恋愛ってなんだろう?

相澤春夏

第1話 突然のお誘い

 僕が下校していると、校庭の片隅で芝生に寝転んでいる人がいた。

 誰だろう? この時間なら僕と同じ帰宅部なんだろうけど……。

 今は春で桜が咲き誇っているとはいえ、まだまだ気温が低くお昼寝には早いような気がするのだけれど。

「あの……」

 僕は勇気を出して話しかけてみた。

「……ん?」

 ぐっすり寝ていたのか、寝ぼけ眼で僕を見上げる。

「そんな所で寝ていたら風邪をひきますよ?」

「ああ、もうそんな時間なのか」

 僕のカバンを見て、その人が大きく伸びをする。

「ついウトウトしててさ、気がついたら寝てた」

 そう言って屈託なく笑う。

「わざわざ起こしてくれてありがとな。もうちょっとで寝過ごすところだった」

 制服に着いた芝生の草を払いながら立ちあがると、僕にお礼を言ってくれた。

「いえ、ちょっと気になったものですから……」

新学期早々、風邪をひいたら大変だ。

「この後、時間あるか?」

「はい。別に用事はないので」

 そう、ただ帰って時間を潰して夕飯を食べ、お風呂に入って寝る。

 僕の毎日なんてそんなものだ。

「じゃあ、行こうか。起こしてくれたお礼に……」

 そう言うと、彼は校門とは逆の方向へと歩いて行く。

「お礼なんて別にいいですよ。大したことしてないので」

「いいから、来いよ」

そう言いおいて、すたすたと歩いていってしまう。

僕は慌てて後を追う。

 どうやら裏門から出るらしい。

 すると、そこにはリムジンが止まっていた。

 僕が目を丸くしていると、

「乗れよ」

 と、なんでもないことの様に言ってさっさと乗ってしまった。

 僕はビクビクしながら、車へと乗り込んだ。

「あの、おじゃまします」

「おじゃましますって、家じゃないんだから……」

吹き出しそうな勢いで笑われてしまった。

「変ですよね」

 僕は赤くなりながらも、彼を見る。

 よく見ると、誰もが目を引きそうなくらい整った顔立ち、その辺のカッコイイと呼ばれる人たちとは違って、品があって華がある。

 僕は場違いな所に来てしまったと思って小さくなっていると、

「これから俺の誕生日祝いをするらしいんだ。お前も出席しろよ」

「そんな、初めて会ったばかりなのに……」

初対面でいきなり誘われるなんて·····。

「起こしてくれたお礼。これくらいしかできないけどな」

「でも、僕なんかが行って大丈夫なんですか?」

「どうせろくでもない奴らしか来ないんだ、お前がいてくれた方が俺も助かる」

「はぁ……」

「着いたぞ」

 そこは、大きなお屋敷で僕は面食らってしまった。

 こんな豪華な家に来たこともなければ、誕生日会なんて幼稚園の時以来なので、どう振る舞ったらいいかがわからない。

「お前はただ俺と一緒にいれば良いだけだから」

「そう言われましても……」

「まだ名前名乗ってなかったな。俺は藤堂光。お前は?」

「藤堂って、学校に多大な寄付をしてるって言うあの?」

「ウチの親が勝手にやってることだから気にすんな。で、お前の名前は?」

「高里歩です」

「そうか。俺のことは下の名前で呼べよ。じゃないと、不振がられる」

「はい」



「おっ、似合うじゃないか。お前着映えするタイプだったんだな」

 制服からスーツへと着替えさせられて、僕を見て光君がそう言った。

「まるで七五三の気分です」

「七五三って……」

 笑いながら、ぽんぽんと肩を叩かれる。

「大丈夫、誰もお前がおかしいなんて思わないから。今日の主役は俺だしお前は黙って俺の傍に居ろよ」

「はい」

「堅苦しいなぁ。お前何年生?」

「高2ですけど」

「俺と同じじゃん」

「そうなんですか?」

「また敬語になってる。まぁいっか。行こうぜ」


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