第50話 ケイスケブロマイド

「いいわ、答えましょう……その前にっ! いよいよ中ボスも最後よっ! 気合が入るわねーー!」


 やたらと高いテンションのみよちゃん。

 今日のみよちゃんの衣装はギラギラと紫に光る法被を着ていたが、襟に『ケイスケ大好き♡』とプリントされているものであった。

 ……それってコンサートとかで着るやつでしょ。


「この件が終わったら、わたしは占い師の仕事終わりだもーーん!! 嬉しいわぁ」


 ちくしょ、一抜けすんのかよ。ずるいわ。

 そんなみよちゃんに、ミカゲはケイスケブロマイドをちらつかせる。もちろん、このブロマイドはタロー作であるので販売は出来ないが、みよちゃんの趣味で所持する分には問題はなさそうだ。


「ああっ、ケイスケさまぁぁぁぁ!!」


 一枚、ひらりと落ちたブロマイドを大事そうに拾い上げるみよちゃん。顔がもう、あかねんとタローと同系のジャンキー顔だ。

 ……あかん、これは本物だ。



「このブロマイドがもっと欲しければ、ずっと俺たちに協力しろ」


 ミカゲ、わかり易すぎるぜ、それ。でもみよちゃんは、まんまとその手に乗る。


「ご、ごほん。いいわ、答えましょう。しょうがないわね、デート……いや個人的な用事がないときは、きちんと協力するわ……(ケイスケ様のためだもの、ケイスケ様のブロマイドのためなら火の中水の中よっ)」


 うん? みよちゃんの心の声が聞こえたよ?



「ご、ごほん!! まあ、それはそれとして。今回の中ボスは本当の犯罪者なの。だからあなた達は十分、用心してちょうだい」


 ごそごそとその法被の上にタオルケットローブを羽織るみよちゃん。

 あ、そのローブは一応仕事着でしたっけ。


 そこに気取られていた俺を、ジロッとみよちゃんが睨む。はいすいません、すごく気になっていました申し訳ありません。


 みよちゃんの話を集中して聞くと、なんと、この田舎村にオレダヨ詐欺の本部があるらしい。

 オレダヨ詐欺とは老人宅へ孫からの電話と偽り、お金をせしめる詐欺である。息子より孫の声のほうが分かりづらいケースが多いので、引っかかってしまう率の高いものであった。


「あー、そういや羽振りがやたらとよくてガラの悪い連中、いたなぁ」


 ミカゲが以前、飲み屋のおねーちゃんの寝泊まりする宿舎の近くに仕事で行った時、聞いたことが無い会社がその宿舎の近くのアパートを一棟まるごと借り上げたらしい。

 気になって工事の挨拶で聞き込みをした結果、そこの社員たちがやたらと羽振りがいいと、飲み屋のおねーちゃんたちに人気だったようだ。


「……話が早いわね。つまりそこの借り上げアパート一棟全部がオレダヨ詐欺の本拠地なのよ。出来るだけ被害が少ないように、犯罪者を捉えることをお願いするわ。ただし、殺しは厳禁よ」


 えぇーー!! それって警察の管轄じゃないの? 単純に。


「警察はダメなのよ。魔王の呪いの影響でオレダヨ詐欺グループは全員がモンスター化しているの。だから、あなた達が解決しなければいけないというのが理由なのよ。お願い! 頑張ってちょうだい!! ケイスケ様のためにも!!!! ケ・イ・ス・ケェェェェ!」


 あかん、ジャンキーの雄叫びだ。ていうかここは一応役場内であり、現在の俺たちは仕事中なはずなんだが。

 じろりと課長にみよちゃんが見られているものの、その課長はふぅ、とため息をついて読んでいた新聞に目を戻していた。

 ……暗黙の了解なのかな。それともいつものみよちゃんなのかな。


 そのことはどうしても聞けずに、俺たちは出かけることになった。

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