3:レポートはかく示された。

「電子媒体ってさ」

「おうよ」

 Kが唐突に何か言い出したので、とりあえず返答した。

「電子媒体ってさ、紙媒体に比べて、使いづらいよな」

「……どう言う意味だよ?」

 僕がKに視線を向けると、Kは言う。

「ネット小説よりも紙ば」

「それ以上はやめろ!!」

 それ以上はいけない。

 この文章が消される。

 カクヨム運営に。


「とまあ、日本人は紙媒体大好きなんだ」

「急にどうした」

 Kが不可解なものを見る目で僕を見ているけど、こんなのは無視しても構わない。

「質量がある、ということがいかに人間の感性に訴えるか、っていうのは特に芸術分野ではよく話される話題ではあるから、あえてここで触れるのは避ける。だけど、そうじゃなくても本を紙媒体として持っていたい、本棚に並べてニヤニヤしたい、って人は多いはずだ」

 そんなわけだろうか、日本では「電子書籍はどうせ流行らない」と思ってた人が多かった。

 そんな僕の言葉を聞いて、しかしKは「だけど」と言葉を繋げる。

「だけど、新聞なんかは違うよな」

「確かに。その通り」


 そう。新聞や雑誌の発行部数は年々減少の一途をたどっている。有名な小学生向け雑誌も発行部数減少につき、次々と休刊してしまった。

「確かに、お前の言う通り。紙媒体は徐々にそのライフを削られていっている」

「だろ? やっぱ紙よりデジタルの方が保存もしやすいし、どこでも取り出せる便利さがあるし」

「小説や漫画なんかはモノを持ってたいって人が多いけど、新聞やゴシップなんかはむしろモノがかさばると困るって人の方が多いからね」

 しかし、意外や意外。


「でも、日本という国として見て見ると、実は他の国に比べて新聞の発行部数が異常に多いんだ。世界的な新聞の部数減少の陰で、日本の新聞の発行部数は異状と言ってもいい」

 アメリカで最も発行部数が多い新聞はUSAトゥデイだけど、これは年間200万部ほど。これに対して日本で最も売れている読売新聞は950万部以上も発行されている。

 というか、世界で最も発行部数の多い新聞が読売新聞だったりする。


「様々な漫画雑誌もネット版を展開したりしてるし、某書店では本を買うと電子書籍がついてくるサービスとかもやってる」

「デジタルと紙媒体の垣根がなくなってきてる?」

「そうかもしれない。Googleは著作権が切れた本のデータを無料で公開してたりするし、どんどんデジタルに紙媒体が取り込まれて言っている風潮は感じるよね」


◆◆◆


「ラジオっていいよな」

 Kはそう言ってこっちを見た。知っているぞこのタイプ。真空管アンプとか買っちゃうタイプだろ。

 僕はこんな時に使う言葉を知っている。

「懐古厨乙」

「え? なんで俺煽られてんの?」

「……で、ラジオがなんだって?」

「なんで俺スルーされてんの?」


 ラジオといえば、最近ではスマホなんかでも聞けるようになって、移動中なんかも気軽に楽しめるメディアとして一部で注目されてたりされてなかったりする。

「防災なんかもラジオ放送は便利だよな。手回し発電程度の電力でも聞けるっていうのが災害時には役にたつ。興味ないけど」

「なんかディスってた割に詳しいなオイ」

「近年では総務省の規制緩和により、AMラジオがFMでも聞けたりするんだろ。興味ないけど」

「詳しいな!?」

 何を言っているんだKは。ラジオなんてこれっぽっちも興味ないぞ。

 まったく、ラジオなんて時代遅れもいいところだ。

「防災用のラジオでは、災害時に自動で電源が入るラジオも話題を集めたな。興味ないけど」

「お、おう。そうだな……」

 なぜか引きつった表情のK。

 僕がラジオに興味ないと知ったからだろうか。

「ポッドキャストのサービスでは過去のラジオ放送のデータを聞いたりもできる。興味ないけど」

「さすがにそろそろ無理がないか?」

「そういえばノルウェーは2017年内のFM放送終了を宣言したらしいな。もし成立すれば世界で初めての試みだ。興味ないけど」

「コアな知識が出てきたな……」

「興味はないぞ」

「……」


 ラジオつながりだが、近年の音声技術の発展は目覚しい。

「Siriに代表される音声認識だとか、YAMAHAのVOCALOIDだとか、それと、鼻歌から音楽を検索できるSoundHoundってサービスもある。アマゾンは音声認証で開く鍵を開発した」

「詳しいな」

「興味ないけどな」

「……なんなんだお前」


◆◆◆


「音声つながりで画像技術の話をします」

「ずいぶん急ぎ足だな」

 これを書いてる奴がそろそろ文作に飽き始めているので、モチベーションが切れないうちに仕上げちゃいたいらしい。というのは言わぬが花だろう。

 雄弁は銀、沈黙は金である。


「写真は昔に比べてかなり手軽になった」

「……まあ、そりゃな。スマホのカメラでパシャパシャ撮れるもんな」

「今までに取られてきた写真の一割が、直近1年以内に撮られたものなんだ」

「そりゃまあ、すげえこったな」

「そう。すげえことだ」

 それに伴って、画像技術の進化も目覚しいものがある。

 Googleが画像検索できるようになったのは随分前のことだし、バーコドから商品検索ができるサービスも登場。アマゾンでは本の表紙から商品を検索できるサービスまで登場している。

「さらに、2013年にはジャパネットたかたが、商品を紹介している番組にスマホをかざすだけで商品情報サービスに飛ぶサービスを実装している」

「そりゃすげえや」

「画像認識技術の向上はかなり著しいんだ。最近話題のディープラーニングの進化も、きっと今後の技術進化に貢献してくれることだろう」


 と、いうか、もうかなり技術は天元に近づいている。

「YouTubeでは画像認識によって、他の動画のパクリとか、動画を埋め込んであったりとか、そういうのが人が確認しなくても認識できるシステムを構築しているんだ。だからYouTubeの動画の審査は、人じゃなくてプログラムが殆どやってる」

「へえ」

「さらに、FacebookのAIラボが、人の顔認識に関する革新的な技術を開発した。そうでなくてもGoogleのNameTagってサービスはやばい」

「どうやばいんだよ」

「スマホを目の前の人にかざすと、その顔のデータからSNSのアカウントから、犯罪歴に至るまでの情報をリアルタイムで確認できるんだ。こうなってくると最早ディストピアSFの領域だ」


 さらに、画像の加工技術もどんどん発展している。Photoshopを使えば画像の改変なんてお茶の子さいさいだし、もう何が本当の画像なのかもわからない。


 技術の進化は、やっぱり常に負の側面と背中合わせだ。


◆◆◆


「アカウント、何個もってる?」

「は?」

 怪訝な顔をするKに、僕はさらに怪訝な顔で返答した。

「いやさ、だから、お前はアカウントのIDとか、全部覚えてんのかなーって」

「あー、できるだけ同じにしようとは努力してるけどさ」

「使えなかったりするだろ?」

「いろんなSNSのアカウントの空きを調べるサービスもあるし、そういうのを利用してもいいかもな」

「あとパスワード」

「パスワードか」

「パスワードってどうしてる? 全部同じ?」

「いや……」

 パスワードは難しい。全部のアカウントのパスワードを統一するとセキュリティ上の問題があるし、逆に全てバラバラにすると覚え切れない。

「じゃあどうすればいいんだよ」

「Google Chromeのサービスで、ラストパスってのがある」

「ラストパス?」

「あらゆるアカウントとパスワードを一括管理できるサービスなんだ。どれだけ複雑なIDやパスワードでも覚えてくれるから、かなり便利だ」

 ただ、無論そのIDやパスワードはクラウドサーバに保存される。神経質な人は少し嫌かもしれない。


「結局は複雑なパスワードを自分で覚えとくってのが一番なんだよね」

「やっぱそうなのか……」

「アナログでメモっておくってのもありかも。ただし、他の誰が見てもわからないように語呂合わせとか、分かりづらい書き方っていうのは必要になるけど」


 それと、アカウントといえば「秘密の質問」だ。

「IDやパスワードを忘れた時に「秘密の質問」で本人を確認するケースが多いけど」

「多いな」

「好きな食べ物とか、ペットの名前とか、出身校とか、最近じゃSNS、特にFacebookなんかに書いちゃってて、全く秘密になってないケースが多々ある」

「あー、確かに。それは危険だ。Facebookはやんないほうがいいのかな」

「いや、そうとも限らない」


 Facebookに自分を登録していない場合、「なりすまし」が非常に怖い。自分より先に自分の名前や経歴を入力されたアカウントを先に作られて、知り合い達がみな、それを本物だと思って会話していた、ってケースも増えている。


「はあ、もうわからんな」

「うん。何をするにもしないにも、どちらにせよリスクはついて回るんだ。それを心がけて、どんなに注意してもしすぎってことはない。自分は大丈夫、と思わないことが大事かもね」


◆◆◆


 インターネットには、虚偽と危険が渦巻いている。

 それらすべてをひっくるめて、インターネットは宝島だ。

 見極める自分すら信じない慎重さと、冷静な判断さえあれば、まるでごみ山のような質量マスの中から、宝石を見つけ出すことができるだろう。

 それを為す力こそが情報リテラシーなのだから。

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