青い館の神秘
こもり匣
プロローグ
銀の髪には油を
白い肌には秘薬を
青い唇には赤い口紅を
青い唇には赤い口紅を
あの歌を聴いたのは、いつだったか――。
ほんの昨日か、あるいは遠い昔か。
あれはそう、
今はそれすら曖昧で、こうして物語る間にさえ、記憶はどんどん不明瞭にぼやけて、あたかも溶けた
悲しい思い出ならば尚の事、
その日、僕は急な
実家の姉が、急死したと連絡があったのだ。大好きだったあの美しい姉が、突然死んでしまった。
親戚の話では自殺らしい。
姉は、長くつき合っていた恋人に手痛くフラれ、その事が原因で
しばらく通院していたのは知っていたが、こんな事になろうとは、夢にも思っていなかった。
数日前から行方が分からなくなり、やがて裏山の森の中で、変わり果てた姉の姿が発見された。
物干し用の太く丈夫なロープで、首を
郷里を離れて以来、姉とは長らく会っていなかったが、記憶の中の彼女は、
もっと早く姉に会って、悩みを聞いてあげれば良かったと、
だが時間は巻き戻りはしない。
けれど、ガタゴトと走る電車の揺れが妙に心地良くて、心も身体も疲れ切っていた僕は、ついウトウトと夢路を
現実が、急速に遠ざかって行く。
甘い香りと幻想が、
僕はまだ幼くて、姉もまだ少女だった。
彼女は茶目っ気たっぷりに微笑んで、雪が溶けたばかりの
僕は懸命に姉の後を追うが、なかなか追いつけなくて、彼女の姿はどんどん遠ざかるばかり。
いつしか視界は不気味な青白い霧で閉ざされて、自分が何処にいるのか分からなくなった。
何とか霧を
僕は姿の見えぬ姉が恋しくて、必死で運河へ飛び込み、泳いで渡ろうともがいた。
すると不意に異質な風景が、ちょうど二重露光のように差し込まれて、気がつくと見知らぬ空の上にいた。
ゆっくりゆっくり、綿毛のようにフワフワと、厚い雲を抜けて行く。
眼下に現れたのは、青い瓦屋根の大きな館、僕はそこへ、まるで渡り鳥のように舞い降りるのだ。
館の周りは、庭園の迷宮が果てしなく続き、春夏秋冬あらゆる花々が、季節を無視して咲き乱れていた。
そのまま館の屋根をすり抜けて屋内に入ると、明かりのない薄暗い廊下がずっと続き、その先には豪華な西洋風の部屋があった。
部屋には美しい異国の婦人が、窓際の椅子に座っていて、聴いた事のない歌を口ずさんでいた。
彼女は、僕に気づくとニッコリ笑う。
華奢で色白の若い女性で、後ろで丸く結った髪は、生まれながらの珍しい銀髪だ。彼女はそれを、
瞳は憂いを帯びた淡い
――何がそんなに悲しいのですか?
僕が
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