第8話 占い師

「はじめまして、勇者。わたしはあなたの疑問に応えられるわ。このカードでっ」



 と、その女性職員はスッと目の前にあるテーブルにタロットカードを出してきた。

 いやそれ、本屋で1,980円ぐらいで売ってる本の付録のカードっぽいですけれども。


 しかも薄暗くて狭い資料室の中に、先程の会議室にあった長テーブルと折りたたみ椅子を持ち込んで、無理やり体裁整えてるし。


 いったいなにやってるんですかあなた。

 資料室は狭いから、机は畳んでからじゃないと、ここから出られないっすよ。


 と、俺は言えずにカードに見入るように下を向く。


 出来るだけ吹き出すのを抑えるため、目線を下に向けたっていうのが、大きな理由だけど。



 だけど衝撃の事実に気づいてしまった。

 先程までは全員が普通の職員の格好だったのに、この人はなんと……



 コ ス プ レ を し て い る の だ !



 これは重大な事になってきたぞ。

 コスプレとはいえ、ローブはタオルケットを縫い合わせたような簡素なものだったが、ちょっと占い師らしい格好なのである。


 まさか考えたくはないが、この状態が続行されるとしたら……


「俺たちもコスプレをさせられる……!!」

「え? ズッ」

「こ、コスプレ美女ですかー! そ、その人ならぼ、僕の本当のお嫁さんにぃー!」


 あかねん様へ。

 もう語尾がズッな女性へ確定しそうなんですが。


 タロー豚へ。

 さっきは気絶してたのに復活するのがはえーな!



 そんなタローを女性職員はゴミを見るような目で見ていた。

 ……気持ちはわかります。タローに求婚されても、嬉しくなさそうだし。




「……で、勇者とその仲間よ。どんな情報が知りたいのかしら?」


 女性職員が、俺に聞きたいことを言うように急かす。タローとの会話を流したくて、占い師さんも必死である。


「そうですね……なんで皆さんはロールプレイングゲームみたいな言葉しか話さないんでしょうか?」

「いいわ、答えましょう。それはこの村に2ヶ月前に呪いがかかったのよ。魔王、というか力を持っていたご先祖を持つとある村民が、わたしたちをこんなふうにしてしまったの」


 呪い、か。


 現実的ではないものではあるが、異世界にいくよりはまだ……信じられるか?


「勇者と仲間の前では同じ言葉しか話せない、という簡単な呪いではあるわ。でも勇者たちの前でほかの言葉を話したり、通常通りの生活をすると一週間ほどひどい耳鳴りがでる、そんな呪いよ」


 耳鳴り……って微妙だなおい。


「では、なんで貴女は俺に情報をくれるんだ?」


 俺の一番知りたかった情報を目の前の女性職員は話してくれる。


「いいわ、答えましょう。それはわたしがチュートリアルなの。ドッキリだと思われて途中で冒険を投げ出したりしないよう、ある程度の情報は勇者に教えていい、という条件になっているわ。余計なことを話すと耳鳴りになってしまうけど、わりとわたしは、自由に会話できることになっているわ」


 ドッキリではなかったのか。俺にとってはそっちのほうが衝撃だった。

 だってこの流れのまま、田舎村で生活しなくちゃいけないんだもの。


 ……でも、呪いって一体誰が……いや魔王がかけてるんだけど、どうなのこれ。


 ……うう、たぶん普通の仕事より面倒くさいことになってきたぞ。



「ぼ、僕と結婚してください!!!」


 あ、こらタロー。余計なことを話すんじゃない。そりゃこのおねえさんは美人だけどさ。




 無言で、おねえさんはタローを汚物を見るような目で冷ややかに一瞥した。

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