第28話 有線放送
「どういう事態になってんだ、和哉」
「……勇者のちからを取り戻す封印を解け、とあの石に触るように指示されてたんだよ」
ミカゲはヨネばあちゃんちに来たときの最初の会話を知らないので、俺は簡単に説明した。
うんうん、とあかねんも俺の言葉に頷いている。
でも、どうみてもあの状況は、なにか悪い方向に封印を解いたとしか思えなかった。そして、その封印がどんなものだったのかも、まだ不明だ。
そんな話をしていたとき、目の前にスライムのお面をかぶった主婦が歩いてくる。
だが、その主婦の体にはドロっとした緑色の液体がまとわりつき「助けて」と俺たちに話しかけてくる。
「これは……!」
「モンスター化してるね、恵奈ちゃんと同じように」
「恵奈と同じ状態かっ!!」
そう言いミカゲが主婦に立ちはだかる。
恵奈ちゃんのことが心配でミカゲはすぐにでも自分の会社へ戻りたそうだったが、目の前の状況は捨て置けないらしく、ドロリ主婦をうまく足止めしてくれている。
「面胴小手っ!」
俺の三連撃で主婦のお面を外す。ドロっとしたものは一瞬で霧散し、主婦はその場に崩れ落ちた。
「そのお面をかぶったら、体の表面にドロドロとしたものがあふれてきて……」
つまり、耳鳴りに耐えきれなくなって、それを抑えるようにお面をかぶったら、本当のモンスターになった、と主婦は話した。
俺は、んなことあるかーい! って思ったけど、先程の光の影響なのかもしれないなぁ、と思った。
それなら、俺に、責任がある。
「まずは、お面の犠牲者を少なくするように、みよちゃんに相談してみよう」
ヨネばあちゃんがあの状態になってしまったので、頼れるのはみよちゃんである。
もちろん、みよちゃんも魔王に操られている可能性もあるけど、俺たちに頼るところはそこしかなかった。
なので、俺たちは一旦役場へと戻ることにした。
「そう、魔王の罠だったのね」
息せき切って役場へと戻り、みよちゃんへヨネばあちゃんちで起こった出来事を報告する。
ミカゲは恵奈ちゃんのことをかなり心配していて、自分の会社にいってくる! と言い残して行ってしまった。
だから役場に戻ったのは俺たち3人のみだ。
ミカゲと別れる際に、明日は役場で集合しよう、と一応言い残してある。
みよちゃんには、モンスターのお面をかぶると、本当のモンスターになってしまう可能性があることも伝えた。
「お面は村民全員に配られているものなんですか?」
俺とあかねん、タローはお面を初めからもってないし、ミカゲについては俺たちが退治したあと、配られたお面は破り捨ててしまっていた。
「いいわ、答えましょう。このお面は村民全員に配られているわ。回覧板でそれぞれに1枚づつ取って所持してくださいとやったのよ。名目上は村おこしのため、となっているわ。まったく、困ったものよ」
「じゃあ、そのお面をできるだけかぶらないように、と告知することはできますか? できるだけ素早く!」
俺がみよちゃんにお願いする。
あのお面をかぶるだけで人からモンスターに変容してしまうのは、確実にヤバい状況だ。
「いいわ、答えましょう。有線で村民へお面をかぶらないよう、お知らせしておきましょう。これからだと、夜7時、朝7時、お昼12時半に有線放送をするから、ずっと放送するよう、お願いしておくわ」
「えっと、あの、耳鳴りの度合いって我慢できないほどなんですか?」
あかねんがみよちゃんに問う。
以前のゴールドっぽいスライムさんがちょっと言っていたが、仕事も継続できないぐらいひどいものだ、という形容しかなかったから、具体的に聞いておきたい。
「いいわ、答えましょう。耳鳴りになった人の共通点は『眠れない』なのよ。不眠ははかなりひどいものだと考えられるわ。だから定期的に人が変容したモンスターが現れるとは思うわよ。ただ、恵奈さんの例みたいに、ボス扱いになっているモンスターについては少しパターンが違うかもしれないわね」
そういうと、みよちゃんは電話で有線を流してもらうよう、依頼していた。
キンコーン!!
みよちゃんが有線放送の依頼を電話で終えたころ、夕方5時のベルがなった。
終業時間のベルである。
そのベルの途端みよちゃんは受話器を置き帰り支度をはじめながら、早口で俺たちに指示をした。
「あと、明日はそのミカゲくんもわたしのところへ来るようにして。占いで次になにをすればいいのか調べておくわ。それと今日と明日はノー残業デーだから、5時半には門が閉まるわよ。あなたたちも早く帰りなさい」
さすが役場。時間厳守だな。って、それでいいのかよ。
「1日ぐらい寝なくたって死にはしないわよ。それにモンスターに変容したとしても、あなた達を見ない限り、モンスター化することはないはずだから」
じゃあね、とみよちゃんはとっとと帰ってしまった。
俺たちがじっとしててもしょうがないので、また明日役場集合ということで、それぞれの家に帰ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます