第11話 看破

 食堂で先輩の騎士を蹴り飛ばしてカタナを振り回したクラッドは、折檻を受けることになった。その場に居た俺とカーチスも簡単な尋問を受けた。


 サプタイト神聖王国の裁判は神罰官と呼ばれる職業人が法廷で行うのだが、騎士同士の喧嘩沙汰なので、そこまで大げさなことにはならない。


 神罰官面会室に連行された俺たちは、神罰官から聴取を受けた。クラッドはカタナを抜いているので、問答無用で1週間の独房軟禁と兵舎のトイレ掃除1週間の刑に。俺はテーブルに突っ込んだあと、騒ぎが収まるまで見ていただけなのでお咎めなし。カーチスはクラッドを散々に煽ったという俺の証言で、自室で5日間の謹慎となった。


 お咎めなしといっても拘束された時間はかなり長かったので、結局その日の午後の訓練に出ることは俺もできなかった。クラッドの曲がるカタナの秘密を知ることができず、カーチスがかけたちょっかいのせいで一日を潰されたので、俺はいつもの訓練漬けの一日とは別種の疲労を感じていた。


 昼間騒動のあった食堂で夕飯を胃袋に詰め込むと、俺は同室で謹慎を食らったカーチスの分の食事を盆に載せて二人部屋の自室に帰った。


「おい、飯持ってきたぞ」


「ケイン・グルバック! お前俺を売っただろ!」


「俺を今まで散々コケにしてきたお返しだよ。俺とオリヴィエさんを引き合わせたのもお前だしな。団長に殴られ続けた俺の2カ月の責任がお前にある事を忘れたとは言わせないからな」


「でも、ケインが気絶する度に医務室に迎えに来てやったろー?」


「だ、か、ら! 医務室に俺が突っ込まれるようになった原因がお前だろ!!」


 二段ベッドの下で寝転がり読書をしていたカーチスは、さっそく俺に突っかかってきた。いつも俺に対して主導権を握っているため、してやられたことが悔しいのだろう。


「というより、今回はお前が全面的に悪いぞ。クラッドにカタナを抜かせるように仕向けただろ。なんでだ」


「あれれ、気づいてたのか。さっすが俺の相棒だ」


「俺はお前の事を相棒だと思ったことは一度もないけどな」


「まぁまぁ聞けよ相棒。俺の意図に気付いた褒美として、あの反抗期少年のカタナの秘密を教えてやるよ」


 相棒、と呼ばれて顔をしかめる俺に、いつもの悪戯っぽい笑みを浮かべながら、カーチスは部屋の丸椅子に座り直した。さっさと夕飯を食わせろという意味だ。


「嘘じゃないだろうな」


「俺の顔の広さは知ってるだろー?金かコネかフットワークがあれば大体なんでも出来る」


 ニワトリのソテーをキャベツと一緒にフォークで突き刺しながら、汚職政治家のような事を口にするカーチス。台詞がとても騎士の物とは思えない。


「俺は全部持ってないからそういうのはお前に任す。で、あのカタナの仕掛けはなんなんだ?」


「ゴッズだよ」


「ゴッズ?」


 聞きなれない言葉だ。特殊な金属だろうか。


「んー、やっぱ知らないよなー」


「その田舎者を相手にするみたいな態度はやめろ」


「わかったわかった。じゃあ簡単に説明するなー」


 昼間の騒動の件から、俺の気がそんなに長くないことを察したのかカーチスは真面目な顔になった。自室での謹慎を命じられている彼にとって、食事の調達はルームメイトの俺に一任される。ここで俺を怒らせた場合の損害に思い至ったのだろう。


「ゴッズってのは、魔法とよく似ているけど魔法とは違う法則で働く、覚醒者だけの力の事だ」


「なるほど、覚醒者なら魔法の様な力を魔力が無くても使えるんだな?」


「そうそうそういうこと。あの反抗期少年のゴッズは物体を捻じ曲げるものだな。具体的な作用は本人にでも聞いてくれー」


 これには驚いた。俺も覚醒者の一人ではあるがゴッズの話は一度も見聞きしたことがなかったからだ。一朝一夕で身につけることができないため、訓練騎士に教えられることが無かったのだろう。


 しかし、聞いたからには実践してみたい。


 ここで、一つ決心がついた。


「クラッドの曲がるカタナの種は分かった。そこでだカーチス。質問がある」


「おーよ、どうした?」


「お前は訓練騎士に教えられていない情報を数時間でそこまで調べた。すごいと思う」


「お、おう。俺もケインが晩飯をちゃんと持ってきてくれたのはすごいと思う......?」


 いきなり褒められたことで警戒心をあらわにするカーチス。


「そこでだ、お前が目覚めてるゴッズについて詳しく聞かせてくれ」


 ぐへぇ、とカーチスは舌をだして上を向いた。

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