第25話 令嬢
「あ、あの、……おはようございます。わたし、寝起きがひどくて、ごめんなさい」
恵奈ちゃんは照れくさそうに挨拶をする。でも今は午後よ? というか、寝起きがひどいのにも程があるよ?
まあ、いきなり多人数に押しかけられて、寝てるとこを起こされたら、俺でも不機嫌になるな。
うんうん、と頷きながら恵奈ちゃんに同情する俺。あかねんは恵奈ちゃんに異常がないか、丁寧に調べている。
「あの、男性の方はちょっと外に出てくれませんか?」
あかねんが恵奈ちゃんのパジャマを脱がそうとしたところで、俺たちに退室するよう指示する。
タローが特に下心ありまくりで恵奈ちゃんを見つめていたので、俺とミカゲはタローを引きずって廊下に出た。
「……和哉、ありがとな」
「おう、仲間だろ、当然だ」
ドアから執拗に部屋を覗こうとするタローを2人で殴りながら、あかねんと恵奈ちゃんを待つ。
ガチャっ。
「ありがとうございました」
「もう、恵奈ちゃんは大丈夫。それと、とうとうレベル30になったよ、みんな!」
あ、そうか。レベルアップしてたんだ。レベルアップの音が聞こえてなかった。3人いっぺんにチャラチャチャチャッチャラー! って音楽が鳴るからうるさいので、俺とタローはマナーモードにしてたし。アプリを確認すると、レベル30という文字が真っ先に目に入る。やった、やり遂げたよ、母さん!!
「じゃー、その封印の石とやらにいくか」
ミカゲはまだヨネばあちゃんに会ってないので、興味津々である。そんなミカゲを、恵奈ちゃんは切なそうな顔をして見ていた。
「恵奈、まだ起きたばかりだから、無理するなよ。それと社長……恵奈の父ちゃんと母ちゃんに起きたって報告しとくけど、顔をちゃんと見せてやれな」
ミカゲはそんな恵奈ちゃんに声をかけていた。恵奈ちゃんは顔を赤らめつつも、素直に頷いていた。
ははーん! そうか!!
俺はいろいろ気づいてしまったけど、あえてこの場では言わないことにしておこう。
恵奈ちゃんは健気だな。
社長に再び挨拶し、俺たちは建設会社をあとにする。社長は俺たちを見送ったあと、大慌てで奥の恵奈ちゃんの部屋に向かったようだ。よかった。
「そーいやミカゲって彼女いないの?」
「いない。仕事忙しかったからな。全然気にしてなかったわ、それ」
「良かったぁ、奇遇ですね! わたしも彼氏募集中です(ハート)」
「ぼ、僕には、よ、嫁が5人いますけどね、フフッ」
タローのそれは、パソコンとかテレビの中から出てこない嫁だろ。でも、ミカゲみたいなのが本当のリア充だろうな。彼女うんぬんよりも、仕事を夢中でやっていたんだろうし。
「それにしては、ミカゲ様、恵奈ちゃんを随分気にしてたようだけど」
「バッ……!! なに言ってるんだよ和哉。大事な会社のお嬢さんだし、少し大切にしてるだけだ」
あかねんが、タローの嫁のラミネートを見せてもらってる間に、こっそりミカゲに言ってみる。案の定ミカゲの顔は真っ赤である。
「そりゃ、学校の合間にちょくちょくコーヒー持ってきてくれるし、たまに手作りのお菓子なんかも従業員に振る舞ってくれて、いい娘だなーと思うよ」
あれだけ可愛くて、気が利く娘ならそりゃあ気になるよなー。
「なになに? なんの話しなの?(ハート)」
「い、いえっ、なんでもありません!」
あかねんは「あっやしいなぁ~」と言いながら、俺たちを疑っていた。そんなあかねんも俺たちにだいぶ打ち解けてきたのか、大人しそうな第一印象だったのが今は元気で惚れっぽい娘という印象になってきた。
そして、タローはやっぱりキモヲタ白豚である。
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