私のよく知ってる、知らない世界
ハマシン
本編
プロローグ
その男はある一室で目覚めた
どうやら眠ってしまっていたようだ
少し意識がボーとする…
彼は思った
スキャニングは終わったんだろうか?
そう思ってから
男が目を開け体を起こそうとすると、
目の前に白衣の医師らしき男がいる、
目覚めた男はベッドの上にいるようで
医師らしき男は、そのベッドの傍らにいる
なにかを計測する機械、まぶしい照明、病院の一室だろうか?
まどろむ男に医師らしき男は抑揚のない声で聞く
「お目覚めですか?ああ、まだ横になっててください。どこか体の異変はありませんか?」
と、男を制するように言う
「少し頭がボーっとしますけど、もう終わったんですか?少し眠っていてしまったようでして、すみません」
男はよく回らない口で答え体を再び横にする
「ちゃんと、答えられるみたいですね。体に異変はありませんか?手や足にしびれや動かない等はありませんか?」
男は手を握りしめ開いてみる。ちゃんと動く
膝を曲げて伸ばしてみる。ちゃんと動く
「大丈夫です、特に問題はないですよ…」
質問に答える
「目は見えますか?私の顔はわかりますか?」
医師らしき三十代の眼鏡をかけた男の顔も見える
「はい、見えます。眼鏡をかけていらっしゃいますね」
目を見て答える、何の質問だろう?と不思議に思う
「今あなたの右手の小指を握ってます、何本で握られてるかわかりますか?私の顔を見て答えてください」
自分の手は見えないが小指の先端を握られた感触がある、
「えーと…二本ですかね、右手の親指と人差し指で握られてるのかな?」
「そうですか良かった、また検査はしますがとりあえず大丈夫そうですね。もし、どこか不調があったら直ぐに申し出てくださいね」
「はい、わかりましたありがとうございます」
反射的にふっと答えて、そこで異変に気付く、男はほぼ全裸に近い状態で眠る前とは違う場所にいるのだ。体に毛布を掛けられベットに寝かされている。今日はスキャニングの日で、あの大きな機械の中でスキャンを受けていたはずなのだ。いつの間にこんなところへ?と
そう思うのと同時に、一つのことが男の脳裏に思い浮かんだ
「ご自分のお名前は言えますか?」
「…小久保仁です」
「今日が何日かわかります?」
質問の意図が分かった気がして、答えが遅れる
「今日…は8月12日じゃないんですか…?」
医師の答えは
「小久保さん、落ち着いて聞いてください。今日は10月15日です。貴方がスキャニングを受けた日じゃありません。貴方は生まれ変わって今ここにいるんですよ」
落ち着いた医師の答えが、残酷に聞こえた。
「そうか…今の俺はクローンか」
―自然人であればだれもが持つ、生存権や人の尊厳の保持、人の生命及び身体の安全の確保並びに社会秩序の維持(以下「人の尊厳の保持等」という。)が不当に侵され逸した場合。これが与える社会的逸失は計り知れないものがある。それを保護するためクローン技術による個人の保護、制限を法に規定する―
今から30年ほど前に、国会である法案が議決した。
「クローン誕生に関する制限等を規定する法」俗にクローン法と呼ばれる法案だ。
議決からさらにさかのぼる事25年前には完成したまったく同じ遺伝子・容姿・記憶を持つ人間の命を作る技術を容認する法である。それは人道的・或いは宗教的な観点から、その技術が確立されてからも長い間、許されざる事といわれ、また通念でもあった。
だが、世界の情勢が変わりつつあり少子化や高齢化問題などから、人口の急激な減少に伴い、事故や災害に伴う死亡で人口が減るのを危惧した政府は、これを回避するために、クローン技術を限定的な条件で使用しても良いという内容の元この法案を採択した。当時は、国内外で大きな波紋を呼び世論を二分したと言うが、30年もたつと社会では一般化し、多くの人が受け入れるようになった。
この法案はいくつもの制限があるが、大きなものを上げるとすると
「同一の遺伝子を持つ者を同時期に存在させてはならない」
「クローン製造は自然死等には適用されない」
これは本人が死亡したとき、それも意図しない死である事故・殺人等のときのみクローンを作ることが可能という意味であり、世界に同じ遺伝子を持つ人間の存在を許さず。あくまで、死によって出る突然の不利益を回避するという意味が法案に込められている。
この物語の主人公の小久保仁は一度死に、そして同じ容姿・記憶を持ったクローンとして新たに作り出された命である。
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