第43話 勇者に休息は許されず

 俺たちは鍾乳洞を見る余裕もなく、スライムたちを倒していく。


 そうしてしばらく進んだ先、折ノ下鍾乳洞の最奥と思われるすこしへこんだ場所に、岩に刺さっている剣があった。

 その剣には、上から刺す光……よくよく見ると乾電池式のLEDライトで照らされていて、幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 ……そうだね、よくある演出だね!


 もうちょっとうまくライトの部分を隠しつつ、かっこよくライティングすればいいのになぁ……と思ったけど、田舎村の職員だし、こんなもので精一杯なんだろう。



 そして、最奥の手前には大きな広間があり、そこには、プロジェクションマッピングで映されているデカい龍がいた。


 ズドォォォォンンンンンンン!!!


 龍の振り回した尾で、洞窟内部に響き渡る大音量。

 ビリビリと洞窟全体が震える。


 ……いやもうマジで特撮超えてますよ、これ。


 銀色のウロコに覆われた白銀の龍。フォルムもシャープでかっこいいし、洞窟内部でじっとしてるより、空をゆうゆうと飛び回るほうがかっこよく見える龍であった。


「ですよね、本に出てくる洞窟内の龍って、大抵でっぷりと肥えているタイプが多いから、これは予想外です。そもそもドラゴン大全には……」


 あかねんも同意してくれる。が、そのあとの知識を聞いている時間はなさそうなぐらい龍には迫力があり、今にもこちらに襲いかかってきそうである。


 だが、俺たちは大広間前の狭い路地で待機しているので、ドラゴンは襲いかかってこなかった。



「で……だ。あの龍って物理攻撃って聞くのか?」


 ミカゲが質問してくる。たしかにプロジェクションマッピング龍なら、物理攻撃が効かない上に、こちらにはダメージが加算されていくだろう。

 ……アプリ的にだろうけど。


「なにかで確認しないとダメだろうな。俺たちが突っ込んでいって物理攻撃はダメでした――なんてシャレにならないよなー」

「んじゃー、これ使ってみっか」


 ミカゲがポケットから、先ほど拾った野球ボールを取り出し、投げる。

 シッ! っと小さく息を抜いて投げたミカゲの球は、龍に向かっていくうちにグンッと上がるものだった。


「おっし、ライズボール決まったな。休憩中に練習しててよかったぜ」


 そして龍の眉間にスパンッ! といい音を立てて、HITする野球ボール。

 グオオオオオ! と唸りを上げるドラゴン。すげぇリアルで恐ろしい。


 ……つまり、あれはコスプレっていうかきぐるみっていうか、特撮的なものなんだろうな。ただの野球ボールがドラゴンにぶち当たってるんだから。

 あんな攻撃力が高そうなものがプロジェクションマッピングじゃなくてよかった。


「物理攻撃オーケーと。じゃあ俺の出番だな」


 ミカゲを先頭に、俺以外の仲間は、武器を持ち直して構える。

 俺は武器がないので、手をぐっと握ってこぶしを作る。あ、演歌歌手ではありません。ただのファイティングポーズです。

 そして、いつもの掛け声をかける。


「よし、では、始めるぞっ!!!」



 ミカゲを強化し、龍の攻撃を一手に引き受ける。ブレスは器用によけたり、アイスソードの能力で防いでいたり、あかねんのちょうどいいタイミングの補助魔法が功を奏して、ミカゲ一人でもなんとか立ち回れていた。うまいもんだなぁ……。


 タローは新いもざえもんを呼び出していた。


「はじめましていもーーーーーーー!! ボクは真☆いもざえもーーーん!!」


 あ、真のほうなんすね。了解。

 昨日までのいもざえもんとは数段素早さが違う、真いもざえもん。七色のいも爆撃も冴え渡る。あかねんも適宜にミカゲとタロー、そして真いもざえもんにヒールやワードトラクションなどを唱え、いい連携だ。


 俺? 俺は武器ないので、気楽な観戦中であった。


「おい和哉。なにボサッとしてるんだ。おめーはあの剣ゲットして、この龍の皮を剥がせや!」


 あ、そうか。面胴小手しないと、龍は元の人に戻れませんものね。

 すみません。サボってました。今やります。


 と、掃除をサボっていて叱られた小学生のような気分で、俺は剣がある最奥の場所へと向かった。

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