初めの一年。

やろう、ディベート。

第1話

ひゅうっと冷たい風が頬を撫でる。うぅっ寒い…。私は急いで教室へと入る。

中はまだ暖房を付けていないようで寒い。私は自分の机に置いてあるショールを羽織った。

時計を見ると、今は7:50。早い時間なので教室には数人しかいない。何人かはお喋りをしているし、何人かは勉強している。

私は席に座ると、鞄から古今和歌集を取り出した。和歌が好きになったきっかけは、百人一首だった。名前が三笠、というから、あの阿倍仲麻呂の、「天の原」の歌を知ってから、私はすっかり百人一首に夢中になった。今年かるた部に入部したけれど、部には競技かるたが強い人がたくさんいて、公式戦にはあまり出してもらえない。ちょっとつまんなくなってきたから、百人一首以外の和歌にも、手を広げてみたのだ。手始めが、この古今和歌集。やっぱり、昔の心の人を感じるのはいいものだな…。


「おはよう〜!」

この明るい声は。

「依莉…?おはよう〜」

隣の席の依莉だった。依莉は、ポップダンスを習っているから部活には入っていない。去年同じクラスになってから仲良くなって、ついこの間席替えで隣になってから依莉とばかり話すようになってしまった。

「朝から元気だね〜本当にいっつも元気なんだから依莉は。」

「そんなことないよ〜そうだ、何読んだるの…?ん?古今和歌集?また和歌読んでるの?三笠は…。」

「和歌を読んでるんじゃなくて、昔の人が読んだ和歌の心を感じてるのー。」

「違いがわからない…。ってあ、そうだ、そんなことは置いておいて、ねえねえ、三笠!!突然で悪いんだけどさ、ディベートやらない??」

「えっ?でぃべ…?」

「でぃ、べ、え、と!知らない?アメリカとかでは結構有名なんだけどなー」

古文好きの私にアメリカの話をされても…。というか、依莉、本気なのかな?

「ディベートって…何?どんなことするの…?」

「んー簡単に言うと、なんかのテーマで、賛成と反対に分かれて、議論して競う、みたいな競技なんだけどね」

…意外とちゃんとした答えだ。今までの○○したい〜っていう依莉の適当な口癖とは違うみたい。

「ふーん、それって、1対1なの?」

「…いや、よくわかんないんだよね、それが…。調べてみたら、日本でやってるやつは、4パートに分かれてるんだって。それを何人でやるかは書いてなかったんだよね…。」

「そうなんだー。4パートっていうのは…?」

「あ、それは、立論、質疑、第一反論、あ、じゃなくて…えーっとえとなんだっけな…んー……あっ!そう!反駁!第一反駁!と第二反駁!!」

「反駁って…その相手のやつに反論すればいい感じなのかな?2回で終わりなの?」

「うーんどうもそうっぽいんだよね…経験者とかいないかなー」

「そんなそうそういるもんじゃないでしょ…」

キーンコーンカーンコーン

8:30。始業のチャイムが鳴って、先生が入ってくる。

「起立、礼。」

1限が始まる…。今日は、幾何だ。



キーンコーンカーンコーン。4限の終了を知らせる鐘。12:30だ。朝、依莉に話を聞いてから考えてしまっていた。ディベートってどんなものなんだろうな?って。あと、依莉がどうやってディベートをし始めるつもりかも気になっていた。

授業に集中出来ず、あっという間にお昼になっていた。

隣なので、依莉とお昼を食べる。

「ねえ依莉?」

「うん?」

「あの、朝のディベートの話だけどね?」

「あ、考えてくれた!?」

「まずさ、依莉はさ、どうやってディベートやろうと思ってるの…?」

「そうだなー…同好会を作るかな?3人いれば同好会になるし!…顧問さえみつかればいいだけじゃない?」

「なるほどね…そっか…そこまで本気か。」

「私はいつも本気なんだけどな…」

「何言ってんのよ」

「…ごめんなさい。でも、どうすればいいんだろうね…」

「ん?いや、普通にこの学年でディベートやりたい人がいないか、誘ってみるか!ちょっと行ってきまーす。」

そういうと、依莉は教室を出て行った。

…しまった。依莉は一度始めるとそれをとことんやっちゃうんだった…。なんでもやっちゃう行動力は尊敬するけど、周りに迷惑かけないように、気をつけてほしいな…。今回、迷惑かけたら、私のせいになるのかな…。うーん。

「待って、依莉!私も行く。」

「あ、そう?」

私たちは一緒に教室の外に出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る