……無言の見つめ合い

「…………、」


「…………?」




無言の見つめ合い、







……う〜ん、どうしよう、話しかける?


でもこの子今「呼んだ?」って言ったよな?俺は今目の前の少女を呼ぶようなことは何も言ってないし、どーゆー意味だ?



なんと話しかけたものか……




と悩んでいたところ、




「私のこと、呼びました?」



まただ、


「えっと……どーゆー意味かな?」


とりあえず、まともに話しができるのか、確認してみよう、



「……私はハンナといいます。」



なるほどね、この幼い女の子の名前がハンナちゃんっていって、さっき自分が壁にぶつかった時に上げたうめき声が、同じハンナァァァァァァ、だったから、自分の名前を呼ばれたと思って反応したってワケか。



……どうやら話は通じる、




……かは怪しいが、丁度いい、ここから出してもらおう。



偶然とはいえ、目の前に現れたこの女の子なら今のこの状況をなんとかしてくれるかもしれない。




「そっか、君はハンナちゃんって言う名前なんだ。」



よし、まずは今自分が置かれている状況を説明してもらうとしよう。


「じゃあさ、ハンナちゃん……」



ところが、



「私は名乗りました。あなたのお名前は何といいますか?」


名前を聞いてきた。



……マイペースだな、こっちの話を聞いてくれない。



でも、今自分は名前含め色々記憶がなくなっている。


そのことも、目の前の女の子が知ってるかもしれないが。




「俺か?……う〜ん、実は思い出せないんだ、それも含めて君に……」




「記憶喪失でしょうか?」



またこちらの話を無視して自分の話を進めてきた。



「そうだね、」



「そうですか、記憶喪失とは、大変ですね、さぞお困りでしょう。」



「うん、おかげで今の状況がさっぱりわからない。困ってるよ。」


「では……」



あっもしかして仮の名前を付けてくれるやつ?その後ここから出してくれるのかな?

この状況の説明もしてくれるとありがたい。




この子見た目はポーッとしてるけどわりと……




そう、思っていたのに……





「記憶が戻るよう、祈ってます。」




ではまた、記憶が戻ったら呼んでください。



そう言うと、ハンナちゃんは一歩さがり、回れ右したかと思うと、そのまま歩いていってしまう。



「……あれ?」



じゃなくて、


「オォォォォォォォイ⁉︎それだけか⁉︎放って行くのかよ⁉︎」


それだけ⁉︎祈るだけなの⁉︎もっとこう、色々あるでしょ⁉︎


……今自分はどこにいるのか、とか、自分を閉じ込めているこの透明な壁みたいなのは何なのか、とか、まず出してくれるとか、



名前を名乗らなくてもできることは色々あるじゃない?困ってるって言ったよね?なんでそれで祈るだけで放って行けるの?バカなんじゃないの?



さっきから人の話は聞かないし!


バカなんじゃないの⁉︎バッカじゃないの⁉︎


もちろん口には出さず、心の中で繰り返し叫ぶ。



仮にもこれから助けを求める相手だ。



機嫌を損ねるわけにはいかない。





それに、




相手は年端もいかぬ女の子なのだ!少しは抜けてるほうが可愛いではないか?




自分は大人だ、



ヤケになって年下相手にガチの野次を飛ばしたりはしない!


年下の女の子相手に本気でキレる大人とか格好悪すぎるからな!



(……自分の年すら覚えてないけどね!)




ので、口に出しての暴言は吐かない、





そう……表面上は、




しばらくやいのやいのと待ってくれ的なことを叫び散らしていたのだが、(心の中でなら三桁に到達する程の暴言)それらのことごとくを無視される。




どうしたものか、あのロリ野郎め、こっちが下手に出てるからって調子に乗りやがって、




……いいだろう!



そっちがその気ならこちらにも考えがある!



どうやら年上の怖さを教え込まなければいけない時が来たようだ!



「おーい、とにかく話を聞いてくれ!じゃないとお兄ちゃん本気で怒るよ⁉︎」



決死の叫び、ついでに最終警告、



これを無視してきたらあのロリロリした頭をワシワシしてやる!




……ここから出る方法は知らんが、



「よ〜し、お兄ちゃんそっち行っちゃうよ〜」



自分でもキモいと思う言い方で、ハンナちゃんに頼むからここらで止まってくれの念を送る。



そこで、先程まで、こちらの叫びを無視していたハンナちゃんが、数歩歩いたところで立ち止まり、


「チッ……さっきからロリロリと……」




とか聞こえた気がするが……。



振り向いた。




ついにこちらの叫びが届いた!


そう、思っていたのに、



「……ごめんなさい、私、ロリでバカなのであなたの言ってることが理解できないです。というか、ワタクシニホンゴワーカリマシェーン」




……なんてこった。



口に出した叫びじゃなくて心の叫びを聞いてなすった。




どうやってかは知らないけど……、






数メートル先の女の子から、お怒りオーラが出ているのが分かる。



だが、今怒っているのはこちらも同じだ。



むしろ、こんな状況で、困ってるって言ってる相手を平気で放置するあっちの方が悪い!



「先程の発言を取り消して下さい!」



なんて言ってくるが、



「そっちが言われるような事するからだろ‼︎」






……だからこちらが引く理由は全く無く、







「……じゃないとこのまま死ぬまで放置します。」






……全く無く、






「……お願いしますせめて今この状況の説明だけでもしてはいただけないでしょうか。」




「ではまずは謝って下さい。」






全く……







「……なさい……」


「え?聞こえません、ここまで聞こえるようはっきり言って下さい!」







全く‼︎







「ごめんなさい‼︎」




ある!



たとえどんなに理不尽でも、最悪な状況から脱するためには折れねばならない時があるのだ!






「よろしい!そこまで言うなら仕方ない。あなたの暴言の数々は水に流してあげます。でも今回だけですからね?」


「ありがとうございます‼︎」




何様だこいつ!






「何か言いましたか?」



「いいえ!何も言ってないし思ってもいません!」



「そうですか、では、」


そう言うと、ハンナちゃんはまた回れ右してその場から立ち去ろうとする。



「だから待って‼︎せめてこの状況の説明をしてくれ!そしてここから出して‼︎」



「それは出来ません、」


「何で⁉︎」


とにかく外へ出なければ、いつまでもこんな場所に閉じ込められているわけにもいかない。



「それはそこから出るとあなたが消えてしまうからです。」


急に深刻そうな顔をしたかと思うと、ハンナちゃんは物騒なことを言い出した。



「……は?」



何言ってんのこいつ?


「でもそうですね……もしかしたら話した内容がきっかけで記憶が戻ってくれるかもしれません。そうあることを祈って少しだけ話をしましょう。」



「うん、そうしてくれると助かる。」




ってか最初からしてくれよな、




「やっぱりやめ……」


「ごめんなさい冗談です。」




……こうして、


まだ自分が何者かも思い出せない男と、そんな男の前に現れたハンナと名乗る幼い女の子との、どこかもわからない何も無い空間での対話が始まった。

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