第3話 軽い女と猫かぶり

――ヒースネス 商業エリア――



「ねぇねぇ、キミって坂宮涼也だよね?」


 食事を終えて店を出ると、赤羽澪孔に呼び止められた。彼女の隣にはフレッド・ウィスコンシアも立っている。


「そ、そうですけど?」


「うわっ! やっぱ!? そうだと思ったんだよねー!」


「えっと、俺に何か用ですか?」


「? あぁ、そうそう。さっきの件、口外しないでほしいなってね。


 うちの学校って結構厳しくてさ、学園と総合アリーナ以外での能力行使は原則禁止なんだよねー。」


 口止めをしに来たってことか。別に戦って強制的に口封じをさせるつもりは無さそうだし、ここは了解しておこう。


「別に誰にも言うつもりはありませんよ。こっちとしても、状況説明やら何やらするのもめんどくさいですし。」


「ありがとう! リョーヤ分かってるぅ!」


 と言って、いきなり赤羽澪孔が腕に抱きついてきた。何なんだこの人は!?


「あ、あの!? なんですかいきなり!?」


「えぇー? 感謝のスキンシップだよー?


 それに無理に敬語を使わなくてもいいよ? 学年同い年だし。」


「同い年って、まさかあなたが―――」


 赤羽澪孔は俺の腕から離れると胸を反らし、ドヤ顔で―――


「そう! 修帝学園1年で校内ランキング4位の赤羽澪孔とは、このあたしのことよ!」


 店内で噂されていた、四天王を倒した1年っていうのはこの人か!


「そ、そうだったんですか。俺って情報収集能力が他人より劣っているんで―――」


「嘘をつくなよ、煌華の氷。今お前の脳から不自然な電気の流れを感じたぞ。」


 ようやくフレッド・ウィスコンシアが口を開いたと思えば、いきなり俺の嘘を見破った!? 


 察するに、脳内の神経を流れる電流を感じ取ったのか。


「あー、ダメですよ先輩。いきなり怒り口調で言ったら怖がっちゃうじゃないですかぁ。ねぇ?」


「い、いや俺は別に……。」


「けどな澪孔、今あいつはお前に嘘を―――」


「あまり怒らないでください。」


 気のせいか今の一瞬、赤羽澪孔の声が低くなった気がする……。フレッド・ウィスコンシアは大きくため息をつくと自己紹介をし始めた。


「オレはフレッド・ウィスコンシア。修帝学園3年で校内ランキングは3位だ。名前は好きに呼んでくれていい。何しろファミリーネームが呼びづらいからな。


 そしてこっちは赤羽澪孔。詳細は……さっき本人が言った通りだ。」


「は、はじめまして、煌華学園1年の坂宮涼也です。校内ランキングは6位です。


 こっちは同じく1年のハク林杏リンシン。校内ランキングは18位。」


「……よろしくお願いします。」


 リンシンが浅くお辞儀した。そういえばリンシンも18位か……《煌帝剣戟ブレイド・ダンス》予選でかなりランクを上げてたよな。ま、それはさておき。


「そしてこっちが……ってあれ? ユリ?」


 なんか……雰囲気が店にいた時と違う。どこか殺気立ってるような……。


「1年校内ランキング13位の城崎きざき百合です。」


 ど、どうしたんだ……声が一段と低いぞ? って、たしか以前にもユリのこんな声を聞いた気が……。


「あんたにひとつだけ言っとくわ。


 リョーヤに対するスキンシップはなるべく控えてくれるかしら? いつなん時頭上からファーブニルが落ちてくるか分からないわよ?」


 ……思い出した。ユリのこの声は学校での訓練が始まったその日、俺が倒れかけたリンシンを支えた時に聞いた声だ。あの時はユリが誤解してキレたのが原因だったが、今回は赤羽澪孔の方に原因があるようだ。


「あら、物騒なことを言うのね。あたしはただ未来の彼氏に抱きついただけよ?」


「「「………………はぁぁぁ!?」」」


 その場にいる全員――もちろん赤羽澪孔を除く――が驚きの声をあげた。俺が未来の彼氏って、一体何の話だよ!?


「あ、あの、未来の彼氏って何のことでしょうか?」


「いやぁねぇリョーヤったら。あなたの事でしょ?


 それとあたしの事は澪孔って呼んで? 敬語も抜き!」


「いやいやいや! この状況でいきなりそれは色々とマズイので、赤羽さんと呼ばせてもらいます。


 敬語は……分かった。」


「そっ、ならそれでもいいわ。


 城崎さん、別にあなたにどうこう言われる筋合いは無いわ? あたしはただリョーヤに一目惚れしたからそう言ってるだけよ?


 何が悪いの?」


「何が悪い……ですって?」


 ユリの身体が震え始め、炎のオーラがほとばしり始めた。数ヶ月前にこのユリを止めるために、わざわざ真技を使ったんだよな……懐かしいな。


「あんた、ぽっと出のクセして何なの!?


 人のもの勝手に横取りすんじゃないわよ!


 それに一目惚れですって? 見た目で判断するような軽いオンナに、絶対リョーヤは渡さない!」


「今さらっとすごいこと言ったよな!? 俺はまだ誰のものでもないからな!」


 すると、俺の突っ込みをスルーして赤羽さんが何か呟いた。


「軽い……オンナ……?」


 赤羽さんの眉尻がピクッと痙攣すると、徐々にその身体から白と黒のオーラが溢れ出始めた。


「何も知らない赤の他人に、軽い女だなんて言われたくないわね! 


 あたしは一途よ! 惚れやすい一途なの!


 そこら辺のビッチと同じにしないでくれるかしら、猫かぶりさん!?」


 惚れやすい一途って……それもそれで説得力ないな。


「赤羽、その変にしとけ。ここで能力を使うのは得策じゃないだろ?」


 フレッドさんが赤羽さんをなだめようと肩に手を掛けた。俺もユリを止めないと、取り返しがつかなくなりそうだ。


「ユリも落ち着けって。俺は誰のものでもないし、赤羽さんと付き合うなんてことも約束してないからさ。


 とりあえず今は―――」


「「あんたは引っ込んでて!」」


「「……はい」」


 完全に頭に血が上った2人の女子はお互いの目を見ながら、あろう事か宣戦布告をしてしまった。


「煌華学園には揉め事は決闘試合で決めることになってるの。


 付き合ってもらうわよ、尻軽女!」


「あら奇遇ね。修帝学園にも同じようなことが規定されているのよ!


 そのお誘い受けて立つわよ、猫かぶり!」


「おいおい、なにもそこまでして―――」


「「あんたは黙ってなさい!!」」


「しょ、承知しました……。」



 こうして《煌帝剣戟ブレイド・ダンス》の、前哨戦もどきの開催が決まってしまった……。

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