情報リテラシー論

山田病太郎

1:レポートを書けと言われた。

 世界は情報で溢れている。大学の講義一覧に「情報リテラシー論」なんてのが我が物顔で鎮座するようになったのは、多分ここ最近になってからの話だろう。

 僕は正直、そんなに期待して授業の場にやってきたわけじゃない。単位が欲しかったからこの講義を入れただけだ。

 強いて言うなら。

 強いて言うなら、授業のタイトルも少しは興味を引いた。

「情報リテラシー論」

 なんだか時代の真っ先にくっついていそうな名前じゃないか。


 情報ってのに価値はない、って話を聞いたことがある。

 情報そのものには価値がないが、情報が人から人に受け渡される時、「情報を得た人の無知が減少する」という価値が発生する。情報を蓄積することに意味はない、という話だった気がする。

 その辺を履き違えたから、明治時代の学者たちは「情報」が書かれた高い書物を後生大事に抱え込んでいたんだとか何だとか。

 逆に言ってしまえば、「伝達してしまった情報」には価値がなくなると言う事なのかも知れないけれど。


 閑話休題それはともかく


 こともなげに着席して開講を待っていると、先生がやってきた。

 やってきた。


「よろしくおねがいします」


 と、物腰丁寧に挨拶する先生が抱えているのはマックブックだ。マックブックを大講義室のモニターに接続した。

 ははあ、さてはプレゼン形式で進むな。

 マックに最初っから入ってるプレゼンソフト「Keynote」がめちゃくちゃ使いやすいと言うのは、もはや業界では有名な話だ。

 あの先生もKeynote使いなのだな。


 すると先生は思いがけない行動に出た。

「じゃ、みなさんもツイッターアカウント作ってきてくださいね」

 なんて言って、ツイッターの画面を開いたのだ。

「授業中、質問とかコメントとかを、このハッシュタグでつぶやいてくれたら、授業で拾って行きます」


 これが時代か。

 時代の味を噛み締めた。


 そんなこんなで第一回目の講義はえらい勢いで進んでいった。

 わかったのは、先生が大のApple好きで、好きな食べ物はプリンだと言う事だけだった。


◆◆◆


「つまるところ、だよ」

 Kはそう言って、90円で売っているBIGプリンを頬張りながら言う。

「あの講義ってのは、一体全体なんの講義だったんだ」

 僕は驚いた。

 最初の講義からか終えて、もう10回以上は講義を受けているはずだ。今更にもほどがある。

 くだんの問題発言をぶっぱなしたKはなんだか気だるげで、情報リテラシーなんて言葉の意味すら知らぬと言ったふてぶてしい面構えで言っている。

 だが、僕は紳士だ。そんな感情をおくびにも出さず、笑顔のまま、


「ふてぶてしいツラを晒しやがって」


 と本心をうっかり口にした。


「ふてぶてしいとはご挨拶だな」

「お前の顔を見ていると、まるで当然とばかりに餌にありつこうとやってくる野良猫を思い出す」

「ああ、もちろんだな。何故って俺は猫系だからな」

「そういうところがふてぶてしいと言ってるんだ」


 そんなことはもうどうでもいいのだ(ザ・ブルーハーツ)


「で、あの情報リテラシー論だとかいう、いやに意識たかそうなタイトルの講義はなんなんだ」

「話を聞いてなかったのか?」

「聞いてたさ。だが、何がどうして、なにがどうやら。まるでちんぷんかんぷんなんだよ」

「程度の低い頭脳をしてやがる」

「おうおう、程度の低い煽りをしやがるな」

「やるのか」

「おうとも、かかってこい」


 一触即発、といった空気だったが、どうにもプリンを食べるための小さなプラスチックスプーンを持ったままでは格好がつかない。とKは言う。


「確かに、そのスプーンでベトベトするのは僕も嫌だ」

「プリンを食べ終わってからにしよう」

「うむ」

「うむ」


 そういうことになった。


「で、だ」

「うむ」

 僕とKは向き合って座る。


「実を言うとな、テストが近いが、さっぱり理解していないんだ。俺は」

 Kはそう言って頭を下げた。


「俺に、情報リテラシー論を、教えてくれ……!」


 僕は驚いた。こいつ、こんなにも真摯に人にものを頼める人間だったのか、と。

 僕は感動して、つい本心を口にした。


「だーれが教えるか。ばーか。ざまあみやがれ、自業自得の因果応報だ」


 喧嘩がはじまった。


◆◆◆

 

 紫色に変色した自分の頬をなでながら、僕は言う。

「第一、ちゃんと話を聞いてなかったお前が悪いんだろう」

「それはそうだが」


 僕は断固としてKに教えたりはしない。そう誓っている。たとえ神のお告げにあろうとも、こいつにだけは与してなるものか。僕の誓いは鉄よりも硬い。


「もし、お前が俺に教えてくれるなら、お前が行けなくて悔しがっていたイベントの限定版グッズを譲ろう」

「よし、教えてやろう」


 鉄の誓いは一瞬で崩れ去った。


「まず、インターネットの話だったと思う」


 アメリカ軍の軍事技術だったインターネットが、個人利用できるようになったのが1993年。このとき、日本ではまだポケベルが使われていた。

「そして阪神淡路大震災の年に発売されたWindows95が、爆発的な人気を博した」

 この辺は別に、覚える必要もあるまい。

 歴史の年号を覚える作業ほど意味がなく、途方も無い作業はあるまい。


「とりあえず、現在のソーシャルメディア事情を確認しよう」

 そう言って僕は授業のときのノートを見る。


 インターネット人口:約32億人

 フェイスブック人口:約15億人

 インスタグラム人口:約4億人

 ツイッター人口:約3.2億人


「こうして見ると、フェイスブックは実に圧倒的だな」

「圧倒的だ。こういったインターネットの普及は、人間の生活にも影響を与えてる」


 そう言って僕は人差し指を立てる。

「まずひとつ、マスメディアに頼らない情報の入手が可能になった」


 簡単に言うと、と僕は続ける。

「新聞を取ってない、テレビを持ってない、そう言う人が増えている」

「某国営放送局は商売上がったりだな」

「そう簡単にはなくなってもらっちゃ困るんだけどね」


 さらにひとつ。

「デバイスの変化」

「デバイスの変化?」

「これは鶏が先か卵が先か、みたいな話だけどね。インターネットの変遷、ユビキタス化は間違いなく、デバイスの変遷にも影響してるんだ。パソコンからスマートフォンインターネットってのは別世界なんかじゃ無いんだ。デバイス……ハードウェアを通じて、現実世界と繋がってる」


 そしてデバイスは、間違いなく僕らの生活に直接影響する。


「待ってくれ」

 と、Kは手を挙げる。

 僕は言う。

「おう、待ってやる」

「ユビキタスってのは、なんだ?」

「……ああ」


 ユビキタス・コンピューティングとか、ユビキタス社会という言葉で使われる。

 ユビキタスというのは「遍在する」を意味するラテン語で、そこから、いつでも、どこでもインターネットを利用したサポートを得られることを意味する。


「スマートフォンってのは、言っちゃえばユビキタス社会の寵児……、いや、スマートフォンこそがユビキタス社会を構築したと言っても過言では無い気がする」

 Kは分かったのか分からんのかよく分からん表情で「ははあ」と頷くと、

「苦しゅうない、続けろ。」

 と抜かしやがった。


 だが、無視して続ける。

「じゃあ続けさせてもらおう」

 Kは無視されたからか、悲しそうな顔をしている。メンドくせえなこいつ。


「……さて、続けるぞ。ブラウザの変遷もインターネットでは重要だ。最初に人気を博したブラウザは何だと思う?」

「あれだろ。インターネットエクスプローラ」

「違う。Mosaicだ。」


 今となっては殆ど誰も知らないが、一番最初に「画面を表示できるブラウザ」としてできたMosaicは大人気だったらしい。


「そしてその2年半後、Netscape Navigatorが発表され、最盛期には9割を超えた」

「さっきから、モザイクとかネットスケープほにゃららとか、聞いたことのない名前ばっかりなんだが」

「ああ、何でだと思う? 答えはもう、言ってるんだけどな」

「……わからねえよ、もったいぶってんじゃねえぞ、早く言え」


 態度でかいな。死なないかなこいつ。


「答えを言ったのは僕じゃないぞ、お前だ」

 僕はKを指差す。Kは俺の手を払いのける。

「わからん」

「そうか」


 僕がやれやれ、と言いながらかぶりを振ると、鈍痛が額に走った。

 野蛮なるKのデコピンである。グーとかパーじゃなくてデコピンを選択するあたりが最高にムカつくなこいつ。

「痛いな! 何しやがる!」

「なんかムカついた」

 僕がムカついとるわ。

 キレやすい若者か、お前は。


「なぜ、これらのブラウザが駆逐されたのか。それはもっと安くて便利なブラウザーがあったからなんだ」

「何だよ」

「それは、Windows95に標準搭載されたInternet Explorerだ!」

「……ああ、なるほど」


 OSに最初っから入ってるブラウザは世間を席巻し、ブラウザが最初っから搭載されてるOSも馬鹿売れする。

 いわば最強の抱き合わせ商法だったのだ。


「そんなこんなで世界に広まったIEだけど、もう使ってる人も少ないよね」

「Windows10で、標準ブラウザがIEからEdgeになったからか?」

「違うよ。エッジ使ってるやつなんてWin10ユーザーでも少数派だよ。ほら、今や世界の標準ブラウザと言っても過言じゃない奴がいるだろ?」

 Kはしばらく考え込んで、ああ、と手槌を打った。

「ファイアフォックスか」


 あー。そっちを言っちゃうかー。

 あー、おしいなあ。

 だが違う。


「答えはChromeです」


 世界のGoogleが誇る最強のブラウザさんですよ。


「ほら、今やスマートフォンのブラウザと言ったらChromeだろう?」

「あ、そうか。そういう普及経路もあるのか」


 AndroidはGoogleの開発なので、Chromeが標準ブラウザになっているし、パソコンでも動作の軽快なChromeを好んでいる人は多いことだろう。


「そんなこんなで、総括に入るぞ」

「総括? またケッタイなことをするな」

「朝起きて、紀元前は神に祈った」


 Kは僕をいぶかしむような目で見る。

「気でも狂ったか?」

「うるさいな、続けさせろ」

 Kは不承不承といったふうに頷く。

 僕は続ける。

「19世紀はポストに新聞を取りに行った。20世紀はテレビの電源を入れた」

 それじゃあ、21世紀はなんなのか。


「21世紀は、スマホでSNSだ」


 情報化社会が僕たちに与えた影響は大きいのだ。

 僕はキメ顔でそう言った。


「……お前のドヤ顔キモいな」

「しばくぞ」


◆◆◆


「じゃあ、次。検索エンジンの話をする」

「検索エンジンって言ったら……、Yahoo!とか?」

「そう、それ」


 情報メディア……、それもインターネットを語る上では避けては通れないのが検索エンジンの発展だ。


「もともと、検索エンジンが無かった時代。見たいサイトがあるのなら、そこのURLを知ってる必要があったんだ」

「もしくは、ネットサーフィンとかだろ。馬鹿にすんなよ」


 この野郎。んなこと言ってっと端折はしょりまくるぞ。


「で、だ。日本で一番使われている検索エンジンは何だと思う?」

「Yahoo!か?」

「そう。正解。世界中のほとんどの国でGoogleが一位を占めていて、Yahoo!はすでに買収されたオワコン企業なのにもかかわらず、何故か日本人はYahoo!を使いたがる」


 Yahoo!はけっこう歴史がある。1996年にアメリカから日本にYahoo!が入ってきた時、Yahoo!は今みたいな感じでは無かった。


「カテゴリ検索、っての、覚えてる人もいるかもしれない」

「あー、あの」


 カテゴリ検索とは、もうすでにYahoo!のトップページから姿を消した検索方法だ。文字列ではなく、7つのカテゴリから、さらに7つのカテゴリに分岐し……を繰り返し、目的のサイトを探すシステムだ。


「Yahoo!はウェブサイトの持ち主からカテゴリに登録する見返りにお金を受け取っていたわけだ」

「あー、俺が物心ついた頃は、もうキーワード検索が主流だったなあ」


 そう、その通り。


「知っての通り、インターネット上のウェブサイト数は、指数関数的に膨れ上がった。カテゴリ検索では無理が生じてきてしまったんだ」

「だからキーワード検索が主流に、と。それがどうした?」

「それが致命的だったんだ。例えば、お前。ブログ書いてただろ」

「あ? 俺がか?」

「ああ。中学生の時か? あのやたらキラッキラした名前の登場人物が跳梁跋扈するオリジナル小説をブログで……」

「やめろぉーっ! やめろやめろやめろ、やめろぉーっ!」

 Kは顔を真っ赤にしている。そいつもふてぶてしいKが、こうもしおらしいのは珍しい。

「やめてくれ……」

 少し楽しい。


「……と、このように、お前は特にどっかに「俺のサイトを登録してくれ」なんて頼んだわけじゃないのに、検索エンジンでキーワードを入力すればお前のこっぱずかしいブログが表示されるだろ?」

「それがどうかしたのかよ!」

 Kは声を荒げる。

「いや、だから」

 僕は続ける。


「キーワード検索が主流になっちゃえば、もうお金をはらってカテゴリ検索に入れてもらう必要……、無くないか?」

「……なるほど?」

「だから、何故わざわざ安くない料金を払ってカテゴリ検索に入れてもらうかって言うと、サイトを多くの人に見てもらいたいからだ。だが、もし誰もカテゴリ検索をしなくなれば」

 お金を払う意味は、なくなる。

「そんなわけで、Yahoo!は業界から撤退しました」

「ふーむ、それじゃあ、アレだ。Googleはどうして逆に、こんな大企業になったんだ?」

「そう! それだ! なぜ検索エンジンは無料で使えると思う?」

「どっかに金が生まれるシステムがあるんだろ?」

「それがYahoo!ではカテゴリ登録だった。じゃあ、Googleでは?」

「……なんだろ」

「Googleの検索エンジンで検索した時、その順番はどうやって決まると思う?」


 僕の言葉に、Kは得心いったという面持ちで頷いた。

「ああ、そうか。お金を払えば払うほど上に表示されるわけだな」

「……まあ、うん。間違ってはいないよ」


 実は、Googleの広告表示にはちゃんとした計算式がある。


クリック単価(広告主が一クリックに対し何円払うか、という値段)

×

評価スコア(検索キーワードへの相応しさやクリック率)


 という式だ。

「しかもGoogleの検索エンジンは、キーワードや、ウェブサイトの情報の濃さ、たどり着きやすさなんかから、検索した人が満足できる結果づくりをしてるんだ」


 僕は一呼吸してから、続ける。

「さらに、Googleの検索エンジンには「ページランク」っていう考え方がある。これが今のGoogleを作ったと行っても過言じゃないシステムだ」


 たとえば90点のウェブサイトが、三つのサイトのリンクを載せていたとする。

 すると、その三つのサイトには90÷3=30点の点数が入る。

 そんな感じで複数のサイトからリンクが貼られていたら、その分けられた点数の合計がそのサイトにつく……

 といった評価システムだ。


「ふーん。でもさ、それじゃ、最初の点数ってどう決めるんだよ?」

「Googleが決めてる。ページランクは10から0まであって、10っていうとツイッターレベルの超大手サイト。0はそもそもGoogleに認識されてない」


 ちなみにGoogleはページランクを公開してる。


「ってな感じで、検索エンジンはまさに日進月歩といった感じなんだけど」

「こんなに便利だと脳みそ腐っちまいそうだな」

「最初っから腐り切ってるくせによく言うぜ」

「あ?」

「あ?」


 だが、事実。こんな研究結果もある。アメリカのコロンビア大学の研究によれば、検索エンジンの発達により、人間は「情報」そのものではなく、情報が記載されている場所を覚えるようになったというのだ。


「ローマ法王は、何でも他人に尋ねるんじゃなく、沈黙して考えることが大事だって言っているな。なあ? なんでも人に聞かないほうがいいらしいぞ? なあ? やっぱり脳みそ腐ってきてんじゃないか? ん?」

「うるせえだけの首は、なくても困らんよな?」

「やんのか?」

「あ?」


 ローマ法王。世界の平和はまだ遠そうですよ。


◆◆◆


「よし、じゃあ次行くぞ」

「押忍」

「次はソーシャルメディアについて話す」


 ソーシャルメディア。なにやら意識高そうな横文字だが、すっかり日本語に浸透してしまった。そのくらい普及したと言うことでもあるだろう。

「さっそくなんだけど、日本で初めてメルマガを発行した首相って誰だと思う?」

「御託はいいからとっとと言えよ」

 まじでこいつ死なないかな。

「……答えはライオンヘアーこと、小泉純一郎氏だ。」

「ふーん。で?」

「さっきから思ってたんだけど説明してくれてる僕に対する敬意はないの?」

 僕はつい聞いてしまった。

 するとKは目を見開いてから、とびっきりニヒルな笑みで鼻を鳴らした。

「敬意とか、笑止」

 あーもう死なねえかな。

「あーもう死なねえかな」

 つい口走っってしまった。

「あ?」

「やんのか?」


 一触即発のまま話は進む。


「とりあえず、その話は置いといて。さっきも少し話したけど、ブログって流行ったじゃん?」

「おうよ。ホリエモンで有名なライブドアブログとかだよな」

「最近テレビによく出てるよね」

 事務所と契約して芸能人になったらしい。転んでもただでは転ばないのが流石と言うか何と言うか。

 というか、Kがさりげなく自分のブログの話から話題をそらしたがっていることに気づかぬ僕ではない。僕ではない、が、核は使わないから抑止力なのだ。

 雄弁は銀、沈黙は金。

「お前もこっぱずかしいブログやって……」

 言おうとして、眼力で射すくめられた。怖い。Kからうけた様々な暴力が僕の脳裏をフラッシュバックする。怖い。野蛮な人間怖い。

「……でも最近、めっきりブログって見なくなったよね!」

「おう」

「それは、ソーシャルメディアが台頭してきたからだ」


 GREEが現れ、mixiに駆逐され、Twitterが君臨し、フェイスブックが覇を唱え、現在の日本ソーシャルメディア戦国時代の頂点を飾っているのはLINEだ。


「もはやブログの出る幕はないよね。こうなっちゃうとさ」

「そうだね」

「しかも、影響力もある」


 たとえば、バラクオバマ氏がTwitterを駆使して大統領になったのは有名だし、アラブの春なんかも、SNSを利用して政権をぶっ潰したわけだ。もはやソーシャルメディアが現実に与える影響は、文字どおり世界を動かせるレベルだ。


「そしてちょっと前に話したけど、インターネット利用者の半数が利用するSNSがある」

「フェイスブックだ」

「そう。Facebookは世界中のSNSを買収して、買収できないとこの機能はパクって、さらに高性能にしてる」

 FacebookはSNSの覇権を本気で狙っている。

「これは先生の受け売りだけど、Googleはすべての情報を、Facebookは人物を掌握して世界の覇権を握ろうとしてるんだ」

「なるほどにゃー」

「聞く気あんのか?」

「あるにゃー」

「喧嘩売ってんのか?」


 ともあれ、人物というのはかなり大事だ。

「例えばだけど、同じ値段で同じ商品を買うとしたら、見ず知らずの人から買うのと、よく知ってる知り合いから買うの、どっちがいい?」

「お前からは買わん」

「……普通は、知ってる人から買うだろう。Facebookはそういう「口コミの影響力」を利用しようと画策してるんだ」


 物理的な距離はインターネットを通じてグローバルになったが、SNSの流行からも見て取れるように、人間は本来群れの中で生きる動物、つまりローカルな生き物なのだろう。

 かつての哲学者の言葉に似せるなら、「人間はローカル的生物」なのかもしれない。


◆◆◆


「それじゃ、次。これの話をする」

 僕はスマホを取り出した。

 Kは眉をひそめる。

「液晶割れてんぞ」

「知ってる」

「保証期間きれてんのか?」

 保証期間は残ってるけど、携帯ショップの店員の対応が悪すぎて行きたくないだけだ。どうせ有事でもクソ対応されるから、携帯を買うときは保証には入らないほうがいいぞ。


「さて、スマートホンはすっかり普及した。僕が高校に入学したとき、すでにほとんど全員がガラケーじゃなくスマホだった」

「時代だな」

「てめえも同世代だろうが」


 ともあれ、すっかりスマホは普及した。ちなみにアイフォンとかスマートフォンと言う言葉よりも「スマホ」というキーワードの方が遥かにグーグルで検索されている。


「すでにスマホやタブレットはパソコンの二倍以上出荷されているし、インターネット利用もスマホが中心。……ウェブサイトはスマホのことを考えて作らなきゃならない時代に入っている」

 さらに調査の結果を見てみると、40代から50代のスマホ所有率もどんどん上がっている。携帯電話はどんどん放逐されていっている。


「Webサービスも、ブラウザ上じゃなく、専用のアプリが殆どになってる。これはスマホのOS用のアプリは、すべてJavaで書けるのが大きいだろう。今までの技術者たちが簡単に移行できた」

 しかし、問題はプログラムを書けるかどうか、じゃない。

 スマホでも使いやすいかどうか、だ。


「スマホは知っての通り、パソコンとは操作が大幅に異なる。縦向きの小さい画面、指を使った操作、特にパソコンにないのは「ピンチアウト・ピンチイン」操作だとか、キーボードがないこととか、そしてマウスがないから、小さいボタンは押しづらい、とか」

「スマホに合わせたデザインが必要になったってことだ」

 

 ある調査結果によると、スマホの操作で最も多いのは利き手片手持ちの親指操作だ。そのため、スマートフォン向けアプリのほとんどは右側や下の方にボタンを集約した設計が多い。


「しかも、スマホでリンクやボタンを探すとき、普通のサイトと比べて分かりづらいと思ったことはないか?」

「あー、あるある。そう言うときってキレそうになるよな」

 だからキレやすい若者かお前は。


「それはパソコンでいうマウスオーバーがスマホじゃできないからだ」

「確かに」

「だから、一目見て押せるとわかるボタンを作ることが大事だって話だ」


 そして、スマホの普及の影響はいろいろなところに現れている。

 なんたって、スマホ一台あるだけで必要なくなるものなんていくらでもあるのだ。

 世界は着実にスマホに侵食されている。良い意味でも、悪い意味でも。


「新技術はどんどんと広まっていく。それが便利ならなおさらだ」

「使う側の意識も大事ってことだな」

「まさにそれが、情報リテラシーってわけだ」


 だからこそ、こんな勉強をしているわけだ。


 ◆◆◆


 情報リテラシー【じょうほう-りてらしー】[名]

:情報を扱う能力のこと。インフォメーションリテラシー。

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