第35話 お昼の休憩

 いい加減、お昼が毎日適当過ぎるので、


「全員、お弁当を持ってくること」


 と勇者権限で、昨日の帰りにあかねんとタローに申し付けたので、今日は全員お弁当だ。

 そのことはミカゲには言ってなかったのだが、なにやら可愛らしいチェックの包みに入った大きな弁当箱を持ってきていた。

 つい気になってジロジロ見る、俺。


「ん? 俺の弁当が気になるか?」


 だってさ、中身は可愛らしいハート型のゆで卵だったり、プチトマトもゴマで出来た目を付けて可愛い系の仕様だし、鶏の照り焼きのガッツリ系なものもあれば、ひじきと蓮根の煮物やさらにはデザートのみかんもついていて、かなり見栄えも、栄養バランスもいいお弁当だ。

 手が混んでいて、極めつけはお手製混ぜご飯っぽいものも見えた。


「すごい弁当だなってさ。ミカゲんちのお母さんが作ったのか?」


 俺の卵焼きとウインナー、そして柴漬けに白飯なお弁当に比べたら、ものすごくグレードが高い。


「はっ、まさか。俺んちのかーちゃんはめんどくさがって、弁当なんて高校んときから作ってなかったわ。これは、恵奈が助けて貰ったお礼とかなんとか言って、ぐいぐい押し付けられた弁当だよ」


 うんうん、恵奈ちゃん頑張れー。まずは胃袋からゲットだぜ! 恵奈ちゃん。

 そして、ミカゲはたぶん鈍感系主人公のスキルを持っているとみた。だから、恵奈ちゃんからガンガンいくのが正解だねっ。


 ミカゲの弁当を見て、あかねんの目は死んだ魚の目のようになっていた。あかねんの手元にはカロリーメイトとカップスープ(コーン)が置いてあった。

 いやもう異世界とかじゃなくて、用意するのめんどくさかったんでしょ、それ。

 さらに寝坊した上にあかねんは料理があまり得意ではない、というオーラを俺は感じた。


「ぼ、僕のお弁当もちょっとすごいんですよ!」


 と四角い箱を取り出すタロー。

 お、干し肉と水はとうとう卒業か! と思ったけど、中身はきれいに並べた干し肉がぎっしり入っていた。そしてペットボトルの水。

 いや、もはや何も言うまい。



 そんなお弁当タイムを経て、咲ちゃんが変化したバジリスクの話になった。

 あかねんが資料として、茶色の装丁の分厚い本を持ってきていた。


「ええとですね、バジリスクは伝説の怪物とされていまして、蛇に鶏冠がついているものであったり、鶏のしっぽが蛇であったりするタイプがいます。その中でも咲ちゃんのタイプは鶏のしっぽが蛇のタイプで……」


 と、なにやらあかねんは、水を得た魚のように延々と説明してくれるが、簡単にまとめると咲ちゃんは石化ブレスと爪に猛毒があるとのことだった。


「視線で石化じゃなくてよかったですよ。あの状態で視線石化だったら、全員やられてますもん」


 あかねんは胸をなでおろすように言う。確かにあの状態だったら、タロー以外はバジリスクを見てたもんなぁ。俺たちがやられれば、タローもあっという間にやられる、と思う。


「ぼ、僕は怖いものよりフィギュアのほうが大事です! ミカエルたんの1/2スケールなんてスゴいんですよ! あの足から内ももの曲線美なんかは……」


 うん、よし。タローはいつも通り放っておこう。


「あかねの話から考えれば、とにかくあの蛇に近寄らなければいいんだな?」


 ミカゲがどのように戦えばいいのかの案を出す。あかねんは「あかねんって呼んでくれていいんですよ?」と言っていたが、論点はそこじゃない。


「まあ、魔法かなんかで足止めして、面胴小手やりゃあ終わるんじゃねぇか? 出たとこ勝負だな」


満腹感も相まって、いい加減な戦略会議ではあったが、大まかな戦闘方法をそれぞれに確認し、残りのランチタイムは昼寝に当てることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る