第5話 青痣
レクセンとケイは、汗を洗い落とし、更衣室で休んでいた。
いま、彼女たち以外には誰もいない。ケイが嫌がらせを受けないために、そういう時間帯を利用しているからだ。
だが常に人がいないとは限らない。その場合のためにレクセンがいた。
レクセン自身、人付き合いは下手で、人間関係が円滑とはいえない。
ロクシアの娘として寄ってくる人は多いが、ロクシアとはほぼ無縁と言えるくらい距離を置いている。すると、レクセンを利用できないと知り、さっさと離れていった。
好き勝手言われることもあるが、嫌がらせやいじめに発展しないのもロクシアの影響力である。
つまり、レクセンが一緒にいれば、嫌がらせも減るだろう、とボーデンがレクセンに頼んだ。
彼らが頼むということは、実際酷いことをされたことがあるんだ、と知った。
ボーデンやウォルフがもっとつきっきりになってかばうことも可能ではあるが、上の人間が一人に目をかけすぎれば、嫉妬や羨望となって、結局全てケイに返ってくる。
レクセンは頼まれずとも、ロクシアの娘という立場を利用してやろうと思った。
こんなものでケイの助けになるのなら、願ってもない。ロクシアに感謝したのは、これが初めてかもしれない。
ケイは飾り気のない下着をつけると、身体をほぐし始めた。鍛錬の後は毎回やっている。
片足を垂直にあげて両腕でかかえた体勢で、柱にもたれかかった。
そんな格好でそんなことしない方が、とレクセンは言ったことがあるが、ケイ本人はあまり気にする性質ではないようだ。
ケイと知り合ってまだ数日。新しい発見ばかりだ。
例えば、ケイの強さの源である、先ほどの鍛錬だったり。
例えば、きびきびとした動作、はつらつした表情は、少年みたいな印象だったり。
他に、ケイは自分のことを《青威》だと認識していたが、《青威》に関してはまったく知識はなく、非常に残念だったり。
あと、もっとも気になるのは、裸になるとはっきりわかる自分とケイの差だ。
男性の隆々とした硬い筋肉でなく、しなやかな筋肉をまとった柔軟な肉体。
背中、胸、肩の厚みがまるで違う。腰回りの引き締まりは、そこだけ見れば女性がうらやましがる細さはないが、さらに鍛えあがった厚みのある脚とお尻で、素晴らしいくびれができている。
レクセンがなんとなく描いていた理想の肉体を、さらに超えた形で体現していた。
だが代償というべきか、ケイには生傷が絶えない。
白い肌のため、青いアザや擦り傷が目立つ。
本人はこれもさほど気にしておらず、レクセンはもったいないと感じてしまう。
それに、さきほどショーンと話したせいで、ツンと張りあがったお尻に目がいってしまった。
(たしかにかわいい形してて羨ま・・・・って、わたしまで何を考えてるの!)
目をそらして変な考えを振り払ったが、すぐに目線を戻した。
そのかわいいお尻に、指先ほどの痣を見つけたからだ。
別段変わった傷ではなかったが、なぜそんなところにアザがあるか気になった。
「ど、どうしたの、それ?」
レクセンはお尻のアザを指さして思わず尋ねた。
質問したとたん、ケイは柔軟運動を止めて、ムッと口をとがらせてレクセンのとなりに座った。
「それがな、聞いてな」
ケイは不機嫌の内容はこうだ。
警護部の訓練は何も、素手による勝負だけではない。相手が銃を持っている場合の対処も必要である。
ボーデンが、元軍人という経歴を活かし、道具や場所をよく借りてくる。
そうそう出来る訓練ではないため、ボーデンはいつも以上に厳しくなる。
曰く、痛みがあるから一層訓練に身が入る。
そうして、防弾着をつけていない一番怪我をしにくい部位を模擬弾で的確に狙う。
それはもう、バンバン狙ってくる。これがとにかく痛い。
背後を取られて、バン。
索敵を失敗して、バン。
連携を間違えて、味方なのにバン。
「ひどいしょ!」
お尻を押さえて、身体を反らせて飛び上がるケイの姿を想像して、レクセンはお腹をかかえて笑った。
笑いが収まって、レクセンは謝ったが、ひと時もたたずにまた笑い出す。
ケイはますます口をとがらせた。
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