第5話 城の中

 城というか役場内だけど、2階の廊下の突き当たりに総務課はあった。

 ここに先程入社式をやった職員たちがいるはずだ。


 ……あ、いた。


 つかつかと歩いていって、入社式のときの職員に声をかけることにする。


 あかねんとタロー、同期の2人は何かすごく感動しているらしくあてにならないので、俺が「あのー」とか「ちょっといいですか?」など通常通りに話しかける。



「城の中には魔法の鍵じゃないと、開けられない場所があるという噂です」


 ……あかん、ひょっとして全員、そのアレなのか? ロールプレイングゲームなのか?


 格好はどうみても普通の役場職員! って感じなのだが。


 埒が明かないので、その他の総務課にいる職員に、俺はかたっぱしから声をかけてみることにした。


「姫様が魔王に連れ去られてから、もう2ヶ月になります」

「ここから見える庭園は、庭師の大谷健三が整えてくれたものじゃ!」

「わたしはいま、王様のおつきになるための勉強をしているのです」

「王様は、あそこの扉の先にいらっしゃいます」

「おお、勇者に光あれ!」

「ここを守っていた兵士達は、姫様を助けに魔王のところへ向かったのだ」


 かたっぱしから声を掛けて、この有様だ。

 ていうか兵士っているのかよ。


 あ、あれか、土木課あたりの外回りの職員が兵士の設定なのかこれ。



 でも、光あれ! と言ってたおっさんが、手に持っていた懐中電灯で俺たちをいちいち照らすのがどうしても面白くて30回ほど話しかけてしまった。



 回を重ねるごとに震えた声になり、涙目になり、さらに手に持っていたのは電池が切れかけてた懐中電灯だったらしく、最後には懐中電灯すら点灯しなくなっていた。


 おっさんは最後には勘弁してくださいよー、といいたげな情けない顔になり、それでもまた俺はおっさんに話しかけたので、とうとう泣いてしまった。


 だが、その間周りにいたどうでもいい言葉を話していた職員が「ぷっ!」とか「ぐふっ!」などど吹き出していたので、誰かに乗っ取られたとか、へんな電波でおかしくさせられたとかそういうことはなさそうだった。


 ぱっと見た目は通常の役場。

 なのに会話するとド○クエのような会話の、おかしな事態になっていた。


 途中、怒る人も出てくるんじゃないか? それとも大掛かりなドッキリなのか? と警戒もしたけど、ドッキリであるなら、ここから先に進んで村長の話を聞いたあたりで、チャッチャラー! というドッキリの種明かしの音でもなるのではなかろうか。


 うん、これはドッキリだよね。ドッキリ。ハハハハ。



 そういうことで、思う存分に、光あれおっさんを堪能したあとに、奥の村長室と書いてあるところへ俺たちは向かうことにした。



 おっさんは頭も話しかける前よりも若干光っている気がした。うん、まさに光あれ、だよな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る