第6話  挫折

 結論からいうと、俺の攻撃が団長に通じることはなかった。というより、まともに立っていることすら許されなかった。団長に、自分が何をしているのか忘れる程に殴られた騎士なんて、教会広しといえども俺くらいのものだろう。


 ひしゃげて脱げなくなった鎧を引きずって辿り着いた医務室は、そりゃもう大騒ぎだった。俺を見たときの室長の顔なんて、東方の異国から伝わる鬼面ばりに凄かった。


 なんせ、普段から昏倒して運ばれてくるような新人騎士が、今度は誰なのか判別がつかないくらいに顔を腫らしてやってきたのだ。その犯人が、付き添いでやって来た教会騎士団長だと知っていればなおさらだ。


 普段から医務室長と団長は折り合いが悪い事で有名だが、その理由は俺のように、団長が毎年新人騎士を医務室に叩き込み続けているからだろう。


 俺の惨状を見てキレた室長が団長を医務室から締め出し、回復術を掛けながら俺に訓練禁止を言い渡したのは幸いだったかもしれない。このままの心情では、団長に顔を見せられる気がしない。しばらく休みをもらえるのはありがたかった。


 本気を知らなかった。団長からすれば、先日までの俺は本気を見せる価値すらなかったのだ。新米騎士が騎士団長に本気を出してもらえないと嘆くなど、それこそ奢り高い話かもしれないが、本当に悔しくて苦しかった。俺の18年の人生において、最も深い挫折だった。


 団長が去った後、俺は日が沈むまで泣き続けた。

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