『ボク』の王道ファンタジー

えあろん

#1-1 始まりはこんなもの

 


 ――出会いは一瞬、別れは一生。


 子供の時、親からよく言い聞かされたその言葉は今でも僕の人生に大きな影響を残している。

 この言葉が、僕の人生を作ってきたと言ってもいいくらいに大事にしている。

 今だって、そうだ。

 例えば、そう。


「アグニート・イザ・ダルドーマ」

「ディエット・マラサイカ」


 いつも通りの学校帰りに、上空でアニメとかでよく見る『魔法』が飛び交って、人が浮かんでいたとしても、それを前向きに貴重な出会いだと僕は……僕は……。


「レイガンストル」


 僕が、目の前で繰り広げられている突拍子もない魔法合戦に腰を抜かしていると、暴発した鉄砲の砲丸のような魔法がこっちに向かってきていた。

 

 ……綺麗だ。


 不思議とそんなことが頭に浮かんだ。

 いきなり遭遇した意味の解らない状況に腰を抜かして、意味の解らない魔法の暴発的な何かで死ぬかもしれない状況で僕は、何を思っているのだろうか? 自分を疑いたくなる。

 なにせ、自分でもわかるほどに口元が物凄くゆるんでいた。

 言ってしまえば物凄く笑っていたんだ。

 こんな状況で、死ぬ直前に。


「ディア・ホーリー」


 死を覚悟した僕の目の前に今度は、神々しい大きな盾が現れて暴発した魔法から守ってくれた。


「おい、ミディア! 周りに気を付けろとあれほど注意したじゃないか!」

「え!? 私が悪いの? だって、練習を始める前はあんな場所に人なんていなかったじゃない」


 上空では、爽やかな金髪の青年が華奢で綺麗な赤髪の少女を叱っていた。

 容姿がある程度似ているから、もしかすると兄妹なのかも。


「……まー、確かに。おい、そこのお前」


 心の準備も何もないまま青年は、僕に向かって話しかけてきた。


「は、はい」

「一体どこから現れたんだ。この『試魔場こまば』我が一族の領地内なはずだぞ。まさか、他領地から送り込まれた密偵か何かか?」


 青年が浮遊しながら訳の分からないことをずっと言ってくる。

 現れた? こまば? ここは、東京じゃないんだぞ。駒場なわけがないじゃないか。それに、我が一族の領地って市長の何かのお孫さんなのか? 言ってることがむちゃくちゃすぎる。


「何を言ってるのかちょっと」

「それになんだ、その衣服は。初めて見るな」


 浮遊していた青年がゆっくりと降りてきて、僕の着ていた学校の制服を怪しむように見る。


「なんだ、この素材は」

「ちょっ、勝手に触るなよ!」


 ごく自然に青年はボクの制服を触ってきた。

 これにはさすがに驚いて、手を振り払ってしまった。


「……っ。なんだ、その態度は」

「なんだって、お前が僕に勝手に触ってきたり、意味の解らない事を言ってきたんだろうが! それになんだよ。あの『魔法』」


 パニックになる僕を見て、浮遊していたミディアと呼ばれた赤髪の少女も降りてきた。


「どうしたの? にぃ、なんかやったの?」

「俺は何もやってないぞ。こいつが勝手に……」


 そこまで言って青年は、僕の足元を見てあることに気付いたらしい。


「お前、その足首に刻まれている魔法陣!」

「ちょっと、にぃ、急に顔色変えてどうし……えっ!? うそ」


 二人が僕の足首にある何かを見てただひたすらに驚いていた。

 そのおかげで少し冷静になれたボクも、足首を見てみる。

 すると、足首には小さな魔法陣が刻まれていた。


「そうか、成功していたのか」

「これって、もしかして、快挙だったり」

「快挙どころじゃないぞ! もしかしなくともこの世界を救えるんだ」

「え、ちょっと本当に何言ってるの」


 どうやら、話についていけていないのは僕だけらしい。

 目の前に居る二人は、それはそれは物凄く喜んでいた。

 あれ、てか待てよ。


「ここ、ど……こ……?」


 つい、言葉に出してしまった。

 いつもの学校帰りの途中だったはずだった風景は、いつの間にか広大な草原に変わっていて現代日本じゃ味わえない程に澄み渡った綺麗な青空にクリアな空気が流れていた。

 いつのまに、場所が変わっていたんだ?

 どうやら、魔法合戦に集中しすぎていて気付けなかったらしい。それにしても鈍すぎだろ僕。


「やぁ、ようこそ。よ。慌てるのも無理もなかったな」


 青年は、さっきまでとは打って変わった態度で僕に手を差し伸べ歓迎とばかりに爽やかな笑顔を向けてくる。

 というか、本当に状況がさっぱりわからない。


「え、英雄? ぼ、ボクの事?」

「なるほど、そちらから名乗ってくれるとは有り難い。英雄・ボクよ」

「え、ちょっと」


 状況が理解できないまま、何故か上手く事が運んでいるようにとんとん拍子で話が進んで行く。


「俺の名前は、ソーサル・ミレリア。ミレリア家の継だ」

「そして、私がミディア・ミレリア。にぃ、ともどもよろしくね」


 話が進みに進み、なぜだか二人が名乗ってくれた。


「さっそくで悪いのだが、屋敷に案内したい。そこでボクがおかれている状況を説明しようじゃないか」


 どうやら、僕の名前は『ボク』に決定らしい。

 ちっともこっちの話を聞いてくれない。てか、喋るすきを与えてくれない。


「さぁ、俺に着いてきてくれ」

「大丈夫だよ。にぃ、は悪い人じゃないから」


 色々と大丈夫じゃないんだよな。とか、思いつつ今の状況を少しでも理解できるのならと、ソーサルとミディアにひょこひょこと僕はついて行った。

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