第23話 中ボスはセイレーン

 ミカゲに案内されてついたのは、ミカゲの勤務先である建設会社の事務所だった。



「あ、社長、さっきはありがとうございました。それで俺、勇者の仲間になったので、恵奈さんをなんとか出来ないかと思いまして」

「おお、そうか。じゃあ恵奈は奥の部屋にいるから、お願いするよ」


 恰幅がよく人の良さそうな社長に俺たちも挨拶し、ミカゲについていく。

 ミカゲは、会社の事務所奥のprivateと書いてある扉を開けて入っていく。


 廊下の先にもう一つ扉があり、そこを開けるとおしゃれな女性の部屋だった。


 その部屋の奥においてあるベッドには線の細い15歳ぐらいの女の子が眠っていた。

 黒くて長いサラサラな髪に色白の肌。

 寝ててもわかる、これは知的な美少女だろうな、という印象である。


 そして頭にはお面をのせていた。これは……



「セイレーンですね」


 あかねんの呪文、モンスターサーチでお面を判別する。

 なんと! いつの間に便利な呪文を覚えていたんだ、やるなあかねん!!


 ミカゲはその少女の顔を覗き込みひどく無念そうな顔をし、俺たちにこの状態になった経緯を説明する。


「社長の娘さんなんだけどな、俺たちが呪いにかかったと思われる日から昏睡状態になってんだ。ちょうど土曜の休憩時間の少し前に、恵奈が俺たちに缶コーヒーの差し入れにきた。そのときあの呪いが発動したんだ。そして、呪いのせいで現場が混乱して、恵奈は……」


 現場で働いていた作業員が混乱して急に走り出し、その体当たりをくらった恵奈ちゃんは、足元に落としてしまった缶コーヒーに足を取られ、転倒してそのまま昏睡状態になったらしい。


「転んで頭を打ってないかどうか、すぐに俺が病院へ連れて行ったんだよ。そこで脳の検査をしても異常がないっつーんだよな……でも、呪いがかかってから恵奈は一度も起きない。だからおめーらなら、なんとかしてくれるんじゃないかと思ってさ」


 ふむ……どうだろうこれは……って俺が呪いかけた張本人じゃないし、どういう仕組みで恵奈ちゃんがこうなっちゃったのか、勇者の俺でもさっぱりワカラナイヨ!!


「あの、夜になると恵奈ちゃんって歌いだしますか?」


 あかねんがミカゲに尋ねる。さすがにハートモードにはなっていない。


「ん? そういや社長がそんなこと言っていたな。夜、恵奈の部屋からかすかに歌声が聞こえてくるような気がするとかなんとか」

「やっぱり。恵奈さんは、自分自身に状態異常の歌を繰り返しかけています。多分、他の人が犠牲にならないように、そうしてると思います」

「じゃあ、恵奈はずっとこのままなのか!?」


 悲嘆にくれるミカゲの声。


 だが、待つがいい。俺は勇者である。

 そして恵奈ちゃんは、モンスターだ。


 だから……



「大丈夫だ。俺が恵奈ちゃんを治してみせる!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る