第19話夢見る生贄(ひつじ)の視る現実(ゆめ)は②
「うわあああああああっ!!!!!」
ーーーがばっ、と。
光流は自分の悲鳴で跳ね起きた。
「・・・・・ぁ?」
覚醒したばかりの、やや霞がかったその視界に映ったのはーーー教科書が開きっぱなしのまま放置された勉強机、突き当たりの壁に飾られた少々色褪せた若いアイドル歌手のポスター、部屋の真ん中に置かれたガラス製のローテーブルと、その上に置かれた水色の陶製のマグカップ。
それらの全て、何もかもが見慣れた其処はーー紛れもなく、光流自身の部屋であった。
「僕の、部屋・・・・・?」
起き抜けの、未だ靄のかかった様にぼんやりとした頭を無理矢理に働かせ、光流は思考する。
ーーーおかしい。
何故、僕は自分の部屋に居るんだ・・・?
それに、一体何時、どうやって自分は帰ってきた?
少なくとも、光流自身に、自力で帰宅した覚え等一切ない。
そもそもーーー
「・・・僕、は・・・あの時、死んだ、はず、じゃ・・・?」
ーーーそうだ。
『あの時』、僕は死んだ筈だ。
あの金髪の少女と同じ様に、腹から胴を両断されて。
ーーーーそう、光流は今でも、しっかりと覚えている。
真っ二つに切り裂かれ、直に腹の切断面が触れたあの地面の冷たさを。
直ぐ隣に無惨に転がった自身の下半身を見た時の、あの心の全てを凍てつかせる様な深い絶望感を。
それらの全ては、未だ光流の記憶の奥深く、消えることなく焼き付いているのだ。
あの時、確かに死んだ筈の自分が、今、何故此所にーーー?
それとも、これが所謂、死の間際に見る『走馬灯』というものなのだろうか。
だとしたらーーー死の間際に見た映像が自分の部屋だけだったなんて何ともしょっぱ過ぎる。
或いは、この後昔の初恋の少女でも出てくるのだろうか。
そんな僅かな、少々馬鹿らしい位の期待を胸に若干抱きながら、光流はふとあることに思い至る。
「あ、そうだ、足・・・・・」
そう、先程飛び起きた時には余りに混乱していてそこまで考えが回らなかったがーーーあの時、上半身と断ち切られてしまった下半身は如何なってしまっただろうか。
そう考え、光流は毛布を捲ると中を覗きこんでみる。
すると、
「あ・・・くっついてる・・・・・」
あの時泣き別れた筈の下半身が、今はしっかり胴体とついているではないか。
一体、何故ーーー?
誰が・・・・・?
余りに無惨な死に方を晒した僕を憐れんだ神様の温情なのだろうか。
それともーーこれは僕の走馬灯だから、この中では夢や想像の世界の中の様に、僕が望んだ姿になれるということなのか。
だが、どの様な理由にせよ、己の下半身を取り戻せたということは、光流にとってはとても喜ばしいことである。
そこまで考えを巡らせた後、光流はふと思い付く。
(傷とかは・・・如何なってんだろう・・・・・?)
泣き別れた下半身が接着されているということは、自身の腹には相当大きな傷痕が残っているに違いない。
そう思い至ると、光流は、ふとーーその傷がどの様なものなのか見てみようという気になり、己が今来ている灰色のトレーナーの裾に手をかける。
と、同時にーーー
部屋の外、廊下の奥からぱたぱたと何やら急いで走っている様な、スリッパの足音が聞こえてきた。
しかし、寝起きで未だやや朦朧とした部分が残る上、昨夜の出来事や自分のことで頭がいっぱいの光流は気付かない。
すると、光流がトレーナーを腹のやや上、鳩尾辺りまで持ち上げた瞬間、光流の部屋のドアが、ばんっと勢いよく開かれた。
「光流くん!!今、凄い悲鳴したけど、だいじょうーーーきゃぁぁぁっ!!!!」
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