第14話 タローの職業

「いらっしゃいませっ!」



 字面はコンビニと同じ歓迎の挨拶だけど、先程のコンビニは覇気のないおっさんがぼそっと言ったいらっしゃいませで、携帯ショップのいらっしゃいませは、可愛いお姉さんが元気よく声を掛けてくれる。


 実にいいと思う。



「今日はどのようなご用件でご来店されましたか?」


 俺にお姉さんが要件を聞いてくるが、ここはタローが主役だ。

 なので、タローをずいっと前に出す。


「ああああ、あのーー、き、きしゅへんこうを……」


 おい、テンパるなよ!


 しょうがないので、俺とあかねんで、タローが機種変したいとお姉さんへ説明する。

 タローはパーシモン社の最新機種、9Hsという機種を選んでいた。価格は15万円である。


 ここは牛乳瓶で出来たゴールドじゃなかった、残念だ。


「こ、この柿のかじったマークが、か、かっこいいんですよね」


 俺とあかねんの機種のOSはウンドロイドで、9HsのOSはPフォンである。

 やな予感がした俺は、ヘルプへ電話をすることにした。


「あ、あの……ゆ、勇者ですけれど」

「占い師よ、質問は何かしら?」


 あ、よかった。さっきの占い師さんだ。


 もしも知らないおっさんがヘルプ電話に出て、さらに俺が勇者とか名乗って、そのおっさんに吹き出されたら、HPが0になるわ!


「タローがスマホにするらしいんですが、アプリのOSはPフォンでも大丈夫ですか?」

「いいわ、答えましょう。ウンドロイドしか動かないわ。なので機種変するならウンドロイドOSのスマホにしなさい。でないと使えないわよ」


 やっぱり。

 あれだけ手作業のアプリなんだから、同じようなものをOS違いで動かすとか無理ゲーでしょ。そのことを簡単にタローとショップのお姉さんへ伝える。


「え、えええ、パーシモン社のスマホじゃだめなんですか!」


 ええ、ダメなんです。タロー君。

 なので、渋々エグザスマホにしていたタロー。


 まあ、価格安めだし田舎ファンタジアをクリアしたら最新式のにすればいいんだよ。




「さ、さて! 僕のステータスオープン!」


 スマホに変えて、アプリをダウンロードし、タローのステータスを3人で覗き込む。



 タロー

 ・レベル1

 ・HP:5/5

 ・MP:1/1

 ・職業:魔法使い

 ・装備品:リクルートスーツ、たけのヤリ

 ・特技:現実逃避

 ・呪文:俺の第一の嫁はリリスたんだー!!

 ・所持金:0ゴールド

 ・ヘルプ:困った時は電話のマークを押してね!



 えぇ……

 いろいろ突っ込みたい部分は多々あるが、一番問題なのは、魔法使いなのにMPが1しかない。

 どういう理屈よ。特技の現実逃避はわかるとしても、呪文がソレって。



 ……いや待てよ、ここの村民にならこの呪文、効くかもしれん!



「どんまい、タロー!」

「レベルが上がればきっとものすごく強くなるんですよ! だから大丈夫! タロー君!」


 特技のを現実逃避を発動しているタローに、俺とあかねんは声を掛ける。

 さらにあかねんはヒールを何度かタローにかけている。



 ……でも精神的ダメージはきっとヒールでは治らないと思うよ? うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る