仮題
赤上七尽
第1話
目が覚めると、私はやはりここに居る。
何度見たかもしれない、夕暮れの草原。
私は小高い丘に立ち、眼下に広がるそれををただぼんやりと眺めている。
髪を弄ぶ風には微かに潮の香が混じっている。もしかしたらあの山の向こうにでも、海が有るのだろう。
別に興味もないし、恐らく知ることはないのだろう。私はこの丘にしかおらず、だからこそ王なのだから。
それに、海ならばこの赤い草原が私にとっての海だ。吹き抜ける風に騒めくここには波の音も、揺らぐ波間もあるではないか。ならばなにも不足はない。
ふと気付くといつの間にか地平の山に日は隠れ、代わりに濃い闇が這うようにしてすぐそこまで迫っていた。
帰らなければ、早く帰らなければ。あの玉座は私だけのものだ。
少しだけ目を閉じて、瞼に黄昏の熱を感じる。
「……不屈城ベル」
それが我が城の名。我が唯一にして絶対の領土。何人にも侵されえぬ、難攻不落の我が故郷、誉れ高き我が母よ!
仄暗い海へと踵を返し、私は帰路へと踏み出した。
私は城主オウル、狂いの古オウル、人喰いオウル。
然らば小さきものの王よ。真に誇り高き我が友よ。願わくば、また会おう。
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