第21話 不快感と健闘
――煌華学園 第2アリーナ――
翌日、俺とアラムは早朝から剣術だけのウォーミングアップをしていた。能力を使っても良かったのだが、お互いに相手が氷でも炎でもないので勝手が違うと思い、結局封印している。
「はっ!」
アラムのナザロートが俺のミステインを弾き飛ばした。純粋な剣技なら、アラムは俺を上回っているかもしれない。……あくまで剣技は。
「これで僕の―――」
「甘い!」
大技を出すことが筒抜けなアラムをバック転して足で牽制し、落下してきたミステインをキャッチした。
「あぁー、おしい。」
「次の攻撃のタイミングをもう少し早くすれば、致命傷を与えることは可能だと思うよ。
それと、剣技に関しては何も言うことはないけど、これからは体術を鍛えた方がもっと強くなれると思うな。リンシンに教わるのをオススメするよ。」
「スパシーバ。
でも相変わらず師匠口調だねリョーヤは。いや、別に責めてるわけじゃないけどさ!」
「そーか? 意識はしてないんだけどな……。まぁ実際、今までお前らの教官をしていたわけだし、いいじゃないか。
……てか、スパシーバって?」
「ロシア語でありがとうって意味さ。
さてと、それじゃあ僕はそろそろ招集所に行くよ。応援よろしくね!」
「おう、頑張れよ!」
アラムは手を振りながら招集所に向かって走って行った。
あいつ、一切不安を口にしなかったな。校内ランク2位なんて向き合うだけでも怖いだろうに……。
そんなことを思っていると、アラムが出ていった門から、入れ替わるように誰かがフィールドに入ってきた。
「やぁやぁ、昨日はよく眠れたかい?」
現れたのは……ヒューム・スクウィールだった。昨日の不快感が思い出されて舌打ちをしてしまった。
「チッ」
「なんだい? 先輩に対して舌打ちかい? 偉いもんだね。」
「今度はなんですか? また喧嘩売りに来たんですか?」
ヒュームはわざとらしく肩を竦めた。やめてくれ、何だか分からないけど酷く不快だ。
「そんなことすると思っていたのかい? 心外だなぁー。」
「じゃあ何しに来たんですか?」
「ただのウォーミングアップさ、ウォーミングアップ。
ぼくもいくら上位ランカーとは言え、ぶっつけ本番は辛いからね。」
「あぁ、そうですか。それは失礼しました。
それじゃ俺は友人の試合を見るんで。」
それだけ言うと第1アリーナの招集所に向かって歩き出す。これ以上この人と同じ空間にはいたくない。
「へぇ、キミにもようやく友達ができたんだー。
ぼくはてっきり、キミに友人なんて一生できないだろうと思っていたのに。」
背中越しに聞こえてきたそのセリフに、思わず足が止まった。
……なんだ、今の言い方は? まるで俺を以前から知っているかのような口ぶりだ。
「それってどういう事ですか?」
「言葉のままだよ? ぼくらは昔から知り合っている仲だよ。
いや『ぼくは』と言うべきかな?」
「は? 一体―――」
さらに問い詰めようとすると、第3ブロック決勝戦の開始アナウンスが聞こえてきた。
『それでは第3ブロック決勝戦
試合開始!』
クソッ、もっと話を聞きたかったけど仕方ないか。
「ほらほら、大事なお友達の試合が始まっちゃったよ? 早く行ってあげな?」
「……言われずとも行きますよ。」
最後にその顔を睨んでから早歩きでその場を後にした。アラムの応援と俺とヒュームの関係、天秤にかけるまでもなくアラムの応援に行くべきだ。
「またね、贋造品くん。」
――煌華学園 第1アリーナ――
『強い! 強すぎる!
校内ランク2位のテルミン選手、カシヤノフ選手の業火を暴風で吹き飛ばしていく!』
招集所にあったモニター越しに試合を見ると、試合が始まってまだ2、3分だというのに両者の優劣は既に明白だった。
―――アラムが劣勢だ。それも圧倒的に。
「くっ……! 分が悪い!」
アラムの能力の長所は暴力的なまでの荒ぶる炎の熱だ。これを上手く使うことで、アラムは決勝戦まで上り詰めることができたと言っても過言ではない。
が、決勝戦の相手も暴力的な威力の風を操るなら優勝は別だ。
まるで木枯らしに吹かれる焚き火のごとく、アラムの業火は完全に………操られている。炎を操ることのできるアラムにではなく、風を操るリサ選手によって。
「はぁはぁはぁ―――
さすが……校内ランク2位の…リサ先輩。正直言って……予想以上の……強さですね。」
この短時間でかなり激しい能力戦を繰り広げていたのだろう、アラムの息がかなり上がっている。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。
貴方の業火も、離れていてもうぶ毛が焦げるのではないかと思うほどの熱気を感じます。
しかし! わたくしは先の《
テルミン選手はそう言い切ると、わずかに残っていたアラムの業火を暴風で消し去った。
あの業火を消し去るなんて、なんて風圧だ! リンシンの風とは比較にすらならないだろう。
「わたくしの《創現武装》、ウィルストムでその身を貫いて差し上げましょう!」
「怖いこと言いますね……なら僕はこのナザロートで斬り捨ててみせます!」
テルミン選手の
「参りますわ!」
「僕もいきますよ!」
銀髪のロングヘアをなびかせて、テルミン選手が駆け出した。アラムも口元に笑みを浮かべながらテルミン選手に向かっていく。
『熱い! 暑い! アツイ戦いだぁー!!
全力を出して相手に挑むこの光景、まさに決勝戦に相応しい試合ですね。』
『そうですね。
観客席の方々も両者に黄色い声援を送っているようですし、この試合は今大会一番の盛り上がりを見せていること間違いないでしょう。』
テルミン選手と一進一退の攻防を繰り広げるアラムの剣技は、やはりかなりの腕前だ。能力戦では引けを取っても、接近戦ではほぼ互角といったところだ。
が、互角であって決して優勢ではない。攻撃を仕掛けても受け流されるか防御され、逆に攻撃を仕掛けられてもヒットすることを許さない。
と、ここでようやく試合が進み出した。
『おおっとここでカシヤノフ選手のナザロートが、テルミン選手のウィルストムを弾き飛ばしたぁー!
テルミン選手絶体絶命かー!?』
「もらっ―――」
「いいえ、まだですわ!」
テルミン選手は体操選手顔負けの身のこなしで、襲いかかるアラムの剣を掻い潜りウィルストムをキャッチした。
『おぉ! テルミン選手、素晴らしい身のこなしで見事ウィルストムをキャッチしました!
ここから反撃に出るか!?』
テルミン選手は距離をとってから大きく剣を横に振り、小さな竜巻を2つ生成した。が、小さくとも竜巻は竜巻、フィールドに凄まじい空気の流れが発生した。
「こ、これは……う゛ぅっ!」
と、突然アラムが頭を抑えて悶えだした。一方のテルミン選手はなに食わぬ顔で立っている。
『カシヤノフ選手、急に頭を抑えだしました! 一体どうしたのでしょうか?』
『どうやらカシヤノフ選手付近の気圧が、テルミン選手の竜巻によって急激に下がっているみたいですね。
気圧が下がったことで、内側からの圧力による頭痛が発症したと思われます。原理だけ言えば、偏頭痛と似たようなものですね。』
「そろそろ終わらせますわ!」
風に乗るようにリサ選手が勢いをつけてアラムへと接近する。対するアラムは―――頭痛の影響でうまく動けないようだ。それに戦意もかなり削がれているようだ。
これこそがテルミン選手の作戦。肉弾戦でも、能力を使った直接攻撃でもない。最も効率的で勝ち目のある戦い方である、戦意を削っていく戦法。
さすが校内ランキング2位、アッシュさんの次に強いと言われる人だ。
「〈
目で追うのも困難なスピードでリサ選手が風に乗って飛び回り、アラムに切創を刻みつけていく。
「うあ゛ぁぁぁぁ!」
頭痛と刻まれていく傷の痛みで、アラムが苦痛の叫びを上げる。アラムには悪いが……これはもう決まったな。
「やあぁぁぁ!!」
リサ選手がアラムの腹をウィルストムで突き刺し、フィニッシュを決めた。背中に貫通した剣先からは、鮮紅色の血が滴り落ちている。
「僕の……負けです。」
「貴方の炎は、今後確実にさらに成長するでしょう。
その時にまた手合わせしましょう?」
アラムが敗北を認めたことで試合が終了した。
『試合終了!
勝者、《
アラム選手、健闘むなしく敗北しました。しかし! 白熱した戦いを見せてくれた両者に、今一度大きな拍手を!』
会場からこの上ない拍手の嵐が鳴り響いた。いいなぁ、変な駆け引きなしのガチンコ勝負。憧れはするけど、俺の戦い方には合わないかな。
アラムは担架に乗せられてフィールドを後にした。しばらく安静にして例の点滴を打っておけば、夕方には復活するだろう。
『場内の皆さまに連絡します。
この後の第4ブロック決勝戦は、10分後に開始予定です。
それでは、一旦休憩を挟みまーす。』
さて、いよいよ次は俺の番だ。待ってろよ、ヒューム・スクウィール!
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