第一章 [猫姉妹編]
第3話[姉妹の絆]
爆発の煙の中、白衣に身を纏ったおさげの少女ヴェロが佇む。
対するように赤いマフラーを付けた長髪の少女ナナは弾倉のない対物ライフルを構えて佇む。
お互いに弾が尽きているがまだヴェロには数発のジェリコ945拳銃が、ナナにはまだ未使用のUMP-9短機関銃がある。
(奴等に任せる気で軽装備で来たからこれ以上は…)
「残念だけど、潮時だな…っ!!」
「!?」
ヴェロはスモークグレネードを投げ煙に紛れ走り去る。
白い煙に紛れヴェロはその場を去る。
匂いから位置を辿ろうとするが煙に混ぜ物がしてあるのか酷い悪臭が邪魔をする。
「…むぅ…狙えない…」
「ナナ~」
「お姉ちゃん!」
ナナの元に姉ニーナが駆け寄る。
ニーナは左手から酷く出血をしているが本人はあまり気にしていない様子。
「怪我してるよ!手当しなきゃ!」
「あぁ、これ、まあ多分大丈夫じゃないの?」
戦いが終わったのに気付きハイドフェイスとその弟子を名乗る少女ヒナもニーナ達へ近づく。
ニーナの左手に気付いたハイドフェイスは驚愕の表情を浮かべると同時に駆け寄る。
ナナは姉が怪我した時ように持ち歩いている医療用具を詰めた小さい箱を取り出す。
「あーでもちょっと痛いかも…」
「えっと…ガーゼで…巻けばいいんだっけ…」
「まあ貸してください」
ハイドフェイスは手慣れた手付きで手当をし傷口を圧迫する。
「…んっ…ちょっと痛いんだけど…」
「いや、強く抑えないと血が止まらないって聞いたんで…」
ニーナはどこか不機嫌な顔付きで右手をパーカーに入れ何かを出そうとする。
「あの、怖いんで銃出そうとするの止めて貰えますでしょうか」
「…強く押すと…ねぇ」
ニーナは疑問符を浮かべたような表情でしばらく目を上に向け考えると銃をしまい。
「じゃあ、強くしてもいいかも…?」
その言葉を聞いたハイドフェイスはそのまま更に強く押し付ける、がニーナは若干の悲鳴を上げすぐに力を緩める。
僅かに涙目になり睨み付けるニーナ、取り敢えずハイドフェイスはそのまま包帯をキツめに巻き作業を終える。
「…あ、ありがと」
言葉に若干詰まるが以前よりも柔らかい声でお礼を言うニーナしかし痛くされたせいかその目はまだ警戒の念がまだ残る。
「あと心臓より高い位置に傷を上げると良いと聞きますよ」
「あっそれ本で読みましたよ、やっと思い出した~」
「しんぞう…心臓……ってどこ?」
「そこからですか姐さん・・・」
「…お姉ちゃん…」
「というか、心臓って何?」
2人はニーナに心臓について説明しながら帰路へつく。
蚊帳の外になっているヒナは寂しげにそれを後から追う。
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ニーナの家に着いた一行。
血で汚れたパーカーを脱ぐニーナ、パーカーの裏に仕舞っていた拳銃6丁と予備弾、ナイフや手榴弾を回収しナナにパーカーを渡す。
「お気に入りだったんだけどなぁ…」
「多分縫えばなんとかなるんじゃない?血落とさなきゃだけど。」
そう言いナナはパーカーを持ち奥の部屋へ向かう、腕一杯に重火器などを持ったニーナはハイドフェイスを睨み付け手持ちの品を押し付ける。
「ほら、私いま左手使えなくて不便なんだから。」
「あっはい」
「ん~私疲れたから寝るわ、何かしてきたら躊躇なく殺すから。」
そう言いニーナはクッションを枕に床で寝転がった。
ニーナはそのままぐっすりと深い眠りにつき体を休める、はずだったがそれはすぐに制止された。
「ちょっとお姉ちゃん、今日こそ髪洗おうって前話したでしょ。」
戻って来たナナに服を引っ張られる無理やり起こされるニーナの姿は姉というよりダメな妹のように見える。
そして言われてみれば髪はしばらく洗っていないかのようにどこかベッタリしているのが見て解る。
「いや、ほら腕怪我してるし、お湯に触れたら痛そうじゃない…ね?」
どうにか逃げようと弁解するがそれをたたき割るかのようにナナは口を開く。
「ビニール袋でガードすればいいでしょ」
「や~だ~お風呂嫌い~」
クッションにしがみつくが抵抗虚しく連れ去られるニーナ、だがふとナナの視線が別の箇所へと映る。
「あ、ヒナちゃんも一緒に入る?」
突然会話を投げられ数秒間黙り込んでしまうヒナ。
師匠ハイドフェイスへ目をやるがその目はどう見ても"行け"と促しているようにしか見えない。
そんな隙に逃げようとするニーナだが抵抗虚しくナナに抱き抱えられてしまう。
「えっと…」
「おーヒナ、そういえば何時だったかに同じ年頃の女子と戯れたいと言っていたな!」
ハイドフェイスが唐突に言った覚えの無いことを語りだし混乱するヒナ。
それを聞きナナは笑顔でヒナに寄って来る。
「ちょ、ししょ~私そんなこと…」
「良かった~私もお姉ちゃんとだけじゃなくて他の女の子とお話とかしたかったから、さ行こうヒナちゃん!」
ヒナの手を取り連れて行こうとするがニーナはどうにも反抗的な事を呟く。
「いや私こんなのと一緒に入りたくないんだけど」
「お姉ちゃん、頭洗いながら傷口に熱々のお湯かけようか?」
「…や、やです…」
「2人とも仲良く、だよ。」
「「…」」
ヒナとニーナは揃って無言になり連れ去られていった。
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とある研究所の一室にて。
仮面の少女が面接のようにヴェロと真正面から向き合って座っている。
「…で?」
仮面の少女はどこか面倒そうに質問を投げかける。
「で、と言われても…」
「…失敗したみたいね」
図星を突かれ思わず体がびくりと反応する、言える訳がない、失敗し雇われ一人は逃げしかもその逃げた奴まで捕獲対象だった事など。
「7番が予想以上に手強く…」
「報告書に書いたはず」
「…あ、えっと…」
ガラッ
仮面の少女は机に叩き付けるようにファイルを取り出す、仮面の奥に哀れむような視線を感じる。
「貴女はもういい、しばらく休暇を与えます。」
瞬きする間も無いほど一瞬で彼女は視界から消える、ふと隣に目をやるとファイルを手にしたままヴェロの隣に仮面の少女は立っていた。
「3番と4番を連れて来なさい、貴女はその鼻を生かして奴らの元へ2人と部下数十名を連れて行くように。」
驚きを隠せず震えた手でファイルを受け取る
「それが終わったら、貴女は指示があるまで休暇です、良かったですね。」
どこか尖った声で語ると少女は席に着く。
ヴェロは無言で部屋を出る。
バタン
ドアを閉めしばらく歩き肩の力を抜き大きなため息をつく。
「…はぁ」
ファイルを見つめる、ふと残り2人のチームメンバーを思い出し怒りがこみ上げてくる。
「なんで私だけなんだよ…」
少女は愚痴をこぼしながら廊下を歩いていく。
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軍艦のシャワールームを流用して無理矢理作った風呂場にて。
2人の少女は丁寧に作られた人形のような色白の綺麗な肌を晒している。
もう一方の少女は林檎のような柔らかな明るい体をしている。
白髪の少女ニーナの胸は少女なのかと疑ってしまいそうなほどに僅かに膨らみが見えるほどに薄く黒髪の妹のナナは年齢相応の程よく膨らんだ胸を持っているが最年少の少女ヒナは不思議な事に身長に対し許容こそ出来るが非常に豊かな膨らみをお持ちのようである。
それをニーナは嫉妬と怒りを覚える。
ナナにシャワーで髪や体を濡らされると頭に洗剤をかけられる、その時のニーナの表情は普段からは想像がつかないほどに怯える小鹿のような顔をしている。
「…ね、ねぇナナ、あの頭に被せるのは?」
「ん~?」
相槌を適当に返しナナはニーナの髪の毛をわしゃわしゃし始める。
「いや、ナナ…目に染みるからさ…被せる奴…」
「そんなもの、ないよ」
「嘘でしょ!?」
そんなやり取りを眺め苦笑を浮かべながら隣でシャンプーハットを使い自分で髪を搔きまわすヒナ、それを見たニーナが歯ぎしりをしながら片目を抑えている。
多分染みたのだろう。
ギロリとこちらを睨んでくる。
「なんで貴女がそれ使ってるのよ!」
「いやこれって…シャンプーハット知らないの?」
「シャンプー…ハット?」
疑問の顔をするニーナ、本当に知らないようである。
「まさか私より馬鹿な人がいるなんて…」
「馬鹿じゃなないわよ!字が読めなくて覚えるのが苦手なだけよ!」
両目を強く閉ざしながら叫ぶ、どうやら両目に染みたらしい。
「お姉ちゃん、本とか読まないで銃とかも全部おやっさんに聞いてたもんね~」
「おやっさん?」
「武器屋さんのおじさん、愛称を込めておやっさんて皆呼ぶんだって。」
へぇ~と思うヒナ、ふとニーナとナナの体をよく見ると不思議な点があった。
ナナの首元とニーナの腕に何か書かれているように見える、そして何よりニーナの尻尾である、本当に生えている、衣装などで使うような物でもなんでもなく彼女の体から生えてそれは生きている。
「…何見てんのよ」
気付いたニーナは水で髪を洗い流されながら尻尾を振り回し実際に生えている事を改めて突き付けてくる。
好奇心から聞き出そうと口を開こうとするが、次の出来事にそれは制止される。
「じゃあ髪も洗ったし出ようかな~」
耳をせわしなく動かし頭を降りながらニーナは逃げるように立ち去っていく
「う~ん…まあいいか。」
「あんだけ引っ張ってきたのにいいんだ…」
「目的は果たしたから!」
満足げな顔でナナはこちらを見てくる、そんな誇らしげな顔をされても困る。
だがナナの首元の文字らしき物が良く見える。
「…その首の、何?」
「えっ?あぁこれ?」
見せつけるように頭を傾ける、首には"七"と大きくタトゥーのように描かれている。
「私もよくわかんないんだけど、多分作られた順番なんじゃないかな。」
「まあ別に大した物じゃないし私達も出よっ!」
手を引っ張られる、作られたというのはヒナの中で僅かに気になったが頭の片隅でその内忘れてしまった。
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「…暇だわ」
ニーナはふと呟く。
それもそのはず、左手が使えず仕事もなく、ナナは雇われ今どこかで銃撃戦でもしているだろう。
部屋には彼女とヒナとハイドフェイスしか居ないのだ。
「何か雑談でもしましょうか」
「あっししょ~私しりとりがしたいです!」
手をぶんぶん上げ主張してくるヒナ、それを眺めるニーナは数秒頭を傾ける。
「…しりとり…いいんじゃないの?」
「よしじゃあやりましょう!」
誰が見ても普通にしりとりを始めるように見えるだろう、だが各々は心の奥底で密かに考えを抱いていた。
(ちょっとでも俺の印象を良くせねば…)
(あの猫は馬鹿ね、バカがしりとりで勝てるわけないでしょ)
(あのチビと仮面、両方これでズタズタにしてやるわ)
「じゃあわたしから、しりとりの"り"で…りんご」
ヒナはちらりとニーナへ目をやる、ニーナは受けて立つかのごとく笑みを浮かべる。
「じゃあ次は私ね、"ご"…」
数秒の沈黙、ニーナの顔には汗が出ているようにも見える、まさかここまで頭が回らないとはだれが想像できようか。
「ご…
「"い"ですか、嫌 だね」
「…"や"と"ね"どっちですか、ししょ~」
「"や"でいいと思うが。」
「"や"…やかん…とか」
「ふっ…負けてるじゃない…っ!」
「あ゛!!」
ニーナは笑顔で次は私から、としりとりを楽しんでいた。
楽しんでいたはずだったのだが…
数分後
「…」
ニーナは焦っている、まるで自身の攻撃が通じない相手に出会ったかのように、汗が滴り視界は歪み始める。
「どうしたんです~"だ"ですよ~」
ヒナが煽るように言葉を投げてくる、どうする、ニーナの脳内で知りうる"だ"の単語はもはやない、頭が回らずどんどん訳が分からなくなっていく。
「だ…だ…」
「姐さん、大丈夫です?」
ハイドフェイスは気に掛けるがそれどころかではない、ニーナの脳裏にはナナとの思い出が瞬間的に甦っていった。
あぁ私はここで負けるのか…たかがしりとりで、年下に馬鹿にされ馬鹿を証明して負けるのか…
しかしそこにとある思い出が見えた
~回想~
ダンボールで作った家に帰ったニーナ、どうにか仕事先の先輩に手伝ってもらい作ったマフラーを持ちナナへと話しかける
「ナナ、ただいま」
「おかえりお姉ちゃん、手に持っているのは何?」
「首に巻くんだってマフラー、はいナナに」
ちょっと雑で正しい巻き方ではないがナナの首に赤いどこか粗造りのマフラーを巻いてあげる。
「ありがとお姉ちゃん!大好き!」
~現在~
「…はっ!!大好きだ!」
唐突な感情表現に驚愕するヒナとハイドフェイス。
「さあ!"き"よハイドフェイス!」
ハイドフェイスを指差し誇らしげな顔をしているニーナ
ハイドフェイスは慌てふためき口を開く。
「
「はい負けー私の勝ちね」
負けを避けたことを大喜びするニーナだがそれを帰って来ていたナナは楽しそうに眺める。
ニーナが慌てて楽しんでなんかない!などと弁解に必死になったりダンボールで良かったじゃんとナナに言われるのは、また別のお話。
_____________________________
とある研究所の一室、眼帯を付けた一人の少女は目を包帯で隠し車椅子に座った少女へ近づく。
車椅子の少女は本を読んでいて眠ってしまったのか膝の上に本があった、それを取り額に額を重ねる。
「大丈夫、お姉ちゃんが守ってあげるから」
部屋のドアがゆっくりと開く。
_____________________________
あとがき
遅いって本当申し訳ない。
取り敢えず第3話です、姉妹の絆ということでニーナとナナの昔の思い出話を少々入れてみたり。
最後の2人は次回で詳しくっと。
正直自分の中でこれ本当に楽しく読んでいただけているのか?読みやすいのか?もっといい書き方とか表現あったんじゃね?
みたいなのがあってどうにも遅れてしまった。
まあ完結は絶対させたいのでどうにか書いていきます、改善点というかアドバイスとかはどしどし書いてくださると有難いです。
まあ何時もの次回予告を入れて今日はおしまい。
次回予告
新たなる刺客、その姿はまるで…
銃弾の嵐と歪む視界の中ニーナを助けるのは!?
そして刺客を送る者達の正体とは?
次回 第4話[貴女達と私達は似ている]
気長にお待ち下さい!
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