた引率の武田先生が呼びかけてきた。


 気付くと、生徒の3分の1は既に保安検査をパスしていた。


「何してるんだーお前ら、あんまり遅いと置いていくぞ!」


「あ、はい! 今行きます!」




 飛行機の中央付近の座席は、煌華学園の生徒でほぼ貸切状態だった。


「リョーヤ、私窓側でいい? 私、外の景色見たい派で……」


「おう、いいよ。ただ景色ったって海ばかりだろうけどな。」


 ユリを奥に座らせると、女子2人に挟まれるような配置になった。もう1人は……霧峰だ。


「霧峰、クラスの人達と座らなくて大丈夫なのか?」


「ん? 別に座席はクラスごとに分かれてるわけじゃないらしいよ。


 他クラスとの交流も兼ねてるってことだと思うけど。」


 なるほどな、それで霧峰はここに来たってことか。


「そんなことより坂宮、あなたこのサマースクール不安に思わない?」


「不安? なんでた?」


 霧峰は目をぱちくりさせると大きくため息をついた。俺なんか変な事言ったか?


「あんな大々的に犯行予告してたのに、もう忘れたの?


 《希望の闇ダークネス・ホープ》がテロの予告してたじゃん、それって丁度この時期でしょ?」


 ………あ、思い出した!


 まだ《煌帝剣戟ブレイド・ダンス》の予選が行われる前、《希望の闇ダークネス・ホープ》はメディアを通じて犯行予告をしていた。


 その予定日はハッキリしていなかったが、確かに7月下旬とは言っていた。


 そして今日はまさしく7月下旬だ。


「霧峰は……不安なのか?」


「うん。でも正確にどこで行うとは言っていないから、まだ京都じゃないはずって思える分気楽かな。」


「そうか……。


 とりあえず、せめて何事も起こらないことを祈ろう。」


 そんな会話をしていると遂に飛行機の扉が閉まり、ゆっくりと機体は滑走路へと進み出した。


「そういえば霧峰、ちょうどいい機会だから訊きたいんだけどさ。


 《因果干渉系》能力の持ち主って、俺らみたいに《創現武装》はあるのか?」


「いきなり何を言い出すかと思えば、これまた唐突な質問だね。」


 霧峰はそう言って軽く笑うと、《因果干渉系》の能力について詳しく教えてくれた。


「そんなものはないよ。


 あたし因果干渉系能力の持ち主は、その能力が初めて発現する時に高熱を出して寝込んじゃうの。


 けど熱はちょうど48時間で引いて、その後は自分でも信じられないくらい頭の回転が早くなるの。」


「それじゃあ自分が《超越者エクシード》だってことに気付かない人も出てくるんじゃないか?」


 特に発言が真冬だった場合は、風邪やインフルエンザと間違える可能性は大いに高いはずだ。


「うーん、確かにね。


 世界で把握できている《因果干渉系》能力を持つ《超越者エクシード》は、まだ全体の7割程度しかいないんじゃないかって言われているんだよね。」


「つまり、まだ把握出来ていないのが3割も……。」


「でも放っておいても、坂宮たち《自然干渉系》能力とは違って、あたし達には目で見えるような能力があるわけじゃないでしょ?


 だから基本的に放っておいても平気だろう、ってのが世の中の大半の考え方だね。」


「そ、そうなのか……。


 群を抜いて才能に秀でた人がいたら、企業や国家のデータにアクセスしてやりたい放題できる気もするけどな……。」


「その点は大丈夫だと思うよ。


 先進国や主だった発展途上国はサイバー攻撃に備えて、《因果干渉系》能力を持ってる《超越者エクシード》を公務員として雇ってるの。


 それに大手企業も高い賃金で平均10人くらいの《因果干渉系》能力の《超越者エクシード》を雇ってるって話だし。」


「そうか……それなら安心だな。」


「でしょ?


 あ、そろそろ離陸するよ。」


 霧峰の言う通り、飛行機はヒースネスの滑走路から飛び立つと、目的地である関西国際空港へと進路を取った。

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