妖さん、僕の始めてになってよ
握り飯太郎
第1話 障害の少年アダルバード
いつもの朝、それは香ばしいバターの香りと淹れたての紅茶の匂いで始まる。
「アダルバード様、起きて下さいな。」
「とてもいい匂いだね、アニータ。」
アダルバードと呼ばれた少年は1人では広すぎる位大きな羽毛のベッド、職人により技術を駆使して作られた幾何学模様の絨毯、滑らかな曲線を描いた王国調の
家具などで彩られた部屋で目が覚めた。
しかし、目が覚めたと言うよりも彼の場合は意識が戻ったと言う言い方の方が合っているのかもしれない。
「アニータ、先に紅茶から飲みたいな。僕、昨日は口を開けて寝てたみたいで喉がカラカラ‥いや?カスカスなんだ」
アダルバードはフカフカの羽毛のベッドに座り直すと小さく真っ白な手を空中に漂わせながら紅茶を受け取ろうとしている。
アダルバードは殆ど目が見えない。
かなりの至近距離で物を見ようとするとうっすらと
見える程度だった。これは生まれつきであり、彼はそのせいで生まれて一度も自分の部屋から外に出た事がなかった。
「お待ち下さいね、今淹れたてなので急いで飲むと火傷してしまいます。‥‥‥さあどうぞ。」
アニータはカップから立ち上がる湯気に軽く息を吹きかけ続けるとそっと‥アダルバードの指先から手に、カップを持たせるように両手を重ねると離した。
アダルバード。
彼の両親は金融業を立ち上げており、彼はその1人息子である。
長く伸びたカナリアのような金毛の前髪から覗く目は長い睫毛で伏せっており、小さく通った鼻、薄い唇、
アダルバードは幼いながらもとても顔立ちの整った美少年だ。
そしてアニータと呼ばれるメイドは彼専属の召使いで
あり、田舎に沢山の歳下の兄弟を持つ彼女はアダルバードの面倒見も良く彼もアニータをとても大切な姉のように慕っていた。
「アダルバード様、今朝は奥様があなた様の為にプレゼントを渡すように私にこれを渡されました!」
そしてアニータはアダルバードの目の前に小さな子供が抱くには大きなテディベアを取り出した。
アダルバードがキョトンとしてゆっくりテディベアの感触を確かめるように触ると自分の顔の近くにテディベアを近づけじっくり見た後にテディベアの耳や鼻を触って「クマさん!」と喜びの声をあげた。
「母様‥!嬉しい!昨日の5歳の誕生日‥覚えててくれたんだ!」
アダルバードは花開くような満面の笑みを浮かべると勢い良くテディベアを抱きしめ顔を埋める。
「母様にお礼が言いたいな!アニータ、母様の元へ連れて行ってくれない?」
「いや‥えと!奥様は朝から旦那様と仕事に向われましたので!‥ね?それに、せっかくの朝食が冷めてしまいますよ!本日はクロワッサンとアールグレイティー、フルーツヨーグルトに目玉焼きですよ」
アニータは慌ててベッドから身を乗りだそうとするアダルバードを止めると何とか誤魔化そうとしている。
何故ならアダルバードの母親はプレゼント所か、誕生日ですら気に留めていないからだった。
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