第54話 マジカルミラクル☆リリスたん
「楽しかったよォ。ちょっと勇者御一行に同行させてもらっただけなんだけどねェ」
フフ、と笑う少年。真っ黒な詰襟に真っ黒な髪、人の良さそうな笑顔。
だけどそんな少年の持つナイフは、あかねんの首元に容赦なく突きつけられていた。
俺たちがあかねんに近づこうとすると、
「っつ……」
少年の持つナイフに力がこもり、あかねんの首から血が少し流れる。
「やめてくれっ!」
俺が少年を制止するように声をかける。ミカゲはギリギリと歯ぎしりをするだけだった。
「やめないねェ。だってボク、犯罪者なんだぜェ。あ、そうだ、その娘、シアンちゃんだっけェ? ちょっとでも動いたら、あかねさんの命はないと思ってねェ?」
罪悪感がまるでないような笑顔の少年は俺たちに指示をする。
シアンはものすごい顔をしているけど、一歩も動けないようだった。口からは小さく「壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す壊す」と何度も言っていた。
……シアンさん、マジコえぇっす。
僕たちと少年が睨み合う。少しでも俺たちが動こうとすると、少年はすばやくあかねんの首元のナイフを強調させる。
そんな、膠着状態を動かしたのは、タローだった。
「マジカルっ! ミラクルっ! ドリームファンタジアっ! ハートのパートはいつでもひとつっ! マジカルリリスチェーンジ!!」
タローじゃないぐらい流暢な呪文と同時に、タロー自身が光る。
まばゆい七色の光がアパートの一室に広がり、俺たちは一瞬で目が眩んだ。それはあかねんも詰襟の少年も同じであった。
それは一瞬で部屋の中心に移動していた。
目が慣れてきた頃に見えた光景は、なんと、か細い美少女が決めポーズを決めて、あかねんと少年の目の前に立っている。そんなシーンだった。
藍色のサラサラとした髪と、星のいっぱいついたようなキラキラした目をした美少女。
キラキラとした真っ白い戦闘服は身体のラインに合わせてピッタリしているけど、そことは対照的なふわっとしたかなり短いスカートを穿いている。
……あれは絶対にパンツが見えないような仕組みである。
左手にはピンクを基調にしたハート型のバトンをクルクルっと鮮やかに回し、踊るような流暢な動作をするが、スキがないその動きはとても芸術的であった。
そう……アニメそのままの魔法少女がいたのだ。
……ええと、ここ日本ですよね。アニメの世界じゃないですよね?
その少女は詰襟の少年へ向き直り、すうっと息を吸ってファイティングポーズを決めて、大きな声で必殺技を叫んだ。
「マジカルぅ―――――! リリス! トンファーァァァァァァっ!!」
うん、それ蹴りですよね――。
目に見えない速さの蹴りの一発目で少年のナイフを弾き飛ばし、二発目で少年の胴へヤクザキックを決める。
高いハイヒールが功を奏して、少年の胃袋に踵部分が直撃する。
……うわぁ、あれものすごく痛いよ。
「あのおねーちゃん、なかなかの凄腕だな」
ミカゲが、ヤクザの抗争のようなセリフを言ってます!
いやもう
俺はツッコミながら、少年をがっちりと縛り上げる。
「え? ぼ、僕、どうなっちゃってますか?」
キラキラしたリリスたんの声が、野太いタローの声になっていた。その声が戸惑っている感じで、とにかくキモい。
そういや、トンファーって叫んだときは、かわいい声だったような?
……いや待てよ? 衝撃的すぎて声がどっちだったかなんて、もう覚えてないわ。
放心状態のあかねんの荷物を漁り手鏡を取り出したシアンは、リリスたんに渡す。
「え、えええーーー! ぼ、僕がリリスたんになってるーーーーぅ!!」
と叫んだと同時にリリスたんが霧散し、タローの姿に戻った。
「……あ、もどった」
「え、ええ? い、一瞬ですか、リリスたーーん!!」
タローのスマホを見ると、アプリ上部に横文字が流れていた。
『呪文を区切ると効果時間が激減します。流暢に呪文を唱えますようお願いします』
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