その041「ジェットコースター」

「姉ちゃん姉ちゃん」

 今日、遊びに来た遊園地にて。

 ジェットコースターがゆっくりと上り坂を上昇をし始めた中、僕は隣席の姉ちゃんのことを呼ぶ。

「な、なによ……って、こんな時でも、お皿の前で無言で餌を待ちつつもリズミカルにしっぽを振ってるわんこみたいになってるわね」

「今になって思い出したんだけど、姉ちゃんって絶叫マシン系すんごい苦手なんじゃなかったっけ?」

「……そうよ」

「朧気な記憶を辿ると、昔お父さんと一緒に乗って、大泣きしながら降りてきたくらいに」

「は、恥ずかしい黒歴史を掘り起こさないでくれるかしら?」

「んで、今乗ってるのは全国でも屈指のスリルと言われてるジェットコースターなんだけど、なんで姉ちゃん、乗ろうと思ったの?」

「…………」

 姉ちゃん、少々顔を赤くしつつ仏頂面になるも。

「そろそろあなたに、私の姉としての威厳を見せつけないといけないと思ったからよ」

「え。もしかして、それだけの理由で?」

「最近、あなたには何度もイジられてるからね。私もちゃんとやれるってことの証明してや……あっ――――――っ!?」

「お、おおお、おおおおおおおぅっ!?」

 そうこう言ってるうちに、コースターの加速が開始されたぞっ。



 で、終わった後。

「ふぃー、楽しかったぞー……あ、姉ちゃんが真っ白になってる」

 加速中、僕がスリルと熱狂を存分に楽しむ一方、姉ちゃんはずっと声すら上げずに耐えてたんだけど。

「う……む……ぬぅ……」

「あ、気が付いた」

「く……ふ、ふ、ふふふ、た、耐えきって見せたわ……」

「姉ちゃん、足が震えっぱなしだぞ。歩ける?」

「大勝利、大勝利だわ……私は、マシンが発するストラグルタイムに打ち勝ったのよ……!」

「言ってることの意味がよくわかんないぞ……っとと」

 会話しながらアトラクションの階段を下りきったところで。

 姉ちゃんが足をもつれさせたので、慌てて僕が支えに入って、


「………………怖かった」


 ポツリと、姉ちゃんから一言が漏れた。

 ……とっても素直な、今の気持ちだった。

「そっか……頑張ったね、姉ちゃん」

「うん」

「えらいぞ、姉ちゃん」

「うん」

 それでも、涙を見せなかった姉ちゃんに、キュンとなっちゃったぞ。

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